07 七回目。
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雪ですね!
通勤通学の皆様、お気を付けて!
今日も四月十三日の金曜日。土曜日は来ない。
バスルームに行って、顔を洗う。歯を磨きながら、ストレッチをした。髪をブラシでとかしながら、バスルームを出てクローゼットを開く。
鏡に映る姿の姿を見ながら、制服のドレスに着替えた。
手が震える。何故だ。何故なんだ。
「……ローガン先生に会って、図書室で呪文をメモる」
私は予定を力なく呟いて、クローゼットを閉じた。
私は寮の部屋から飛び出して、坂を上がった場所に聳える純白の学園に登校する。
その校門前にエリオト・ハイマティーテースが待ち構えていた。
「おはよう。ペリドット。収穫はあったか?」
収穫だって?
妙なものを得たわ! 告白というものなんだけれど!
「どうした? 面白い顔をしているぞ」
「私は面白くない」
「ふむ、何があったんだ?」
尋ねながらエリオトが歩き出す。
そんな彼の腕を掴んで止める。
「ちょっと。ちょっと、待って」
「何故だ」
「ここで少し立ち話をしましょう。そう言えば禁忌の魔導書の閲覧記録は、どうだったの?」
「ん?」
不思議がるエリオトは、首を傾げた。
そこで玄関を横切るサピロスが目に入る。
「ペリドットちゃーん! おはよう!」
私を見付けたサピロスは、手を大きく振った。
「ハァイ、おはよう」
「え、あ、うん。おはよう……」
テンパって私は、作り笑顔で挨拶を返してしまう。
いつもの態度じゃないから、サピロスが戸惑う反応をする。
平然を装うべきだった。
「はっはーん。なるほど。奴と何かあったのか」
鋭いエリオトが言い当てる。
サピロスはそれを聞き取らず「エーレ!」と親友のエレクトロン・ターリの元に行った。彼は毎回、エレクトロンを見付けて私とぶつかっていたのか。
エレクトロン・ターリは、学年一位の男子生徒だ。
「何があったんだ? 思わぬ告白をされたのか?」
「なっ!」
ボンッと顔が爆発したみたいに熱くなる。
「ははっ、わかりやすい」
見ないでほしい。もうあれもこれも見抜こうとしないでほしい。
私は顔を覆って隠した。
「そう真っ赤な顔でオレの目の前に立つな。勘違いされてしまうだろう?」
耳元で囁いてきたものだから、驚く。
「オレと君が恋仲だって、な」
その言動が、余計私を赤面させているとわかっているのだろうか。
顔を上げて見れば、不敵な笑み。
わかっている、この人。
「さぁ。ローガン先生の元に行くがいい。どうせまだ呪文を覚えていないのだろう? 告白が衝撃的で」
「っ!」
背中を押される。馬鹿にされたことに震え上がった。
でも言い返せなくて、悔しい思いをしながら、玄関に入った。
真っ直ぐ向かう職員室。その途中でダークブラウンの巻き髪と黒いローブを羽織った後ろ姿を見付けた。
「ローガン先生!」
「ん? おはよう、ペリドット・ガルシア」
「おはようございます」
「なんだ、機嫌が悪いな。何か嫌なことでもあったのか?」
「ああ……いえ。いいんです。それより相談したいことがありまして」
ローガン先生に肩を竦めて見せてから、お決まりになった会話をする。
やっぱりローガン先生は覚えていない。
「なんだ?」
そう優しい笑みでローガン先生は促す。
同じ日がループしているのだと話した。自分はそれに気が付いたのだ。
そして七度目の相談で、ローガン先生は自分にもう一度話すように言ったことも話した。
「時間をいじった何者かが学園にいるということだな。ペリドットも大変だなぁ……七回目なんて」
ローガン先生はまた疑うことなく信じてくれたけれど、困ったように顎を摩る。
「発動者もループに気付かずに同じ魔法を使っている可能性が高い。授業で習った通り、時をいじる魔法はタブーとされている。ループなんてことが起きかねないからな」
腰に手を置いて、まるで私がタブーを犯したみたいな叱り口調で言った。
はいはい。
「巻き戻す魔法を使っても、当の本人も使ったことを忘れる。だから繰り返される。まぁそんな展開を阻止しても、同時刻になれば巻き戻され結果ループとなる。稀に当の本人や周囲の人間が気付くこともあるが、それは本当に稀だ。だから気付いた者が、発動者を止めなくてはいけない」
「はい。その稀な者がもう一人います。エリオト・ハイマティーテースです」
「んー、いい協力者だな。でも手掛かりがないんだろう?」
ローガン先生は困った息を吐いて、アーチ型の窓を開いて、外の空気を吸い込んだ。
「それが簡単に見つかれば、苦労はしないんだよなぁ……」
「ですよねぇ」
「オレも聞かされても時間が巻き戻れば、この会話も忘れているだろう。申し訳ないが、放送をして注意を呼び掛ける……いや、それもしない方がいいか。どうせ発動時刻になったら巻き戻されるのだから。ペリドット、いつ時間が巻き戻るんだ?」
「お昼過ぎです」
「お昼か。その頃、何かが起きるんだろうな」
ローガン先生は、空を見上げた。
「時間を巻き戻す禁忌の魔法を使うほどの何かが……」
「そうですね」
事件が起きる。それが手掛かりになる。
「事件と言えばジュビリー・ゴールドが魔法化学室で爆発を起こしましたが、それは関係ないのです」
「またジュビリーがやらかしたのか……」
「二年の二階校舎も三階の魔法化学室のある校舎と食堂は関係ないです。エリオトは閲覧記録を調べると言いましたけれど、まだその結果を聞いていません。とりあえず、図書室に行きましょう。呪文を教えてください」
「そうだな」
私から促して、図書室へと歩み出す。
ローガン先生の後ろをついていくと、顔だけ振り返った。
「あと、また巻き戻ったら、オレに相談してくれ。もしかしたら覚えているかもしれない」
「わかりました。そうします」
「よし」
魅力的な笑みを浮かべるローガン先生。
「マルガリタリ、いたのか。おはよう」
「おはようございます……何しにきたんですか?」
眠気たっぷりの声。カウンターの向こうの椅子にだらしなく座って本を読んでいたのは、クリーム色の髪と真珠のような瞳をした綺麗な顔の男子生徒。
本の虫、図書委員長のマルガリタリ・リートゥム。
「禁忌の魔導書を見せて欲しい」
「はぁい……朝から禁忌の魔導書を見るなんて穏やかじゃないですね」
栞を挟んで、本を閉じたマルガリタリ。カウンターに置こうとしたけれど、その表紙にスルリと栞が落ちた。私が拾う。
「落ちましたよ」
「……」
マルガリタリは、絶望したような顔をしていた。
わなわなと震えて、栞を受け取ると、すぐに本を開く。
「どこまで読んだ……」とぶつくさ言いながら、最後に読んだページを探した。
「113ページだと思いますよ」
「!」
一度顔を上げて真珠の瞳で私を見たマルガリタリは、すぐにそのページを開く。
「……ありがとう!」
「いえ、どういたしまして」
「……」
とても喜んだような輝いた瞳で私を見つめてきた。
そんな反応しないでほしい。
「あの、急いでいるんだが」
ローガン先生が、苦笑を漏らす。
マルガリタリは今度はしっかり栞を挟むと、そっと本をカウンターの上に置いた。
それから首にぶら下げていた鍵を持って、カウンターから出る。
「マルガリタリ・リートゥムの名の下に、解放する」
ポーッと蛍が舞うような光の玉が溢れ出して、図書室の奥の施錠されていたスペースが開かれる。
ローガン先生は迷うことなく、灰色の鉄の表紙を開いた。
「時を巻き戻す魔法は……ここのページだ。おいで、解く呪いが書かれている」
「これを発動者の目の前で唱えればいいのですね。ペンをお借りしてもいいですか?」
私はすぐに手首に呪文を書き写した。
「なんですか? 時の禁忌の魔法を使って、ループが起きてしまっているんですか?」
壁に凭れているマルガリタリが問う。
「そうなんだ。お前じゃないだろうな?」
「そんなハイリスクな魔法を使うお馬鹿さんではありません」
ローガン先生とマルガリタリの会話を聞きながら、メモを終える。すると歩み寄ったマルガリタリが、私の目を覗き込む。
また目を輝かせていた。
「あなたがループから抜け出したということですね。頑張ってループから解放してください」
「なるべく早くループを解けるように善処いたします」
私は苦笑いをしてそれだけを応える。
「ああ、頑張ってくれ。エリオトとな。そうだ、閲覧記録見ておくか?」
ローガン先生は、私の肩をポンッと叩いた。
「いえ、エリオトが見たのなら私はいいです」
エリオトを信じていればいい。
そのローガン先生と教室に行き、窓際の席に座る。
そして、午前の授業を受けた。これも九回目で、ノートを取ることにうんざりしてしまう。小テストでもあれば、満点が取れて楽しいのだけれど、残念なことにそれはない。
ああ、面倒くさいな。
「ペリドット」
二限目の休み時間。廊下から呼ばれた。
エリオトだ。
「閲覧記録の件」
「ああそうだ」
にこりと壁に凭れて、エリオトが笑いかける。
ちょっと含みのなる笑みが、引っかかった。
「何? その笑み」
気持ち悪いからはっきりさせようと問う。
「……そら、来た」
そうエリオトは、笑みを深めた。
「どーしたの? 今朝もこの組み合わせだったよね。何、付き合ってるの?」
サピロスが来たものだから、ビクンと震え上がる。
見れば、にやけ面を隠すように口元に手を添えたサピロス。でも今ではそれは演技のように思えてしまう。自虐的に問うなんて。
「そうだったら?」
!?
意味深な発言をしてエリオトは、サピロスの反応を楽しむ。
「えっ……あーもう、どっち?」
サピロスが戸惑って視線を泳がせてから、にへらと笑いかけた。
「違います」
「だよねー」
私は間に入って、誤解をとく。
「いやどうだろうな?」
エリオトは、からかいを続ける。
私の髪を掬い上げた。
「ペリドットは可愛いところがたくさんあるようだ。悪くない」
思わせぶりな発言。
すぐさまその手を、サピロスがチョップで叩き落とそうとした。
けれども、サッと避けるエリオト。くつくつと笑う。
この人、私とサピロスで遊んでいる!
「もう、話さないつもりなら、戻ってちょうだい!」
「クククッ。あとでオレの教室に来い」
むきー!!
私はプンプンしながら、席に戻った。
おとをぴったりとサピロスがついてくるものだから「あなたも戻りなさい!」とぴしゃりと言ってやれば、サピロスはしょげた様子で「はい」と席につく。
三限目の休み時間が来て、私はすぐに教室を出て隣のクラスを覗いた。
「なんだ? サピロスはついて来てないのか?」
すぐ目の前にエリオトがいる。
サピロスがいないかと廊下を覗いた。
「からかうのはやめて。ループを解くことに集中してよ」
「いやぁ、君とサピロスの反応が良くて、ついな」
喉の奥で笑ってエリオトは、私の頭を撫でる。
「……なんで撫でるの?」
「君が可愛いから、じゃあ理由はだめなのか?」
「からかわないでってば!」
なんなんだこの人は!
「さて、話をするか。禁忌の魔導書を見たのは、ジュビリー・ゴールド。それとオニハス・ブラック」
「あら、知っている名前が並んだ。でもその二人は除外してもいいわね」
オニハス生徒会長も、爆発事件を起こしたジュビリーも除外だ。
「マルガリタリ・リートゥム」
「図書委員長じゃない、毎朝会っているわ。彼、自分は禁忌の魔法を使うほど馬鹿ではないと言ってた」
「今朝の段階ではそう言えても、昼休みまでに何か起きて使わずにはいられなくなった可能性もあるだろう。そもそも禁忌の魔法を使うほどの事態に遭ってしまったから使ったのだろうからな。本人が言っても除外は出来ん。オレが昨日来た時は思い留まっただけで、他の日は行使した可能性はある」
エリオトの言うことにも一理ある。調べた方がいいか。
「そう言えば、昼休みではなく他の時間帯に事件が起きたかもしれないとは考えなかったのか?」
「へ?」
「考えていなかったんだな……まぁいい。とりあえず昼休みに図書室に行き、禁忌の魔導書を閲覧した者はオレだけだった。だから既に呪文を知っている者が行使したことは間違いない」
続いて名前を挙げるけれども、知らない名前だったり教師のものだった。
「ローガン・ガーネット」
「ローガン先生は除外よ。今朝相談したのに、使うはずはないわ」
「二度も言わせるな、ローガン先生が昼休みに何していたか、知っているのか?」
「……知らないわ」
食堂にいなかったっけ。
マルガリタリと同じ理由で調べる対象になった。
「ジュエリー・リティディオン」
「その生徒って確か……」
「ああ、オレのライバル。エレクトロン・ターリの婚約者だ」
リティディオン財閥のお嬢様。そしてサピロスの親友エレクトロンの婚約者だ。
エレクトロンの方も、財閥のお坊っちゃま。
親同士が決めたとかで、婚約者カップルと持て囃されていたっけ。
それにジュエリー・リティディオンは、女子生徒で学年二位の実力者だ。
容姿は可憐で、白銀の長い髪と華奢な身体の持ち主。
逆の隣のクラスに二人共いる。
「それじゃあ先ずは知っている者から調べよう。オレはローガン先生を調べる」
「じゃあ私はマルガリタリ先輩を調べるわ」
「それから一年と三年を調べる、何か昼休みまでに事件が起きていないかを調べるんだ」
「ええ」
ローガン先生が、昼休みに事件が起きる。そう言ったから、昼休みに集中してしまっていた。確かに事件が起きたのは昼休みまでに何か起きて、昼休みに思い立って行使した可能性もある。
そのことに今気が付いたことは、エリオトに気付かれないようにした。また馬鹿にされる。
そこでチャイムが鳴ったので、急いで戻った。
いつも一緒にランチをとる友だちに断りを入れて、私は教室に残った。
サピロスを避けるためだ。
なのに……。
「ペリドットちゃん! 一人で何やってるの?」
何故私のところに来るんだ?
それは好意があるから、という答えが出て机に突っ伏した。
「あーれーどうしたの?」
赤面するな、私。そう言い聞かせて、私は顔を上げる。
目の前には、覗こうとしたサピロスの顔が近かった。
「あなたに構っている場合ではないんです」
「わぁーいつものペリドットちゃんだぁ」
言い放つと、サピロスは笑う。
どうしてこんな対応をされてしまうのに、私のことを好きなのだろうか。
そんな疑問を今悩んでいる場合ではない。
「あなたはさっさと食堂に行けばいいじゃないですか」
「オレは食堂に行く前に体育館に行くんだ」
「へ?」
てっきりまたランチに誘われると思っていた私は、驚いて目を瞬いた。
でも時間が迫っていることを思い出して、首を左右に振る。私には関係ない。
「私は図書室に行きますので」
「そっか。じゃあね」
サピロスに見送られた私は、早歩きで図書室に向かった。
「マルガリタリ先輩!」
「図書室では静かに、ペリドットさん」
マルガリタリは、まただらんと椅子に座って本を読んでいたけれども、私を見ると嬉しそうな笑みを浮かべる。そして、しーっと唇に人差し指を当てた。
ここにいると思った。
「まぁ今の来客は君だけだから、別に迷惑している生徒がいるわけではないのだけれども」
「? ……ガランとしてますね」
数え切れないほどの本が並んでいる広々とした図書室は、他に生徒がいないようだ。今朝もいなかったけれども、昼休みもこうもガランとしているものなのか。
そう言えば、エリオトも自分以外いなかったと言っていたっけ。
「いつもは何人か来るけれどね。君は何の用?」
「ああ、そうだ、私は」
「本を読みに来たのなら、僕のお勧めする本なんていかがかな?」
「いえ、私は」
「そう遠慮せずに、面白いから」
にこにこと笑顔のマルガリタリに遮られてしまう。
「あの! 私は!!」
そう声を上げた瞬間、暗転。
私はベッドの上だ。
「図書室遠いのよ!!」
苦情を叫んでベッドでのたうち回った。
20180123