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夢の心375
「落ち着け、落ち着いて対処するしかあるまい」と私は自分に言い聞かせた。
集中治療室の前、泣き止まない妻を上の子が懸命に励ましているのを横目で見やりながら、私は身に迫る異変を感じ取った。
辺りが暗くなり、妻と上の子の動きがマネキンのように止まった。
妻と子だけではなく、周囲にいる看護師やヘルパーの動きもまるで蝋人形の館のようにストップモーションが掛かって動かない。
いたたまれなくなる恐怖感が私を包んで行く。
その恐怖に逃げ出したくなる気持ちを私は自問自答をして何とか凌ぎに掛かった。
「ここは夢の迷路だから何だってありならば、怖じ気づく必要はあるまい、落ち着け」
「だがこんな時間が止まったような現象は初めてだぞ、落ち着いてなんかいられない」
「落ち着け、とにかく逃げ出さずに落ち着いて対処するしかあるまい」
「分かった」




