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夢の心32
「お前の心には愛などない」と闇の声は言った。
「大丈夫だ」
「いや、恐い、俺は死んでしまう」
「大丈夫だ。こうして語りかけられるのだから、お前は死にはしない」
「恐い、恐い、死んでしまう!」
「大丈夫だ、落ち着け」
「恐い!」
「落ち着け、落ち着くのだ」
女性に語りかけても無駄なので、私は己の生きている証しである自意識を再確認する為に暗闇の中で自問自答を繰り返して行く。
だが暗闇の恐怖はそのまま死へと繋がっているのを否応なしに感じ取り、私は震えながら再度女性に語りかけた。
「分かった。僕は貴女がいなければ駄目で、死んでしまう人間なのだ。それは僕が貴女を必要としているのだから、貴女を愛している事ではないか。ならば僕を助けてくれ。頼む!」
女性からの返事はない。
しかし、目の前の闇がそのまま僕の脳しょうに入り込んで来て、僕の聴覚を包み込むように直接刺激して来て喋り出した。
「嘘だ、お前は嘘をついている」
私は闇が喋り出したその恐怖に恐れおののき、自問自答を中断して絶句した。
するとその闇の声が畳みかけて来た。
「お前は嘘をついている。お前の心には愛など微塵もない」




