狂人
ある人曰く、「お前は何を言っている。お前の名前は田中正輝だ。」と。
その語に対し田中正輝は言った、「あんたこそ何言ってんの?俺の本当の名、真名はイザヨイシャイニングだ!」と。
それは精神が過剰に闇に侵食される時期の事だった。
朝、田中正輝…イザヨイシャイニングは覚醒した。
「ここは!我が生命の灯火か…生贄を頂こう…」
光の差し込む事の無い暗室に点滅するランプ。それに照らされたメイド服を着た様々なフィギュアは埃にまみれる事は無く整備されている。
イザヨイシャイニングは、その暗室を縦横無尽に歩き出す。フィギュアを舐め回すような目、時間が経つにつれ大きくなる呼吸が食欲を抑制させる。
欲が少なくなったのかイザヨイシャイニングは暗室を後にした。
旅支度をし、玄関の扉を開け、
「いざ、参る!」と言い放ち走り去った。
おそろしく風の強い日だった。
おかげで雲はどこかへ流れ続けていて、澄み切った青い空が広がっている。
そんな空を眺めることがイザヨイシャイニングは嫌いではない。
イザヨイシャイニングは快晴とも言える天気に、ふっと柔に微笑んだ。
街は突如現れた変出者に閑散と静寂を漂わせていた。
呆気をとられたかのように口元を押さえる人々の視線の先にいるのは一人の男。
年は十五~六。身長は一七○くらい。ガッシリとした体型が目立つ眼鏡を掛けた男だった。
これだけ聞くと、普通の高校生にしか見えない。
だが、人々の視線を釘付けにする男が普通な訳がない。
確かに容姿こそは普通―――否、盛って中の下が良いところだが……ここで注目してほしいのは男の格好だ。
黒装束を身に纏い、腕に包帯をぐるぐると巻きつけ、左目に眼帯を着けている。
つまり眼帯の上に眼鏡を掛けている。
それだけではない、黒装束から覗かせるティーシャツには大事な所を隠している女キャラクターが印刷されていた。
しかしながら、残念な事に男、イザヨイシャイニングはその視線をものともしずに目的地に向かっていた。
それを見ていた警察官は呆れた顔で当然の様に無視をした。