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夢の心302
「私は貴方の妻ではありません」とがらんどうの部屋から滲み出て、めくるめく姿を現した夢の迷路の女性が言った。
妻の姿が輪郭を失い、今度は黒い闇に呑まれて消え失せ、がらんどうの部屋に溶け込むのと同時に夢の迷路の女性の声が、がらんどうの部屋から聞こえて来た。
「そうです、貴方は桃の花の心だからこそ、家族愛を失い、この夢の迷路をさ迷っているのです」
私は女性の言葉に矛盾点を見出だし反論した。
「君の言っている事はおかしいじゃないか。美しい桃の花の心は家族愛を抱いていたのだろう?」
女性があからさまに妻の声で言い放った。
「桃の花の心は美しくなんかないわよ、腐れ外道さん」
私は目を剥き尋ねた。
「君は妻なのか、夢の迷路の女性なのか、どちらなのだ?」
がらんどうの部屋から滲み出るように夢の迷路の女性が、めくるめく現れ、物静かな口調で答えた。
「私は貴方の妻ではありません」




