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六日目2:真相

 占い師は忌野だった。赤錆と多聞を占ったが、三日目の夜に人狼に襲われた。

 霊能者は化野だった。戸塚が人狼だと知ることができたが、三日目の昼に処刑された。

 狩人は伊集院だった。偽者の役職者を護衛し続け、五日目の夜に襲われた。

 妖狐は前園だった。人狼の戸塚にクロを出すことができたが、四日目の昼に処刑された。

 人狼は戸塚と鵜久森だった。赤錆を襲い、忌野を襲い、多聞を襲い、伊集院を襲った。

 狂人は、九頭龍だった。

 二日目の昼、九頭龍はどの役職を騙ることもせず潜伏を選んだ。前園から『クロ』が出ていたからだ。

 『人狼』が『占い師』を騙ってもいきなり『クロ』を出すことはないという思考から、三日目の昼、九頭龍は戸塚に対して『人間』判定で霊能者を騙る。本物または妖狐と結果を割るためだ。そして強誘導の末化野を処刑させることに成功。

 本物占い師の忌野が襲撃される。この時点で、九頭龍は半ば本物霊能者としての立場を手に入れた。前園との舌戦に勝利し『妖狐』を処刑させる。

 そして翌日『指定役』として名乗りを上げる。『人狼』らしき人物が処刑されないよう、投票をコントロールするためである。村人同士で議論をさせた末に最も村人に見えた人物……つまりマコトを指定先として提示した。ここまで完璧だった。惚れ惚れするほど。

 しかしこれを九頭龍は取り下げてしまい、他の者を処刑させてしまった。何故か?

 最後に、九頭龍は、夢を見たくなったのだ。マコトという好きな相手と一緒にこのゲームを勝利し、共に生還するという夢を。

 ならばマコトはその夢をかなえてやればいい。村人でありながら『人狼』として名乗りを上げ、九頭龍を騙し本物の『人狼』である鵜久森に投票させればいい。そうすることで村人陣営は勝利を手にすることができる。これが嘉藤が言っていた『ぎりぎりの勝ち筋』。

 九頭龍の想いを利用し、踏みにじり、騙しおおせること。


 ★


 「なにいってんだ! バカじゃねぇの?」

 言って、鵜久森は九頭龍のアタマを掴んで何度も何度もソファに押し付けた。

 「ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! なにバカなこと言ってんのよ、せっかくここまで来たってのに!」

 「やめろ! 見苦しいぞ鵜久森」

 そう言って、マコトは鵜久森の腕をひん掴んで、九頭龍から遠ざける。そのまま自分に掴みかかってくる鵜久森を難なくいなし、床に向かって投げてやる。

 九頭龍を助けるための行動ではない。これもあくまで九頭龍から信頼されるための行動の一環だ。

 「ゆ、夢咲さん……」

 怯えるように鵜久森の方を一瞥してから、信頼をこめた瞳で自分のほうを見やる。マコトは、表情筋を駆使してどうにか笑みを浮かべて見せて

 「ああ。騙されてやる必要なんてないさ。まさかこんなこと言い出すとは思わなかったけれど……でもこんなあとだしじゃんけん通じない」

 マコトはそう言って、床を転がり、殺意に満ちた表情でこちらを睨む鵜久森を見下ろす。

 「『そいつは人狼じゃない。あたしが人狼だ……』いまさらそんなこと言い出したところで……揺るがないさ。こいつが『村人』だってことは」

 鵜久森は少し遅れてこの会場にやってきた。その足取りは勝利の確信に満ちていたはずだ。何故なら、鵜久森の視点では九頭龍が『狂人』だということは、分かりきったことのはずだからだ。人狼の戸塚に『シロ』を出す霊能者でかつ、妖狐でもないなら仲間の『狂人』でしかない。

 しかし、余裕をかまして鵜久森が会場に入って初めて目にしたのは、二人で抱き合っているマコトと九頭龍の姿だった。怪訝に思った鵜久森に対し、マコトは宣告した。『自分は人狼で九頭龍は狂人、これから鵜久森に投票する』と……。

 「……ふざ……けんな。ふざけんなよ夢咲! どこまであたしの邪魔をするのよ!」

 鵜久森は立ち上がり、こちらを睨みつけながら吼える。

 「『人狼』はあたしなんだよ! そいつに騙されんな! 騙されたら負ける……負けるんだよクズ! 分かってんのか?」

 「それをいまさら言い出すあたりが、おまえが『村人』であるという根拠だ」

 マコトは鵜久森としっかり目を合わせて反論する。

 「九頭龍が『狂人』でも、人狼を名乗れば投票されないとでも思ったか? 確かにおまえが生き残ろうと思ったらそれしかないな。でも、遅いだろ。鵜久森、おまえが『人狼』を名乗ったのは九頭龍が『狂人』だと名乗ったあとだ。これは悪あがきをする村人の動きだ。

 しかし俺は『人狼』だから、仲間の戸塚に『シロ』を出した九頭龍が『狂人』だと分かっていた。ゆえに朝一番に九頭龍にそのことを伝えられたというわけだ」

 「あんたがなんでクズを『狂人』だと見抜けたのかは知らない! でも『村人』の癖に『人狼』を名乗ってるのはあんたのほうでしょ?」

 「いいや違うね。俺が村人だとして、どうやったら九頭龍が『狂人』だと見抜けるっていうんだ?」

 実際、これは嘉藤が処刑される前に残していってくれたあの言葉がなければ、どうしようもないことだった。肝心の九頭龍の中身についてまで言わなかったのは、そのことで九頭龍や鵜久森に『村人の人狼騙り』を警戒させてしまうことを恐れたためだろう。何せ、マコトがこうして鵜久森に先んじて『人狼カミングアウト』を行えたのは、朝一番に会場に駆けつけて九頭龍に自分の正体を明かさなかった、その油断のおかげなのだから。

 「……本当ね。本当にそれだけは良く分からない。なんで気付けたの? 嘉藤の奴がごちゃごちゃ言ってたけど……あれのおかげ? 本当忌々しいわよね、あんたら……。『狂人』の九頭龍をキープして伊集院を襲撃すれば、アタシたちの勝利は揺るがないと思っていたのに……」

 鵜久森はぶつくさ言って唾をマコトに向かって吐き捨てる。「くせーよ」とそれを拭い、マコトは再び九頭龍と相対した。

 「もう一悶着あるとは思わなかったな……。変則的だが、これは信用勝負といえる。九頭龍、おまえが今から『狂人』として、どちらの『人狼』を信じるかを選ぶんだ。それに正当すればおまえは大金を持ってこのゲームを抜けられる。……クソったれた日常に、終止符を打って新しい生活を始められる」

 マコトは言った。

 「おまえが決めろ。どっちを処刑するか。どちらの陣営が勝利するか」

 九頭龍は俯きがちにしていた視線をマコトと鵜久森の間で左右に動かし、それから決意に満ちた声で言った。

 「……分かりました」

 涙を拭い、じっと二人の間で握り締めた拳を膝に置いたその姿には、一筋の要素も見逃さないといわんばかりの迫力がある。

 ……やはりすんなりとはいかない。それは、分かっていたことだった。最後の戦いが、始まる。

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