夢の心143
「いえ、時間概念がない迷路ですから、最初としての最後、最後としての最初です」と女性は言った。
私は自嘲気味に笑い、女性を上手く欺くべく冷静な口調を堅持しながら言った。
「分かった。とにかく僕には貴女に従うしか選択肢はないから、貴女の言葉に従うまでの話しさ。でも早速だが、目指す僕の家はここにはないぞ。これをどう説明する?」
間を置き女性が答えた。
「ここは貴方が最初に足を踏み入れた純粋な迷路ですから、貴方は道に迷ったのです」
私はせせら笑い言った。
「僕が道を間違えたと貴女は言うのか?」
女性が肯定した。
「そうです」
私は泣き笑いの表情を浮かべて言った。
「それでは僕は振り出しに戻ってしまったのか、このすごろくのような迷路には最初と最後という時間概念はないのか?」
我を取り戻したような冷静な口調で女性が答えた。
「不条理で矛盾したこの世界には全うな時間概念はありません」
僕は切なく訊ねた。
「僕は振り出しに戻ったのか?」
女性が答えた。
「最初と終わりという時間概念はないから、振り出しではありません」
僕は訊ねた。
「ならば僕は終わりに近付いているのか?」
女性が答えた。
「いえ、時間概念がない迷路ですから、最初としての最後、最後としての最初です」




