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夢の心75
「証が出てくれば、ここは天国の振りをした地獄だという事さ」と私は妻に言った。
家に着くと子供達が嬉しそうに私を迎えた。
典型的な一家団欒の光景なのだが私は何も感光がなく、無感動な眼差しでその光景を斜視していると、妻が子供達に向かって言った。
「パパは具合が悪いのだから外で遊んでらっしゃい」
男の子と女の子の二人の幼子は、私をしげしげと見やりつつ、後退り部屋から出て行った。
当然の事ながら私は二人に見覚えはなく、今いる家が自分の家だという実感はない。
そんな私に向かって妻が言った。
「貴方は体が悪いのだから横になっていれば?」
私は曖昧に頷き答えた。
「僕は夢の迷路の証が出て来るのを待っているのさ」
妻が訝り尋ねてきた。
「待ってどうするの?」
私は答えた。
「証が出てくれば、ここは天国の振りをした地獄だという事さ」




