74/437
夢の心74
「ここが夢の迷路ならば、僕はみなしごで、愛する子供なんかいるわけがないじゃないか」と私は妻に言った。
私は妻と同乗してタクシーに乗り家に向かった。
ぼんやりと窓の外の流れる風景を見やりながら私は言った。
「今のところこの世界が夢の迷路である不条理な姿は見せていないな。それが見えたところで君が僕に取っての希望に満ち溢れた生の逆転した死の代弁者であることが判明するわけだ」
妻は私の言葉を取り合わず、悲しげに答えた。
「子供達は皆元気で、貴方の退院を喜んでいるわよ」
私は言った。
「僕はみなしごで、子供なんかいる筈はないし、君のその押しつけがましい嘘が僕に他者を愛せよと強制しているからこそ、僕は闇の無の快楽に満ち溢れた死としての生を望んだのだ」
妻が涙を拭い言った。
「貴方は子供達を愛していないの?」
私は答えた。
「ここが夢の迷路ならば、僕はみなしごで、愛する子供なんかいるわけがないじゃないか」




