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夢の心241
「私には赤ちゃんの声など聞こえません」と女性が言った。
その家具や調度品が明瞭化して克明に見えた刹那、そこから又ぞろ赤子の声が聞こえて来たので私は耳を塞ぎ叫んだ。
「止めてくれ!」
女性が言った。
「貴方の心は苦しみを知り、他人の悲しみが分かるようになりましたか?」
「僕は何も覚えていない。だから苦しいだけで、悲しみなど理解出来ない!」
女性が憐れみを込めた語り口調で言った。
「一人で苦しむからこそ、寂しく悲しみを知り、他人の悲しみも理解出来るのですよね┅」
突如現れた調度品や家具から醸し出される赤子の声に怯え、私は激しくかぶりを振り喚いた。
「苦しいだけで、何も覚えていないのだから、他人の悲しみなど分からない。それよりもこの赤ん坊の声を何とかしてくれ!」
女性がおもむろに言った。
「私には赤ちゃんの声など聞こえません」
私は女性を睨み付け喚いた。
「この赤ん坊の声が聞こえないのか!」




