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君にこの音が届くまで  作者: 神無月 タクト
5/6

きっと初めはこんなもの

県立春野高校本日の時間割

一時限目:課題考査

二時限目:課題考査

三時限目:HR

四時限目:HR

———昼休憩———

五時限目:新入生歓迎行事

六時限目:新入生歓迎行事

 僕の渾身の挨拶を興味がない様子でスルーして、隣の金髪ピアスギャルは自分の席に座った。

 この反応に僕は正直救われていた。変に気持ち悪がられるよりもこのまま何もなかった事にしてくれた方が僕のメンタルダメージは少ない。やはり彼女はとてもいい人だ。初めて見たときに怖いとか思ってごめんなさい。


 そう心の中で詫び、僕も彼女を見習って何事もなかったかのように手元にある文庫本に視線を戻して読書を再開した。


 そして心に決めたのだ。


  今度までに挨拶の練習をしようと


※ ※ ※ ※ ※


 なんだかんで高校生活の二日目のSHRショートホームルームが終わり各々の生徒が次の時間の準備を始めていた。ちなみに今日の時間割は、一時限目から二時限目までは、新入生の学力を測るための課題考査があり、三時限目から四時限目まではクラスメイトとの交流を深める為のロングホームルームが設けられている。そして昼休みを挟んで五時間目からは体育館で新入生歓迎の行事が行われる予定だ。


 取り敢えず一時限目の課題考査の為に筆記用具の用意をしていると、隣の席がやけに騒がしいのに気が付いた。何が起こっているのか確認するために横目でチラリと見ると、金髪ピアスギャルさんがカバンの中を激しく漁っていた。何をしているのか気になり、よく見てみると、彼女の行為が何なのかは簡単に分かった。

 カバンのポケットを一つずつ開けて中を確認してはどこか曇っていく表情、テスト前なのに何も置かれていない机の上。


 そう、おそらく彼女は筆記用具を忘れたのだ。


 心の中でやけに自慢げに推理のようなことをしてみたが、こんなものは見れば誰にでもわかるだろう。

 理由が分かればやるべきことは分かっている。人が困っていたら助けろと小さいころから教わってきたし、何より現在暫定いい人判定の彼女に恩返しをするチャンスだ。


 僕は筆箱から余っている鉛筆と消しゴムを取り出すと、一呼吸おいて彼女に声をかける。


「あ、あのぉ、筆記用具がないなら貸しますよ」

 自分から声を出しておいて、自分の声の気持ち悪さにもうこの場から消えてしまいたくなる。しかし一度口から出た言葉は消えることはない。そう、もう後戻りはできないのだ。


 僕のどもった声に反応して彼女はカバンから顔を上げこちらを見た。その目は一瞬だけ丸く開かれて、すぐに元の気だるげな目に戻った。

「あんがと」

 短くそう言って彼女はてのひらをこちらに向けてきた。差し出された手の上に、先程取り出しておいた筆記用具を置く。


 一連の作業を終えて僕は言いようのない達成感に浸っていた。うまく言葉に表せないのだけれど、先程までのミスを全てなかった事にできたような感じだ。先程までの”消えてしまいたい”という気持ちが綺麗になくなって、みるみる心が晴れていくのが分かるようだ。


 そんな喜びを噛みしめている僕の肩を、やけに長い爪がつついた。その爪の主を見ると、微妙な表情の金髪ギャルさんがこちらを見ていた。

 そして僕の重大なミスを指摘するのであった。


「このシャーペン、芯が入ってない」


  あぁ、消えてしまいたい。

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