夢の心373
「何でもいいから早く車持って来て頂戴!」と妻が私に向かって怒鳴った。
妻が再度私を睨み付け言った。
「貴方のせいよ、救急車呼んで!」
私は逃げ出したくなる気持ちを唇を噛みしめて押さえ、咄嗟に下の子を心配している演技をしつつ答えた。
「わ、分かった」
次の瞬間、妻が首を激しく振り己の提案を撤回した。
「駄目、救急車を呼んだら大騒ぎになるから、車で行きましょう!」
私は全く子供の事を心配していない自分の心に、黒い闇になる為に気持ちとは裏腹の嘘をつき、心配顔をして頷き応じた。
「分かった、行こう」
下の子が蹲り喚き散らした。
「頭痛いよ、頭痛いよ、ママ助けて、死ね、死ね、死ねと頭の中でパパが責めているんだ、パパに殺されちゃうよ、ママ、ママ、助けて!」
私は下の子に対して込み上げる憎悪を何とか押さえて、憎悪とは真逆の愛情溢れる優しい父親像を演じつつ言った。
「パパはそんな事言っていないよ、君を助けたいだけなんだ、だから早く病院に行こう!」
私の嘘を見抜くように上の子が喚いた。
「パパ嘘をついているよ、ママ、信じちゃ駄目だよ!」
妻が私に向かって怒鳴った。
「何でもいいから早く車持って来て頂戴!」




