01 一回目。
ハローハローハロー
記念すべき77作目です!
そんなに長くはならない、はず。
こういうのはありきたりかもしれませんが、
楽しんでいただけたら幸いです!
20180118
「は? ループしてる?」
ベッドから起き上がった私は、波打つペリドットの髪を後ろに払いのけた。
何度目かわからない。でも繰り返している。
それは夢のようで、でも夢ではないと確信をしていた。
今日を繰り返している。四月十三日の金曜日。
四月十四日の土曜日が来ない。
休みが来ないのだ。だから気が付いたというわけではない。
はっと夢から醒めたみたいに、気が付いた。
私はベッドから降りて、バスルームに行って、顔を洗う。歯を磨きながら、ストレッチをした。髪をブラシでとかしながら、バスルームを出てクローゼットを開く。
鏡に映る姿は、ペリドットの波打つ髪。私の名前は、この髪に因んでペリドットと命名された。瞳も睫毛も、ペリドット色。
仏頂面のそれと睨み合いつつも、制服のドレスに着替えた。
赤みの強い橙色のドレスはコルセット調。ふんわりと広がるフリルスカートを整えて、黒のニーソを履いた。
「少なくとも、二回はループしている……」
私は呟いて、自分の唇を親指で拭う。
私が気付いているだけで、二回は同じ日を迎えている。
時を操る魔法はタブーとされているのだ。巻き戻す魔法なんて使えば、支障がつきものだ。例えば、ループしてしまう現象を起こしてしまうとか。
「全く! どこのバカが発動させたのよ!」
ベッドを整えながら、バンバンと叩く。
ループに気が付いた者は、それを解く義務が生じる。
というか、解かないと延々に同じ日を繰り返す羽目になるのだ。
気付いていて、普通に同じ日を何度も過ごす神経は持ち合わせていない。
何よりも、土曜日が来ない金曜日を繰り返すなんて、なんていう拷問!
月曜日から金曜日まで学業に励んだご褒美が二日の休日だろう!
誰だ!? 私の土日休みを奪うものは!!
私は寮の部屋から飛び出して、長い髪を靡かせて坂を上がった場所に聳える純白の学園に登校した。
「おっとごめん!」
「っ! ……ちぃ!」
「ええーそんなに怒らなくても」
玄関を入ってすぐに男子学生とぶつかる。三日連続でぶつかった。
何で避けられなかったのかと舌打ちをしてしまう。
ぶつかった男子生徒は、サファイアのような青い髪の持ち主で、右耳の後ろにその長髪を束ねていた。
「本当にごめんって。ペリドットちゃん」
「別にいいです。サピロスさん」
名前はサピロス・ザフィリイア。顔立ちが良くて、身長も高くて足長。いわゆるモテる男であるサピロスは、チャラい。軟派なのである。クラスメイトだ。
「ペリドットちゃん、オレのことはサピロスでいいよ」
「サピロスさん」
「ペリドットちゃん、やっぱり怒ってる?」
「いいえ、サピロスさん」
「ごめんってばー」
「あーしつこい! 構わないでください!」
行く手を阻む彼を避けて、先を進む。
真っ直ぐ向かうのは、授業のある教室ではなく、教師のいる職員室。
その途中でダークブラウンの巻き髪と黒いローブを羽織った後ろ姿を見付けて、ぱっと明るい気分になった。
「ローガン先生!」
「ん? おはよう、ペリドット・ガルシア」
「おはようございます」
「なんだ、機嫌がいいな。何かいいことでもあったのか?」
職員室に行く前に、担任の先生を見つけたことが嬉しいだけ。
「実は相談したいことがありまして」
「なんだ?」
私は率直に伝えた。
同じ日がループしているのだと。自分はそれに気が付いてしまった。
「時間をいじった何者かが学園にいるということだな」
ローガン先生は疑うことなく信じてくれたけれど、困ったように顎を摩る。
「発動者もループに気付かずに同じ魔法を使っている可能性が高い。授業で習った通り、時をいじる魔法はタブーとされている。ループなんてことが起きかねないからな」
腰に手を置いて、まるで私がタブーを犯したみたいな叱り口調で言った。
「巻き戻す魔法を使っても、当の本人も使ったことを忘れる。だから繰り返される。まぁそんな展開を阻止しても、同時刻になれば巻き戻され結果ループとなる。稀に当の本人や周囲の人間が気付くこともあるが、それは本当に稀だ。だから気付いた者が、発動者を止めなくてはいけない」
「はい。それで発動者を見付けるにはどうしたらいいですか?」
「んー」
困った息を吐いて、アーチ型の窓を開いて、外の空気を吸い込んだ。
「それが簡単に見つかれば、苦労はしないんだよなぁ……」
「ですよねぇ」
「オレも聞かされても時間が巻き戻れば、この会話も忘れているだろう。申し訳ないが、放送をして注意を呼び掛ける……いや、それもしない方がいいか。どうせ発動時刻になったら巻き戻されるのだから。ペリドット、いつ時間が巻き戻るのだ?」
「私の記憶では……お昼過ぎです」
「お昼か。その頃、何かが起きるんだろうな」
ローガン先生は、空を見上げた。
「時間を巻き戻す禁忌の魔法を使うほどの何かが……」
「そうですね……」
事件が起きる。それが手掛かりになる。
「心当たりないのか?」
「あいにく私は昼休みの昼食をとっていたところで……食堂では事件なんて起きていませんでしたね」
私が見た感じでは、食堂で“時間を巻き戻してでもなかったことにしたい事件”なんて起きていない。
「いや、気付いていないだけで、近くで魔法を発動したかもしれない。もう一度食堂を見回して見ろ」
「はぁ……そうします」
「先ずは図書室に行こう。ループしてしまった魔法の解き方を教えてやる」
「はい」
図書室へと歩み出す。
ローガン先生の後ろをついていくと、顔だけ振り返った。
「あと、また巻き戻ったら、オレに相談してくれ。もしかしたら覚えているかもしれない」
「わかりました。そうします」
「よし」
そう魅力的な笑みを浮かべる。
どうもこの笑みでクラッとする女子生徒が多いらしい。色気のムンムンな担任教師なのだ。
「マルガリタリ、いたのか。おはよう」
「おはようございます……何しにきたんですか?」
眠気たっぷりの声。カウンターの向こうの椅子にだらしなく座って本を読んでいたのは、クリーム色の髪と真珠のような瞳をした綺麗な顔の男子生徒だった。
本の虫、図書委員長のマルガリタリ・リートゥム。
担当の日でなくとも図書委員の仕事をする人だと有名だ。
「禁忌の魔導書を見せて欲しい」
「はぁい……朝から禁忌の魔導書を見るなんて穏やかじゃないですね」
栞を挟んで、本を閉じたマルガリタリ。カウンターに置こうとしたけれど、その表紙にスルリと栞が落ちた。私が拾う。
「落ちましたよ」
「……」
「……」
マルガリタリは絶望したような顔をしていた。
わなわなと震えて、栞を受け取ると、すぐに本を開く。
「どこまで読んだ……どこまで読んだ……」とぶつくさ言いながら、最後に読んだページを探した。
「あの、急いでいるんだが」
ローガン先生は、苦笑を漏らす。
「113ページだったか」と安堵の息を吐くマルガリタリは、無事ページを見付けたようだ。今度はしっかり栞を挟むと、そっと本をカウンターの上に置いた。
それから首にぶら下げていた鍵を持って、カウンターから出る。白いローブの下には、赤みの強い橙色の燕尾服風の制服。
「マルガリタリ・リートゥムの名の下に、解放する」
ポーッと蛍が舞うような光の玉が溢れ出して、図書室の奥の施錠されていたスペースが開かれる。厳重に保管されている魔導書がここに置かれているのだ。
ローガン先生は迷うことなく、灰色の鉄の表紙を開いた。
「時を巻き戻す魔法は……ここのページだ。おいで、解く呪いが書かれている」
「これを発動者の目の前で唱えればいいのですね」
おいで、とか色気たっぷりに言わないで欲しい。
何しているか、わからなくなる。
それでも私は呪文を覚えようと、必死に黙読した。
「なんですか? 時の禁忌の魔法を使って、ループが起きてしまっているんですか?」
壁に凭れているマルガリタリが問う。理解が早い。
「そうなんだ。お前じゃないだろうな?」
ローガン先生は冗談を言う。
「そんなハイリスクな魔法を使うお馬鹿さんではありません。……メモったらどうですか?」
早く本の続きが読みたいらしい。急かされたので、私はペンを借りて腕に長い呪文を書いた。
「あなたがループから抜け出したということですね。頑張ってループから解放してください。オレ、本の続きが読みたいんで」
ひしひしとその気持ちが伝わる。真顔で詰め寄られた。
「なるべく早くループを解けるように善処いたします」
私はそれだけを応える。
「ああ、頑張ってくれ」
ローガン先生は、私の肩をポンッと叩いた。
そのローガン先生と教室に行き、窓際の席に座る。
そして、午前の授業を受けた。これも三回目で、ノートを取ることにうんざりしてしまう。小テストでもあれば、満点が取れて楽しいのだけれど、残念なことにそれはない。
いつも一緒にランチをとる友だちと離れて、食堂をうろうろした。
事件らしい事件が起きないか、隅から隅へと見回したのだけれど、何も起きない。
ただ気が付けば、私はベッドの中で目を覚ましていた。