EP1.2 How to hand out 9000 Flyers
私たちはただのサンドイッチ屋ではない。ちゃんとしたギルドである。
しかしそれを知ってもらうのはあまりよろしくない。
知ってしまうと、私たちは貴方にサンドイッチを配れなくなりそうだ。
印刷所を出て私たちは講演会の会場となる街の文化会館へと向かった。
その前にローレン=ツァーリについて話をしておこう。
ローレン=ツァーリ財閥とは国からの支援を受けたシェルハラ最大規模の商会ギルド(何故か財団ではない。それは後で本人から聞けるだろう。)である。国中に支部を構えており、そこを介して様々な物資の輸送を主に行っている。
また、他の商会ギルドに対しての支援も請け負っており、砂漠に覆われた過酷な環境下でもキャラバンが安全に活動できるのはこのギルドのおかげといっても過言ではないだろう。
勿論、ギルドということもありギルドマスターなる人はいる。その人物が今回の講演会で講師を務める人物だが、何分久しくあっていないこともあり(なんで顔を知っているのかというのはいつか話そうと思う。)少しばかり楽しみでもある。
彼女は今も席にふさわしい振る舞いをしているだろうか。
文化会館は少しばかり遠かったがまだ昼時ということもあり話す時間は少なくはなさそうだ。
そのかわり、暑い。いつものことだが、このシェルハラは国土の大多数が砂漠で構成されているが、それとは別に気温が上がりやすい環境でもある。南の方が暑いと思われがちだが、西のシェルハラはユニオンフィールドで最も温暖、いや暑い地域である。
「たしか、ここのはずだな。」
近くに設置された掲示板には講演会のポスターが貼られていた。
「早速会いに行くか。」
「あ、はい!」
**{ }**
中に入ると受付に講師の居場所を尋ねた。が、そこはやはりそう簡単には通してくれないそうだ。
これが普通なのだが、私には別に手段がないわけではない。
実は今回の講師とは古い知り合いでもある。どれくらい古いかを言ってしまうと・・・おそらく1世紀ほどか?
チラシを1枚取り、裏に書き込む。
「すいませんが、このチラシを渡していただけないでしょうか。」
「はい。」
受付の人から近くの職員に手渡されたチラシには円とその下に六角形のマークが書かれている。
恐らくこれを見たら顔くらいは出してくれるだろう。
「これでいい。少し待つか。」
「待つ・・・?」
「そうだ。あとは時間が解決してくれる。」
そこで私たちは近くの椅子に座り、時間が来るのを待った。
**{ }**
3分ほどたって時間は来た。思ったよりも時間はかかった方だ。
遠くから一人の女性が走ってくる。
青のドレスコートを着た紫髪で先端が白い女性だ。見慣れているとはいえ大丈夫なんだろう。
(ドレスコートの生地が薄めとか聞いたが実の話見た目は暑そうなのだが。)
「ああ!いましたわ!」
「あの人ってたしか!」
「相変わらず元気そうじゃないか。ゼノヴィア・ローレン=ツァーリ。」
「貴方という人は相変わらず嫌いと言い続けながらよく使ってますわね!」
「そうじゃないと君は気づかないだろう?少なくともあれが私を証明するに確実性と簡易性に優れたものだと思うが?」
ゼノヴィア・ローレン=ツァーリ。ローレン=ツァーリ財閥のギルドマスターにして数少ないかもしれない私の友人だ。もともとは同じく北にいたのだが、とある事情で私たちは西に来ていた。
私はサンドイッチ屋で働くことになり、彼女は一族で管理していた財閥をギルドとして作り替え、ギルドマスターとして活動してる。
恐らく、この街でも何らかの活動をしたいがために講演会を開いたのだろう。彼女の事だから何も悪いことを考えているわけではないだろうしな。
「それで、いったいどういう話ですの?」
「君の講演会のパンフレットにこのチラシを挟んでもらいたい。」
チラシの山を叩く。
「・・・まさかとは言いませんが」
「安心してくれ。君を呼ぶのに1枚使ったから残り8999枚だ。」
「それでも問題大有りですわ!まさかとは言いませんがいつもの嫌がらせというわけではありませんわよね!」
「そうだとしたら今頃こうして話している間に君の控室に送り付けている。今回ばかりはこちらがミスをしてしまったところもあるがな。」
「ごめんなさい。私がもう少し気を付けていれば・・・。」
「あら?その子は?」
そういえばサーシャについてはローレン=ツァーリには話していなかったな。この際だからサンドイッチ屋の宣伝ついでに覚えてもらおう。
「私が働いているサンドイッチ屋のオーナー。サーシャ・ノスタジアだ。」
「初めまして。」
「ええ。初めまして。ゼノヴィア・ローレン=ツァーリですわ。ローレンでかまいませんの。」
「というわけでだゼノヴィア・ローレン=ツァーリ。」
「貴方もいい加減その呼び方辞めていただけます?」
それから少しばかりチラシのいきさつとかそういうことを話した。
「そうですわね・・・。これはちょうどいい機会ですし、あなた達のチラシこちらで配らせていただきますわ。」
「そうか。それはありがたい。」
「ただし、こちらもただでは配りませんわ。」
「その条件とは!」
ノリがいいのはサーシャのいいところだ。
「私の講演会を中止しろという手紙が届いたのですわ。勿論、止めなければ相応の対応をするそうですわ。しかし!明日の講演会はこの街のためになることを絶対提供しなければならない!そこで!あなた達にこの手紙の犯人をとっちめて街の人を安心させたうえで講演会をさせてほしいのですわ!」
「ふむ。君も今の状態だと身動きがとりにくいようだ。流石に講師、それも重要人物の一人でもあるからな。」
「この立場でなければ今すぐにでもこの剣で大衆に晒上げるつもりでしたのに!」
「(かなり攻撃的だこの人!)」
流石元というだけはある。それもそのはずだ。私たちはかつてそう教えられてきたこともある。
「期限はそうですわね・・・講演会直前までですわ!」
「わかった。昼の12時。1日以内。いや、今夜中というところか。」
「そ、それなら今すぐにでも探さないと!」
「残念ながら私からは酒場の近くとしか言えませんわね。」
「いくらでもあるだろう。そこから探せと?」
「貴方でしたら一瞬でしょう?時間が惜しいなら今すぐ行動するべきですわ!」
そういわれ、手紙を押し付けられる。返す言葉は変わりないが。
「了解。」
相変わらず容赦のない人だ。まぁ、それにしても彼女には相応の人望がある。可能な限り望みは叶えるが、ノーとはっきり言うこともできる。人のつながりを第一に好む彼女にとって人望の有無は命よりも重いという。お金に関しては命の次に大事なものの次らしい。
「では、失礼。」
どうやら、少しばかり仕事をしなければならないようだ。
平穏に終わらせてくれる相手であることを願って。
「待ちなさい!この8999枚のチラシをここに置いてどこに行くというのですの!」
**{ }**
私たちはローレン=ツァーリにチラシを渡すと酒場の集中している地域へと向かった。それは街の大通りの北に位置する場所だった。此処には国営のギルドがあるらしく、メンバー達がすでに数多くいた。
少し日が傾いてきた位だが、既に飲み始めている人もいる。サーシャにとってはあまり見せたくない光景だ。品がない奴もいるからな。近づいてきたらその手に穴でもあけようか。そうしよう。彼女の身は店から預かっているからな。
早速手元に先端が三角形になっている青く透明な六角柱を手元に浮かばせる。右手の平の上に片手で持てるサイズの表面が多結晶模様の結晶体が浮かび上がる。(今後は結晶体と呼ばせてもらう。)
「送信。音声。・・・よし。」
『ん?隊長っすか?今どちらに?』
「ああ、少しばかり仕事が入った。明日の講演会に脅迫状を叩きつけた人物を探し出してもらいたい。」
『あの財閥の講演会っすか?お店もその話でもちきりなんで今からお店閉めて探してみるっす。』
『なんじゃ、もう仕事が入ったのか?早いのう。』
『ティアラも協力してほしいっす。』
「そうですね。この街での最初のお仕事です!」
『うむ!おぬしがやる気ならわしらも手を抜けんのう!』
「全員の同意を確認した。これより、活動を開始する。各自。よろしく頼む。」
「私たちは依頼人の話をもとに北にある通りを調べてみます。」
『んじゃ、俺は周辺から調べてみるっす。』
『わしもついてゆこうか。』
「では、何かあり次第各自連絡すること。以上。」
通話を終えると同時にパキンと音を立てて結晶体が砕ける。数人がそれを見ているが大したことではない。
「では、行こうか。」
「はい!まずは聞き込みですね!」
私たちは手紙をもとに、聞き込みを行った。どうやらこの街にはキャラバンと似た系統の商人たちがいるらしい。裏で非合法な取引も行っているそうで、今回の講演会に対して何らかの対抗策でも考えたのだろう。
彼らの名前は「バックヤード」というらしい。彼ら、というのはキャラバンのように取引をしている人たちの集まりの事をバックヤードというそうだ。この街以外にもどうやらバックヤードというのは居そうだ。
残念ながらこれを知っているのは商人の中でも一部の人間で、ギルドのメンバーたちは一切知りえない。
それもそのはず。先ほど立ち寄ったギルド全てでそういったバックヤード関連の以来というのが一切来ていなかったのだ。(ゼノヴィア・ローレン=ツァーリも出していないところを見ると隠している可能性もある。)
「今回の敵はバックヤードですね。」
「今後だろうな。おそらく他の街でも似た連中とはぶつかることになる。後で連絡しよう。」
酒場を後にすると日が沈み始めていた。次は市場に向かった。ちょうどたたむ時間のはずだが、なぜか今からお店を切り替える人、お店を開ける人がいる。
私は近くのお店の店主に話しかけた。
「すいません。今からお店を開けるのですか?」
「ああそうだ。キャラバン向けの品物を売るんだよ。旅の道具とかね。」
そういわれ棚を見ると、そこには水筒や地図、ラクダにでも呑ませるであろう食糧などがあった。他のお店にも着替え用の衣服や道中のお菓子などを売るお店もある。
「わざわざ夜にキャラバンを走らせるわけじゃないぞ。早朝から出れるように準備するんだ。早朝にはこういったお店は開いてないし、今のほうが金をたくさん出してくれるからな。」
酔った勢いでか。面白い売り方をする。それにしては商品の価格が少し安い。これも買いやすくするための工夫だろうか。
「なるほど。つかぬことをお聞きしますが、バックヤードをご存知ですか?」
「なんだ。知ってるのか?」
「貴方もですか。」
「その、バックヤードってどこにいるんですか?」
すると店主が耳を貸せと言わんばかりにジェスチャーをとる。
「あんたら、ギルドの人間か?」
「一応そういうことにしてください。」
「そうか。なら、あまり探し回らない方がいいぞ。」
「どうしてですか?」
「あいつらは一度目を付けた敵は延々と追い掛け回すらしい。それに、この街以外にも情報網があるらしくてな。下手すると生き残ってこの街を出ても他の場所で狙われかねないぞ。」
「でしたら好都合ですね。こちらも好都合・・・なので。」
「おいおい正気か?」
そうだ。好都合だ。闇取引をしているバックヤードを少しでも摘発できればそれだけで報酬が来る。
この際ハチの巣をつついて蜂を踏みつぶし、蜂蜜を譲ってもらうようにしよう。
トーストにもハチミツというのは相性がいいと聞く。一度食べてみたい組み合わせだ。
「あいつらなら、確か今日集会があるらしくてな。そこの通りの裏に或る廃屋でやるらしいぞ。時間は・・・あと二時間後だな。」
「ありがとうございます。」
「さて、貴方は私たちにその話をしてしまったが。」
「そ、それがどうした。」
「いえ・・・お気になさらず。貴方の情報は役に立ちそうですよ。」
「それならついでにあいつらを追っ払ってくれないか?」
「なるほど。そのためにこんな話を。」
「ああそうだ。俺の仲間があいつらに不当な借金を背負わされてるんだよ。何とかしたかったんだ。」
「それでしたら私たちにお任せください。」
「た、頼む!」
仕事が増えた。やることは変わらないから問題はない。
「さて、サーシャ。」
「はい。アールさん。」
二人で一度ワゴンに戻ることにした。
そのついでに結晶体を浮かばせる。
「ヘイズ。ティアラ。招集だ。仕事の時間だ。」
こんにちは。電波式廃墟少年です。
今回はゼノヴィア・ローレン=ツァーリという人物が追加されましたが、
今度も何度か顔を出す人物なのでギルド名ともども覚えてもらいたいです。
さて、次回はこの四人が割とあっさり活躍しちゃいます。
何というか序盤だし無双しちゃったらごめんね。