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夢の心222
「死ねば良かったのに」と妻としての愛人が遠くの方で言った。
散り散りになった桃の花ビラが黒い闇に変わり、その闇の中で私は苛烈な苛めから解放され喜悦の笑みを浮かべたのだが、その笑みを子供の白い闇の拳が打ち砕いた。
そのまま私の肉体は潰れ、捻れて桃の花の心として固まり目覚め、涙ぐみながら愛人としての妻にひれ伏した。
「逃げられないわよ」
子供達がけたたましく嘲笑い妻に呼応した。
「逃げる前に殺してやる!」
私は動転して恐怖の余り逃げ場所を探し、咄嗟にここは夢の迷路なのだから、ドアをすり抜けられると判断して、そのままドアに向かって全力で突進したのだが、激しく激突して弾かれ倒れ込み、失神してしまった。
だが失神したのに不条理にも遠くの方から妻の声が聞こえて来た。
「死ねば良かったのに」




