『プロローグ』
――――て、
誰かの声が聞こえる気がする。
(んっ……)
頭がズキズキと痛む……。さっきのは、空耳か……?
――え、――――て、
やはり声が聞こえる。誰の声だろう。
遠くから話しかけているのだろうか、途切れ途切れで何を言っているのかは聞き取れない。
(なんだ……うるさいなぁ……)
俺はまだ眠い。もう小1時間ほど待ってほしい。
可能であればあと半日ほど待ってくれるなら最高だ。
「起きてってば!! 」
――突然大きな声が頭の中に響き渡り、頭痛を加速させる。
(うぉっ!? なんだ!? というより……声が出ない……? )
おかしい。試しに瞼を開こうとしみるが。開かない……。
次は、腕を動かしてみようとしてみるが動く気配は無い。
まるで、身体が無くなり、意識だけになったような気分だ。
そんな俺の戸惑いを他所に、謎の声の主が話しかけてくる。
「やっと起きた? 」
起きた。というか起こされたという方が正しいだろう。
俺の安眠を返して欲しい。
とりあえず今の状況がわからない。
先程から俺に話しかけてきているのは何者なんだろう。
暗闇に、ふよふよと浮いている光のようなものがある。
たぶんこの光が声の正体なのだろう。
なので、俺は理由を知っていそうなこいつに話を聞いてみることにした。
(起きたことには起きたが、なんで声が出せないんだ? 身体も動かないようなんだが……? )
その質問に謎の光はまるで待っていたと言わんばかりに嬉々とした様子で答えてくる――――
「それはね、君の身体が作り替えられている最中だからですっ!」
(なんだって……?身体が作り替えられている? どういう事なんだ? )
「実はね……、君は、君達が住んでいる世界とは別の世界……。つまり、異世界への転生者に選ばれました。なので、君の身体が次の世界の環境に適応できるように身体を作り直させてもらってるんだ」
(転生者……? 身体を作り直す……? お前、マンガの読み過ぎなんじゃないか? )
「失礼な、確かにマンガとかの娯楽は楽しいけど1日1時間って決めてるんだから! 」
へぇ…そっちの世界にもマンガとかあるのか?
少し興味があるので後で貸してもらおうか。
やはりどこの世界もゲームやマンガは1日1時間と言われているんだな。
――まあ、俺はそんな決まり守ったことなどなかったのだが。
(そうなのか、悪かったな。……って、そうじゃねぇ!! 転生ってなんなんだよっ! 急過ぎるわっ!! )
さらりとスルーしていたが、転生とはどういうことだ。
「それと君、実は栄えある一千万人目の転生者に選ばれました〜。パンパカパーン〜!! 」
(いや転生者多いな!? なんだ一千万人って!? )
突っ込み所が多すぎてそろそろ疲れてきた。
一千万人なんて、都市1つが拉致されてるようなものだ。
一つの世界からそんなに人間がいなくなったのなら当然噂になるだろう。
「まあ、違う次元とか時間軸とかからも連れてきて色んな世界に飛ばしてるからねぇ……案外大人になった自分に会ったりしちゃうかもよ……?」
恐ろしい事を言い始めやがった。
俺が今まで生活していた場所じゃ、自分にそっくりな人間に会うと死んでしまうと相場が決まっているのだ。
(好き勝手してんな……、俺は自分に会うなんて恐怖体験は勘弁願いたいね)
「あははは、僕も自分に会うのはゴメンかなぁ……」
当然だ。俺はまだ死にたくないからな――
(そういえば、さっきから聞きそびれてたんだが、お前は何者なんだ? )
「僕? 君も大体気がついてるんじゃないの? 」
(まあ、今までの話でだいたい分かるんだが、自己紹介くらいしやがれ)
異世界転生で最初に話しかけてくるやつなんて、だいたい決まっているだろう。
「そう?なら自己紹介させてもらうねっ!僕はね……」
(間を溜めるな……なんでそこで勿体ぶるんだ……)
「君のお嫁さんだよっ……!! 」
(は……?)
ちょっと待て、それはおかしい。
頭の斜め後ろからバスケットボールでも当てられたような気分だ。
俺はそもそも彼女すら居ない。
悲しい事に彼女いない歴イコール年齢。
つまりは天涯孤独の非リア充。
甘ったるい青春など生まれてこのかた一度も経験したことのない俺にお嫁さんだと……?
「そんなことよりっ! もうそろそろ身体の作り替えが終わるよ! 一応前の身体よりおまけして頑丈に作ったけど、すぐ死んじゃわないように気をつけてねっ! 」
(ひ……? )
すぐ死ぬようなことがあるということか……?
そして重大な事がそんなことで片付けられている気がする。
「あっ、それと君には一千万人目の記念として特殊なスキルをあげたから頑張って生き残ってね? 」
(ふ……? )
記念? 特殊なスキル?
「それでは、楽しい異世界生活へ!!レッツゴー!!」
(はぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? )
「言い忘れてたけど、最初に飛ぶ場所はランダムだからいい場所に落ちるといいねー!! 」
(ちょっと待てぇぇえーー!! )
そんな叫びは虚しく、俺の意識は深い闇に飲み込まれた――――
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尽きる事のない願いを……
果てのない欲求を……
そして、絶える事のない苦痛を……
『願いは尽きることの無い無限の欲望だ。欲求は限りのない渇望だ。そして、苦痛がもたらすは絶望だ。』
「せめて、君の進む道が幸多からんことを僕は祈るよ」