そして不安の詰まった一日が始まる
枕もとで甲高い金属音が小刻みに耳を貫く。手探りでその元凶に触れると、半ば自動的にアラームのスイッチをOFFにした。
一夜分の自分の温もりが染み込んだ毛布を惜しみながら体の上からどかして、小さく伸びをする。いつも通りの朝の風景、しかし、今日一日のことを考えた途端に、気持ちは憂鬱になった。
とうとう迎えてしまった、高校生活二日目の朝…本格的な授業の開始、おそらくあるであろう自己紹介イベント…そして何より恐ろしいのは___
「弁当か…」
高校生になったからには当然給食は出ず、弁当制となるのだ。そして当然、中学校までとは違い、席も自由、その上で昨日僕は一度もクラスメイトと話せなかった。つまり僕が今、一番恐れている事態は、教室で一人だけ孤立し、下を向きながら弁当を食べなければいけなくなるのではないのか?そんな学校生活は絶対に嫌だ!
何もしないで孤立するわけにはいかない。自分の力で未来に抵抗してやる!
勝負は自己紹介イベントだ!
静かな決意を胸に、力強く起き上がった。
※ ※ ※ ※ ※
いまだに寝ぼけた瞼を擦りながらゆっくりと階段を下りていくと、勢いよく玄関が開かれる音がした。視線を向けると、肩まである黒髪を後ろで一つ結びにした妹が、靴を履きながら玄関の敷居を越えていた。
「いってきまーす」
たいして声を張っている訳でもないのに彼女の声は家の中によく響く。そして父がその声を目覚まし代わりにして起きてくるのが我が家の日常だ。
どうやら静音は、今日から朝練が始まるようだ。
「ぉはよー」
すでに朝食の並んでいる食卓に座りながら、キッチンにいる母に、間の抜けた挨拶をする。すると少し遅れて父が自室から出てきた。父にも一応朝の挨拶をしてから、机に置かれたトーストを一口かじり熱々のコーヒーを火傷しないように気を付けながらすすると、先ほどよりもわずかに脳がクリアになる。そしてクリアになった思考に先ほどの今日起こるであろう嫌なイベントのリストよぎる。大げさなのは自分でもわかっているのだが、不安なものは不安なんだ。
頭の中で広がる無数の不安を、熱いコーヒーと共に飲み込んだ。
「あぢっ!」
そして見事に火傷した。
なんだかこのままだと、高校デビューができなかった男の子が”脱ぼっち”する話になってしまいそうですね(笑)
近いうちにしっかりと吹奏楽の物語に軌道修正するつもりなので、しばしお待ちを!