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夢の心90
「死ぬ勇気が無いの?」と妻が言った。
私は言った。
「いや、ここが夢の迷路ならば死にはしないさ」
妻が息を調えつつ言った。
「いや、例えば貴方が昏睡状態のまま夢の連鎖に紛れ込んでいるならば、ここで眠り起きたところが死の世界かもしれないじゃない」
私は言った。
「それはそうだけれども、それは全て可能性の問題ではないか?」
妻が素っ気なく言った。
「ならば試してみればいいじゃない?」
私は嘆息してから言った。
「試してみても、起きたところで君に出会い、黒い闇の快楽になれないのならば意味は無いしな」
妻が私を詰った。
「偉そうな事を言って、死ぬ勇気が無いの?」
私は言った。
「いや、それは無いさ。僕は自殺を図ったのだから」




