さぁ、声を出して!
未だに通いなれない学校への道をゆったりとした速度でペダルを踏みこむと、心地の良い春風が僕の頬を撫でてくれる。正直に言えば寒いのだが、なんとなく詩的に表現したくなってしまったんだからしょうがない。
そんなこんなで登校二日目の、我らが春野高校に到着してしまった。間違えのないよう、慎重に指定された駐輪場を探し、そこに自転車を止める。そこからは無心で教室まで向かおうとしたが、やはり見えてしまうものは見えてしまう。
右を見ても左を見ても、そこには仲睦ましく登校する集団がいくつもあった。友人と、あるいは恋人と美しい朝を迎えているような人たちばかりいる。別に恨めしいとかそういう感情は一切ないのだけれど、こういう場面に会うと、自分の孤独さがより一層強くなるような気がして嫌なんだ。
「せめて、友達を一人…」
神にでも向けた願い事は、自分以外の誰の鼓膜を震わすのでもなく、虚しく、賑やかな生徒たちの声でかき消された
※ ※ ※ ※ ※
教室に入ると、まず自分の席を確認する。
___よし!まだ金髪ピアスギャルは来てないぞ___
心の中でわずかに安堵しながらカバンを自分の席に置き、教科書を取り出し軽くなったカバンを机の横に掛けると、自然な動作で持参の文庫本を開く。別に話しかけられないように固有結界を作っている訳ではない。毎朝の習慣のようなものだ。
近くの席の人に挨拶でもすればいいのだが、やはり緊張してしまって「お、おはやぁう」というおよそ人間の発音するものとはかけ離れた気持ち悪い声が出てしまうのは過去に検証済みである。つまり僕は挨拶が苦手だ。こんなこと実証したくなかった…
自分の席で黙々と気配遮断__ではなく読書を続けるとき隣の席に動きを感じた。気づかれないように視線だけを横に向けると、そこには、そこはかとなく気だるげな表情の"金髪ピアスギャル"がいた。彼女はこちらの視線に気が付いたように僕の方を見てきた。
__しまった!気づかれた!何でこういうときだけ発動しないんだよ僕の気配遮断能力!遠足の班決めの時ばかり発動しやがって!___
絶対に「何ガン飛ばしてんだよおい!」とか言われる奴だよこれ…、どうにかして誤魔化せないか、思考をフル回転させる。こんな頭の回転は入試の時以来だ。
あれこれと、逃げ道を模索していたが、彼女が発した言葉は、予想だにしていない言葉だった。
「おはよ」
「__へ?」
つい間抜けな声が出てしまった。もしかして彼女は僕に挨拶をしたのだろうか?周りを見ても彼女の声に反応するような人はいない。ならばこの言葉は僕に向けた言葉だろう。もしかして彼女は見た目によらず、すごく優しいのかもしれない。いや、僕なんかにわざわざ声をかけるなんて、優しいに決まっている。
しかし僕が返事をするよりも早く彼女は自分の中で結論を出してしまったようで…
「無視かよ…」
とわずかに苛立ちを含んだ声で呟いた。
これではいけない、せっかく彼女は僕に声をかけてくれたのだ。それを無視なんてあってはいけない。
さぁ、勇気を出すんだ和音!
たった一言を振り絞るだけでいい
この一言で僕の青春が始まるのかもしれないんだ
さぁ、声を出すんだ!
「お、おはやぁう」
やっぱり僕は挨拶は苦手だ。
ただいま、ソロコンテストに出ようか悩んでいます(唐突にすみません)
しかし伴奏者は見つからず、今まで出たことがないのでどんなものかもわからないです。
取り敢えず心の整理という名目の現実逃避に小説を書いている今日この頃です(笑)