280/437
夢の心280
「そんなの当たり前じゃない。夢幻だからこそ生死は同時にあるのよ」と妻が言った。
私は手当たり次第に道行く通行人に、今いる現実そっくりの世界が本当の現実なのか、それとも夢の迷路なのかを尋ねたが、皆異口同音にまぎれもない現実社会だと答えた。
混乱するままに私は家に帰り、リビングでテレビを観てくつろいでいる妻に、いくら考えても腑に落ちない疑問点を尋ねた。
「この世界の生死は同時に訪れるのか?」
妻が答えた。
「そんなの当たり前じゃない」
ソファーに腰掛け私は尋ねた。
「生きて責め苦に苦しみ。死んで甦り、又生きて世間の責め苦に苦しむのが同時進行しているのか?」
妻が答えた。
「そんなの当たり前じゃないの。貴方はそれが順繰り来る悪夢でも見たんじゃないの?」
私は嘆息して尋ねた。
「僕がいた現実が君は夢だと言いたいのか?」
妻が答えた。
「そんなのも当たり前な話しじゃない。と言うか夢じゃない現実なんかあるの?」
僕は固唾を飲み言った。
「全てが夢幻だと言うのか?」
妻が答えた。
「そんなの当たり前じゃない。夢幻だからこそ生死は同時にあるのよ」




