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夢の心135
「トイレ行って来るわ」と私は言って手の平の痛みから逃げ出した。
鏡を覗き込みながら妻が言った。
「貴方、変じゃない。貴方の角度からはこの鏡見えない筈よ?」
私は手の平にある白い闇の目たる妻の痛みを強く握り締めつつ言った。
「いや、ここは夢の迷路だからな、角度が違っても、僕には不条理に見えるのさ」
妻が私の手の平の痛みを睨み付けるように、私を振り返り見つめて言った。
「ここは紛れもない現実じゃない、夢みたいな事言わないでよ?」
私は手の平の白い闇の目たる痛みに耐え兼ね顔をしかめて言った。
「トイレ行って来るわ」




