Ep.0-0 The Befor Day
必ずしも主人公が第1話目から主人公と分かるような出方をするとは限らない。
ミノトゥ 24
~ある場所にて~
今日も雪が降っていた。
目の前には年老いた老人がいる。禿頭で短い白髭に右手を当て肘をついている。
目は黒く、こちらをまるで興味津々といったばかりの眼で見ている。
「そうか。君はそういった選択肢をとったと。」
私はそれにただ答えるだけ。彼の言葉に回答をするだけ。
「ええ。この場所もじきに寂れていくんでしょう?」
「そうだな。私たちはそろそろ長い旅をしなければならないようだ。」
「残った人はもう私たちだけですよ。」
部屋の中央で立ったまま向かい合う。老人は私より頭一つ低い。
周囲には壁があり上には階段状に数千もの椅子が私を囲うように並んでいる。
席には誰もすわっていない。
視線を上にあげれば、空が見える。雪が降っている。
「それで、行き先は決まっているのか?」
「まずは西の公国に行こうと思います。」
「シェルハラか。君にとっては地獄のようなところではないのか?」
「生まれてこのかた、一度も行ったことがないもので。」
老人は不安そうにこちらを見てくる。しかし、それがどうしたという。
昔から私たちに"不可能"はなかった。あなたもその一人だったはずだ。
「確か西には( )がいたな。もし何かあれば彼女を頼るといい。」
「( )ですか。そうさせていただきます。」
それから少し場所を移した。この部屋を出る。背丈の倍ある木の扉は砕けて床に散らばっていた。
外に出ると石の箱が立ち並び、雪がその上に積もっている。
馬車の荷車がいたるところに残っているが、すべてが損傷していた。
「あれから5年か。君は長くいすぎたものだ。彼らの中でも若い方だというのに。」
「そんな下らないことばかり言うとは。」
老人を差し置いて道路を歩いていく。
数分歩いて大きな煉瓦造りの門につく。そこまでは石の箱と馬車とわずかばかりの出店があったくらいだ。
「私はここまでのようだ。あとは好きにするといい。」
「こちらこそ貴方のような人と別れられてせいせいする。」
老人は来た道を引き返していく。
まるでここから外に出られないような。門は開いている(そもそも扉なんてものはなかった)はずだが、
それでもここから出られない運命なんだろう。出ようとすれば何かが引っかかる。
私には関係のないことだ。
だが
せめて
この言葉を言ってもいいのなら―
「( )」
老人の名を呼ぶ。彼はすでに遠くまで行っていた。人とわかるギリギリのところで振り返る。
「そう遠くない未来。貴方がここを出た時、」
「また会いましょう。」
**{ }**
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気が付くと私は寝ていたようだ。汗をかくほどの暑さ。いや、いつ死んでもおかしくないほどの暑さ。
恐らくいつものように死にかけていたのだろう。
周囲を見る。
手元を見る。
人を見る。
自分の名前を静かに唱え、一言添える。
室内には調理に使いそうな設備や道具が整頓されていた。通路を歩き、テラスに出る。
そこには見知った少女がいる。
「あ、起きましたか?」
「おはよう。というにはもう昼か。」
「朝から停止するとは思いませんでしたよ。いま、サンドイッチ用意しますね。」
「すまない。」
テラスの外は一面の砂。そしてキャタピラが轟音を立ててその上を泳いでいく。
テラスには組み立て式のテープルが4つと折り畳み式の椅子が4つ1セットで4セット。
テラスは木目を有しているが、歩くと金属音がする。樹鋼と呼ばれる独特の木目をした金属だ。
3辺を木柵で囲まれ、背後にはコンクリート製の家。
家の中には寝室と調理場が1つの部屋に集約されている。2人で過ごすなら何とかなる。
テラスもそれなりの広さを持っている。人を4,5人は座らせてもいいだろう。
柵の向こう側には、砂に跡が残っていく。
私が部屋に戻るとテーブルにサンドイッチが置かれていた。
食パンにレタスと昨晩取ったばかりの肉がスライスされて挟まっている。
この肉はデザートラートという砂漠にはたまにいる80cmほどの魚だ。砂の中を泳いで暮らしている。
保存食としては優秀で、体力も付く。砂漠を渡る人たちの主食だ。
サンドイッチを食べながら、部屋の奥に話しかける。
「ヘイズ。次の街まであとどれくらいだ。」
「ちょうど時計塔見えてきたところっす。あと5分っすね。」
「なら、準備しておくか。君も到着したらサンドイッチを食べるといい。」
「どもっす!」
ヘイズ。元々彼は義賊として名の知れた人物だったが、ちょっとした訳で私たちと旅をしている。
そしてもう一人、先ほどサンドイッチを作ってくれた人。名前はサーシャ。
もう一人人間と竜のハーフである人竜の民のティアラという・・・まぁ幼女か。
最後に私。この4人でサンドイッチを売りながらとりあえず旅をしている。
そう。とりあえず。今の私たちにこれといった目的があるなら、多分サンドイッチをおいしく食べてもらう。
実の話、これしか思い当たらないのだ。正直それでおしまいだ。
しかし、それは今の私たちだ。
この言葉については近いうちにゆっくり話でもしよう。
街の周囲には3m程の石の壁が並んでおり、そこに数か所関門がある。
簡単な入場手続きをサーシャが済ませると、再び動き出す。
関門の看板を見るとそこには<コオツ>と書かれていた。この街の名前だろう。
街中には私たちのような乗り物(正式名称はテラスタンク。家などが載っている履帯駆動の車両。
我々のは4本ついたタイプだが、上部と履帯部は独立しており、上部の向きを維持したまま回転できる。)は
珍しいのか、道行く人がこちらを見てくる。(幅は一般的な車両2台分だが、道路はちゃんと対向で走れるくらい広い。
テラスタンクはこの街では一般的ではなくても国全体で見たら一般的だ。)
手ごろな広さのある空き地があったのでそこに止める。
私たちの物語というのは(おそらく誰でもそうだろうが)こういった何事もないところから始まる。
こんにちは。・・・こんにちはでいいんですかね。電波式廃墟少年といいます。
1回目なので記念に。
一応この物語の登場人物とか世界観とかそういったことは一つずつゆっくり書きたいので、
まずはお話をと。あ、何かコメントしたいことありましたらお気兼ねなくといった感じで。