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夢の心215
「分かりました。ロックを外しますから、お入り下さい」と謎の愛人がインターホンで私に告げた。
今度は自分が電車に乗り、窓の外の日常風景を目に焼き付けながら改札を抜け、住所のある区画に足を踏み入れた。
そして私は電柱や立ち並ぶ家屋の住所を丹念に一つずつ拾い、目指す住所を何とか探り当て、そのマンションの前で立ち止まり、記憶を手繰り寄せて、以前行ったマンションかどうかを比較してみた。
覚えていない。
どう記憶を手繰り寄せても思い出せない。
私はそこで意を決して、エントランスに入り、目指す愛人の部屋のインターホンを思いを切り押した。
すると聞き慣れない女性の声で「どなたですか?」と返事が返って来たので、私は前のようにかいつまんで用件を切り出すと、その女性がおもむろに言った。
「分かりました。ロックを外しますからお通り下さい」
そう言われ、私はエントランスからエレベーターに乗り目指す階に固唾を飲みつつ上がって行った。




