EP1.6 夜道には注意しましょう。
行きはよいよい帰りは恐い・・・ですかね?
レオの月 18
夜。
私たちは依頼人が待っている待ち合わせ場所に向かうことにしました。
勿論今度は4人一緒です(相手は今頃どうしているでしょうか)。
その待ち合わせ場所はお昼に見た塔の下の噴水広場でした。昨日よりも少し肌寒さを覚えるのはどこか不穏な空気だからでしょうか。
「こんなところで待ち合わせか。」
広場は月明かりが差し込み、開けた場所になっていました。そこに馬車が数台見えます。
ここでもう一度依頼書に目を通します。そこにはキャラバンの護衛と書かれてあります。行先は
鉄鋼業が盛んな町、グランアイトという街です。
もちろんこれはただの依頼書でも依頼人でもありません。依頼書には商会で見つかった馬車と同じ、蛇の印のついた依頼書です。そして広場にある馬車にも蛇の印が付いていました。
バックヤードの馬車です。周りにいる人たちもバックヤードの人で間違いありません。
「そんじゃ、どうします?このまま正面からやれるっすよ?」
「これが本命じゃないだろう。あれも一部にすぎないはずだ。」
「それなら奴らから聞き出すというのも手じゃのう。」
普通に話ができればいいのですが、私たちは一度攻撃した側でもあるので、そうはいかないようです。
向こうも警戒しているに違いありません。
そういいつつも4人で広場へと近づいていきます。
「ん?誰か来るぞ」
男の人たちが何人か近づいてきます。それに合わせてアールさんが前に出ます。
「こんばんわ。夜分遅くご苦労様です。」
「お前ら、何者だ。」
「この依頼書を見させていただいたのですが。護衛だそうで。」
「ほう・・・見ない顔だな。」
「ええ。最近手伝いを始めたものですから。」
「しかたねぇな。1から教えるか。」
「ありがとうございます。」
アールさんはこういうのも得意分野のひとつです。前はそういう仕事もしていたといいますが、今はそれよりもこの馬車がどこへ行くのかが気になるところです。
私たちは彼らから荷物について詳細を聞くことになりました。
「こいつは今からグランアイトを襲撃するための馬車だ。」
グランアイトは砂漠を抜けたところにある城壁に囲まれた高低差のある街です。また、街も広く、街の中にも城壁があり、非常に堅牢な町です。周辺の土地では多くの種類の金属や素材が取れることもあって、職人や技師、商人たちが集まってきました。そのため、金属加工が盛んな鉄鋼業の街としてシェルハラでも有名な都市として知られています。
「これ全部ですか?」
「ああそうだ。こいつを夜中にグランアイトの城壁にぶつけて侵入する。」
恐らく、バックヤードの次の目的はこの街の金属加工品です。この街の商品には高額で取引されるものから、冒険者たちの武器や装備まで作られています。この装備がバックヤードの手に渡ってしまうと、活動がより活発になってしまい、被害を被る人たちが増えてしまいます。
「なるほど・・・中に積んであるんすね。」
「よく気付いたな。お前たちも死にたくないなら合図出すからそこで飛び降りろよ。」
幸い、彼らもこの馬車には乗り合わせるそうなので、私たちも同行します。
中に入ると馬車の奥に箱が積まれていました。
「あーそれ触らない方がいいっすよ。ドカンなんで。」
「爆薬か。」
「まるで馬車を道具のように使い捨てるのじゃな。酷い奴らじゃのう。」
「むむむ・・・」
「サーシャ。気持ちはわかる。」
私たちが馬車に乗り込んでから少したつと誰かやってくる声が聞こえてきました。
「おう。準備がはえーな。いいこったぁ。」
「兄貴!」
「依頼人ってのはどこに入った。」
「あの馬車です!」
「お前ら!準備は出来てるんだろうな!」
兄貴と呼ばれた人を見ると背丈は2メートル近くある大柄な人で、背中には背丈ほどもある剣が収められていました。その隣には細身の人で全身を灰色のローブで覆われており、顔はよく見えませんでした。
「今日は派手にやるぞ!アゾットの野郎がしくじったからな!」
「おおー!」
一斉に声を上げると同時に馬車が走りだしていきます。
「後はこのままグランアイトの街まで直行っすね。」
**{ }**
それから10分ほどたちました。地面が少しずつ緑が増えてきました。砂漠を抜け、街道へと入っていきそうです。
「グランアイトまでもう少しだな。」
「さて、どのタイミングで奇襲するのじゃ?」
「そうっすねぇ。馬車がどこにあるか次第っすよ?」
「全部。」
「全部?」
「私たち以外の馬車はすべて後方を走っている。距離は100mくらいか?。」
「え・・・?」
荷台から顔を出して前を見ると、何もありませんでした。
そうです。私たちは一番前を走っているのです。
真っ先に爆破されそうです!
「ど、どうしますか!この配置だと私たちが真っ先に!」
「マジっすか。」
ヘイズさんが外に出て様子を見に行きました(この状態でよく外に!)
「あっ!誰もいないっすよ!」
「ということはこの馬車には私たちとこの爆薬だけか。」
「つまり・・・私たちは・・・」
「ただの捨て駒。」
なんということでしょう。まさか受けた依頼でこんなことになってしまうなんて!
と、他の人がならなくてよかったです。そこはシエスタ。そう簡単にはやられませんよ。
「アールさんは後方の馬車を止めてください。出来れば車輪を狙ってあげてください。」
「それでも十分だ。馬には悪いがな。」
「ティアラちゃんはすぐに交戦できるように準備を。」
「久しぶりじゃのう!あ、飛び降りる準備をするのじゃぞ?」
「ヘイズさんは合図を出したら馬だけ切り離して離脱してください!」
「了解っす!いつでも行けるっす!」
後はタイミングです。これを間違えなければ・・・!
「城壁確認したっす!」
「あ奴ら、距離をとったぞ!」
「逃がしません!アールさん!」
バシュン!
すかさず、アールさんに攻撃命令を出します。アールさんはすぐに結晶体を5つ作り、車輪めがけて一斉射撃。全てが車輪を砕き、馬車が一斉に横転します。
バシュン!バシュン!
ガン!ヒヒーン!ガラガラガラ!ぐわーっ!
馬車が崩れると同時に中に乗っていた人が放り出されていきます。
「くそっ!前の奴ら何してんだ!」
「馬車から出ろ!あいつらをぶっ殺せ!!!」
「フェイレス。無事か?」
「私は問題ありません。むしろプランが崩れた方が問題では?」
「相変わらずつまらねぇ男だな。」
馬車が崩れるのを確認した後、ヘイズさんに合図を送ります。
「今です!降ります!」
「了解っす!」
ガキン!
ヘイズさんが合図とともに馬に飛び乗って馬車から離れます。私はティアラちゃんとアールさんと一緒に馬車から飛び降りると、赤い魔力瓶をガントレットに装填し、木箱に向かって発射します。
ヒュン!シュボッ!
火属性の魔力瓶です。要は、木箱に引火させ、城壁にぶつかる前に爆破させてしまいます。
ボン!
体の芯まで響くような振動と共に爆発音があたり一帯に響き渡り、爆風で吹き飛ばされそうになります。ヘイズさんは少し体制を崩しましたが何とか無事のようです。それにしても凄い破壊力です。もし、このまま乗っていたら私たちはひとたまりもなかったはずです。
「すいません!早かったですか!」
「いやー久しぶりに馬乗ると、慣れないものっすねー!」
ヘイズさんは何事もなかったかのように笑顔で答えてくれました。これはこれで結果オーライです!
「ヘイズも久しぶりといいつつ乗れてるじゃないか。サーシャ、上出来だ。ここまで予定通りだ。」
「さーて後は片付けの時間じゃな。」
馬車のほうを見ると馬がどこかへ走り去っていくのが見えました。どうやらアールさんは車輪だけではなく、留め具も壊してくれたようです。体勢を崩し、転んでしまった馬もいましたが、全員命にかかわるようなけがはしていなかったようです。
4人で馬車だったものに向かいます。瓦礫のように崩れた馬車の中から必死に出てくる人たちも見えます。
「お、お前ら!何のつもりだ!」
「でしたら、私が答えましょう!」
小さく深呼吸して一言。
「シエスタ。これが私たちです!」
「あ、あのサンドイッチ屋か!?」
「その通りです!というわけで成敗しちゃいます!」
と私がガントレットを構えた瞬間―
「展開。障壁。」
ガンッ!
突然巨体がこちらに突っ込んできました。しかし、アールさんの結晶体が壁になって防いでくれました。
「ほぅ、流石にはえーじゃねーか。お前さん、魔術師か」
「そういうあなたは確か、バックヤードのリーダー。確か名前はボルゲン・ガーランド・・・でしたか。」
「俺の事を知っているとはな。ありがたいぜ!」
ボルゲンはこちらに突撃する際に背丈(ボルゲンも2mくらいある大柄な人ですよ!)ほどある大剣を結晶体に衝突させていました。さらに力を入れたようで結晶体が少し押されているようにも見えました。
「どうしたぁ!この程度かぁ!」
「そうだな。私一人だとこの程度だ。だが、改めて確認してもらいたい。私一人でこれだ。」
そのスキにガントレットに魔力瓶を装填します。今度は紫ですが、相手の行動を鈍らせる鎮静毒です。
私のいた場所が植物も豊富な土地だったので、薬草から毒薬まで幅広い知識を得ていました。
「横から撃て。」
「はい!」
私はアールさんに言われた通り、ボルゲンの左に回り込むようにして走り、ガントレットを握ります。ガントレットからは紫色の魔力瓶が勢いよく発射されボルゲンに向かって跳んでいきます。このまま飛んでいけば、ボルゲンの動きを止められますが、
キンッ!
瓶が何かに弾かれました。よく見ると細長い銅色の剣で、視線を移すとそこには細身の男の人がいました。左腕には鞘がベルトで固定されており、ここから抜いて弾いたようです。弾かれた魔力瓶は、明後日の方向に飛び砕けました。
「すいませんね。彼にはまだいろいろやってもらいたかったので。」
「こいつ速かったっすよ!」
確かに、先ほどまでどこにいたのかわからなかった人です。魔力で気配を消していたのかはわかりませんが、まずはこの人をなんとかしないといけないようです。
アールさんはまだボルゲンと競り合っています。
「中々しぶといじゃねぇか。」
「思ったより血の気が盛んな獣だな。北にもこういうのはいたが、それにしては頭がいい。剣を使うのは初めて見た。」
「手伝いましょうか?ボルゲン?」
「うるせぇ!お前はとっととすっこんでろ!」
「逃がさないっすよ!」
ヘイズさんが私の頭上を飛び越えてナイフを3本投げました。さらに着地と同時に細身の剣士に向かって跳び、一気に通り過ぎます。その時、きらりと光るものが見えました。
シュッ!ピッ!
「ワイヤーか!」
ヘイズさんの放ったナイフの持ち手にはワイヤーが撒かれており、剣士の皮膚を次々とかすめていきました。かすめたところから血が流れていきます。剣士はワイヤーに引っかかって地面に倒れました。
「あなたも中々のようですね。彼とは別の方向で・・・!」
「隊長のこと知ってるようっすね。」
「ええ。・・・あとであいさつでもさせていただきますよ!」
その瞬間、剣を左に持ち替え
スッ
剣の一振りでワイヤーを切断してしまいました。そのままヘイズさんに向かって切りかかりに行きます。
私はすかさず、紫色の魔力瓶をもう一度発射します。
「同じ手は通用しませんよ!」
再び剣を振ろうとしていますが、
「もう一発!」
今度は何もないっていない空の瓶を発射しました。空の瓶はそのまま魔力瓶に衝突し、
パリン!
魔力瓶は剣にあたる前に砕けてしまいました。中に入っていた魔力が一瞬にして周囲に散布されました。
「毒・・・ですか。」
しかし、効果は全くなかったのかそのままこちらに振りかかってきます。
「効いてない!」
私に剣が向けられ、万事休す!
「サーシャ!伏せるのじゃ!」
ガコン!
「何っ!」
背後からティアラちゃんがものすごい勢いで飛び込んできました。そのまま右手で拳を握ると、黄色い炎と共に剣に向かって殴りかかっていきました。
ガキィン!ドゴッ!
「うっ!」
剣士ごと殴り抜けたティアラちゃんはそのまま左手でもう一発。今度は上から瓦礫の山にたたきつけました。
ドゴッ!バギィ!
「少し・・・甘く見すぎていたようですね・・・。」
剣士はそのまま気を失いました。あとはボルゲンです。しかし、
ドンッ!バリン!
「おっしゃああ!!!」
ボルゲンが結晶体を割ってしまいました。アールさんは体中に裂傷ができ、その場に膝をつきました。
「っ!」
「アールさん!」
ボルゲンはさらに追い打ちといわんばかりに大きく剣を振りかぶり、アールさんに振り下ろします。
刀身は月明かりの下で赤く光り、そのまま残像となって
「くたばれぇぇぇぇ!!!!」
「ぬ!間に合わんぞ!」
「隊長!」
ドゴォ!
剣は勢いよく地面に激突し、衝撃波で周囲の物を吹き飛ばしてしまいました。更に爆風も発生し、私たちは耐えるのがやっとです。アールさんはどうなってしまったのでしょうか・・・。
「アールさん!」
「はっはぁ!所詮は北の時代遅れどもってことか!そんなんで俺に勝てるとでも思ったか!」
爆風が止むと結果は一目瞭然でした。
「・・・。」
「あ、アール・・・さん。」
ブシャッ!
「が・・・・ぁ・・・」
「すまない。とっさの出来事だったから自己防衛に走った。許してくれ。」
そこには少し土煙を被ったアールさんと
「お・・・お・・・・のれ・・・」
右肩がなくなったボルゲンがいました。剣は地面に突き刺さり、体のいたるところに撃たれた痕が残っていました。今の一瞬で勝ったのはアールさんでした。
「魔術師に関して一つ、授業をしよう。」
「な・・・なんの・・・つも・・・」
「静粛に。まず一つ。魔術師の起源は旧世代初期である。魔力の発見から始まった魔術師という存在は、今もなお、北方グランパレスの一大文化として根付いている。当時は魔法や術式の使い方に決まった理論はない。そのため、使用者の技量だけが唯一の強さの指標だった。」
「う・・る・・・せぇ!」
ボルゲンの横を歩き、背後に立ちます。ボルゲンはそれでもアールさんを左腕で握りなおした振りぬこうとしますが、
シュン
アールさんはその場で白い雪のように光って消えました。次に現れたのはボルゲンの目の前です。
「しかし、後期になってグランパレスは魔術理論体系を確立した。それは、魔力量の大小をも強さの指標として適用することができるようになる画期的な出来事だった。私もその確立に携わったのはいい思い出だ。そしていま使用しているのは、現代において新しく確立された魔力運用理論の一つだ。」
「つまり・・・何が言いたいんすか?」
アールさんはヘイズさんの方を見て笑顔を見せると
「魔術師は、時代遅れではない」
そして右手を軽く握り
「では、ボルゲン・ガーランド。そう遠くない未来、多分その時に」
右手を開く
「また会おう。」
バシュゥン
結晶体のビームはボルゲンの体を貫きましたが、外傷はありませんでした。その代わり、凍り付いたようにボルゲンは体勢を変えることなく倒れました。アールさんの必殺技の一つ、プリズムレイです。これは、結晶体の魔力を最大限に圧縮し放つ攻撃で、外傷は残さずに倒すことができるうえに魔力耐性のない人は魔力奔流と呼ばれる魔力が不安定な状態が体内で発生し、活動停止してしまうそうです(かといってこれで死ぬわけではないのですが、次に起きた時にまともな状態で生きている保証はないとのことです)。
腕を吹き飛ばすのも、ここまでとどめを刺すのも、アールさんだからできること。
アールさんの凄いとこをでもあって、アールさんの一番悪いところです。
「アールさん。」
だから私は、
「なんだいサーシャ。」
カチッ
「わかっていますね?」
「・・・ああ。今回も許され」
バン!
シュー・・・
アールさんにお仕置きすることにしました。
こんにちは。電波式廃墟少年です。
今回は文字数増やしすぎましたが、書く側も大変ですねこれ!
今までいろんな小説を見てきましたが、描写が細かくて素晴らしいと思いました。
私もあれくらい書きたいと思うのですが、この先文字数を増やしていけばいいってわけでもなさそうですよね。
もう少し情景を細かく、イメージしやすいように書いていけたらなと思っております。
では!次回!といいたいところですが、ロストワールさんどうなったんでしょうね?