夢の心417
「無に帰して死ぬのが桃源郷な筈がない!」と私は遮二無二叫んだ。
私は叫び声を上げ続けた。
「嘘だ、嘘だ、嘘だ、俺は貴様の言葉など信じない、信じて堪るものか!」
妻が言った。
「貴方はまだ気が付いていないのよ」
私は喜悦に埋没しそうになる自分に喝を入れて叫んだ。
「何に気が付いていないのだ!」
妻が物静かに言った。
「貴方の心がその白い闇の快楽そのものなのよ。でも貴方はその悪魔性溢れた汚れだけの信条を認める事が出来ないからこそ、欺瞞と偽善に満ちた一人芝居をして悦に入っているだけなのよ。だからこそ全ては貴方自身の汚れた心の反映なのよ。その理屈は分かるでしょう?」
私は目を剥き抗った。
「俺は確かに汚れているかもしれないが、ちーちゃんを助けたいと言う心情は本物だ、能書きはいらない、ちーちゃんを出せ!」
妻が冷淡に答えた。
「だから、その心情こそが欺瞞と偽善の証なのよ。それをかなぐり捨て去れば貴方は純粋に白い壁の快楽そのものとなり、桃源郷に入滅出来るのよ。それを理解して頂戴、貴方?」
私は目を剥き、かぶりを振って溢れ出る涙を振り払い叫んだ。
「桃源郷だと、綺麗事を言うな、入滅ではなく無に帰して死ぬのが桃源郷な筈がないではないか、腐れ外道め!」




