表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君にこの音が届くまで  作者: 神無月 タクト
6/6

自己・事故

 何とか無事に課題考査を終えることができ、僕は束の間の休み時間を、机に顔を押し当てて過ごしていた。机の上で寝ている体勢と言えばわかりやすいだろうか?

 別にこれは疲労回復に最適の体勢なだけで、決して先程のシャープペン事件が恥ずかしくて顔を上げられないということではない。そもそも、もう僕の中ではなかったことになっているので金輪際思い出させないように!


 いろんな感情が入り乱れて混乱してきた心が落ち着くのを待ち、僕は思考を徐々に次の課題にシフトさせていく。

 次の課題、それは僕の中では今日のイベントの中ではかなりの重要度がある事、その名も___


___ホームルーム



 自己紹介に始まり、クラスメイト同士の直接の交流も望めるまさに今の僕が最も欲しているイベントのほとんどが詰まった魔法の時間!


 ああ、今では〝H〟の文字と〝R〟の文字が神々しく見える気がする。きっと小学生なら〝H〟の部分で笑ってくるだろう。「うわぁ~この高校生エッチが好きとか言ってやがる。気持ちわる!」とか平気で言ってきそうだが、今の僕ならそんな言葉の暴力にも屈しないで堂々と言い返せるだろう「フッ、〝R〟の文字で下ネタを連想できないうちは、僕には敵わないよ」と__


 あれ、悪化してないか?


 ともかくHRに備えて心の準備をする。せめて次は気持ち悪い話し方にならないよう気をつけねばならない。


 全力で脳内シミュレーションをするつもりが、いつの間にか下らない下ネタ連想になっていた。しかしその過ちに気づいた時には手遅れだったようで、感情のないチャイムの音声が無情に休息の終わりを告げた。


※ ※ ※ ※ ※


 とうとう一切の心の準備ができぬままHRに突入してしまった。そもそも、こんなに緊張しているのは僕だけではないのか?とか、こんなに必死になってる奴って逆に気持ち悪い!とか思わないでもらえるとありがたい。


 世の中、僕のように不器用にしか生きられない人は星の数ほどいるはずだから…


「それではこの時間のホームルームでは、まずはお互いのことを知るために自己紹介。その後でレクリエーション形式でクラスの親睦を深めたいと思っています」

 まだ若い、整った顔立ちの男性教諭が教卓に立ち、手短にこの時間の予定を告げる。その言葉に僕の緊張はより確かなものとなる。


「それでは、早速ですが自己紹介から始めたいと思います。内容は名前と出身中学校、中学校の頃に所属していた部活に、今後の意気込みなんかを言ってください。それでは出席番号順に進めていこうか」

 担任の言葉に反応して、一部のスクールカースト上位組が、「うぇ~俺が最初だー緊張するな~」「一発デカいの期待してるぜ!」「つまらなかったら後で、駅前のパンケーキ奢ってよ~」などと盛り上がっている。

 普段なら全く気にも留めない(ふりをしている)人種なのだが、今だけは彼らの言葉一つ一つに苛立いらだってしまう。


 もちろん100%逆恨みだということは分かっているのだが、それでも本当に緊張している人間の前で余裕ぶった態度をとらないでほしい。そういうの見ると余計緊張してくるから!



「西部中学校から来ました。皆川(みながわ 恵也けいやです。中学校の頃にやっていた部活は___」



 僕が緊張のせいで軽いパニックを起こしている間も淡々と自己紹介は進んでいく。


 慌てるな和音、こんな時こそ深呼吸だ!


「すぅ~__ッゴホッゴホ」


 あまりの緊張でむせてしまった…


 そもそもなぜ僕はこんなに緊張しているのだろうか?中学校の頃なんかはもっと普通だったのに…


 しかし時とは無情なもので、僕がこの緊張の正体に辿り着く前に自己紹介は僕の番となっていた。

「はい、じゃあ次は水瀬みなせ

 担任は笑顔で僕の名を指す。


 緊張で頭は真っ白


 こんな無駄に緊張してるのは自分ぐらいだろうと自覚する。

 しかしもう迷っている時間はない!


 椅子を引く手が震えているのが分かる


 汗のにじむ手を握り締めて、ゆっくりと声を出していく。


「水瀬 和音、出身中学校は河合(かわい)中学校で、部活は吹奏楽部をしていました。高校では、しっかりと勉強と部活を両立できるよう頑張りたいです。一年間よろしくお願いします」


 そして僕はゆっくりと着席した。


 まず最初に、噛まずに言い終えられた事えの歓喜を味わった。


 そして次に大きな仕事をやり終えた後のような心地の良い虚脱感に包まれた。


 そして、最後に自分の言葉を振り返って気が付いてしまったのだ。自分の紹介があまりにも無駄がなく、同時に面白味が全くないことに…


 別に忠実に最低限の言葉だけで終わらせたのはいい。面白味がないのも僕らしいと言えるだろう。


 しかし、あれだけ緊張しておいてこの結果は何なんだ!まるで散々伏線を散りばめておいて半分も回収せずに終わる物語のような呆気なさだ。


 こんな結果だったらまだ盛大にミスした方が面白味があっただろう… 


「僕の高校生活は、本当に大丈夫なのだろうか?」


 その呟きは、誰の耳にも入ることなく虚しく静かに消えていった。

 この主人公はどれだけコミュニケーション能力が低いのでしょうか?


近いうちに、主人公にはまともな会話をしてほしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ