六日目1:カミングアウト
真実はね、残酷なんだよ。ゆるぎないから残酷なんだよ ……ハンドルネーム:NANA
六日目:昼パート
『伊集院英雄』さんが無残な姿で発見されました。
夢咲マコト
嘉藤智弘 × 五日目:処刑死
多聞蛍雪 × 四日目:襲撃死
戸塚茂 × 二日目:処刑死
伊集院英雄 × 五日目:襲撃死
桑名零時 × 一日目:襲撃死
九頭龍美冬
鵜久森文江
化野あかり × 三日目:処刑死
赤錆桜 × 二日目:襲撃死
忌野茜 × 三日目:襲撃死
前園はるか × 四日目:処刑死
残り3/12人
人狼2狂人1妖狐1占い師1霊能者1狩人1村人5
『六日目:昼パート』が開始されます。
☆
自分は『村人』だから指定された。残る四人の中でもっとも『村人』らしい人物と認定されたから、指定先とされた。それが、伊集院が襲撃されたことでマコトが得た結論だった。
そのあと九頭龍がどのように葛藤し、ああして喚き、顔を青くし、指定を自分から変更したのかは……分かる。どんなに目をそむけようが、想像力を働かせることを拒もうが……他の誰に分からなくても自分だけは分かってしまう。
九頭龍は……願わくば自分と共に生き残りたかったのだ。自分と共に生き残れるというその幻想を……ついに捨てることができなかった。それはあいつのエゴで、情だろう。マコトという片思いの相手に対する……純然で盲目的な情欲。
「ゆ、夢咲さん……その」
「おはよう。九頭龍」
マコトは極力表情を消して答える。九頭龍は涙を流しそうに下を向いて、ただ、震えている。今にも叫びだしそうに、頭を抱えながらじっとしている。
こいつに与えられた配役がなんなのか。それは、伊集院が襲撃されたことで、マコトは完全に決め打つことができていた。
襲撃されるということは伊集院は本物『狩人』。残っている『鵜久森』『九頭龍』のどちらかは『人狼』となる。
では……九頭龍がそうなのか? 嘉藤が処刑され際に口にした『九頭龍さんは偽者だ』というのが正しいとして、九頭龍を『人狼』と考えてみたらどうか……。
違うのだ。これだと鵜久森が『村人』ということになってしまうというのが少し違和感だし、何よりそれ以上に、嘉藤自身が『妖狐』ということになってしまう。嘉藤が妖狐なら『回避』をしない理由がない。『君たちにあとは託す』なんて『妖狐』にはいえない。だから、九頭龍が『人狼』でつじつまがあうとすれば、鵜久森が『妖狐』であった場合だけ。しかしこれは今日が訪れている時点でありえない。よって、九頭竜は『人狼』ではない。
そして『妖狐』は五日目が開始された時点で、どこかで死亡していたのだということになる。いったいどこで? それは前園、あの騙り占い師だ。今まで処刑された人物のうち、戸塚は『人狼』で化野は『霊能者』だ。ならば前園が『妖狐』でしかありえない。
『妖狐』の前園は『特攻』を選択した。そして一度はその『特攻』を、『人狼』の戸塚にヒットさせることに成功した。本物霊能者の化野とラインをつなぐことができた前園は、一度は優位に立てたはずだった。
しかしアクシデントが起こる。対抗『占い師』であり『本物』の忌野が襲撃されてしまったのだ。それでもなんとか生き残ろうと九頭龍『人狼』という説を主張した前園だったが、惜しいところまでは行くも結局は3対4の支持で処刑される。潔く敗退していった。
しかし前園の主張はある意味では正しかった。九頭龍が『霊能者』を乗っ取った『偽者』だったという、その一点において。
「夢咲さん……あの。あたし……言わなきゃいけないことが……。うぅ」
九頭龍は言う。
何故九頭龍はあんなに怪しまれていた鵜久森を指定しなかったのか?
何故九頭龍は自分に『村人かどうか』などと聞いてきたのか。
その全てを説明することができる真相は……一つしかない。
「怒ると思います。軽蔑すると思います。裏切ることに……なると思います。ごめんなさい。ごめんなさい。いやだったんです……今までどおりは……あんな死にたくなるような毎日を続けることは……耐えられなかったんです。だから……許して欲しいなんて……」
そう言って九頭龍は子供のように大声を上げて、大粒の涙を流しながら泣きじゃくり始める。
「でも。でも……。夢咲さんが……そうじゃないなら、あたし……これに勝ったって、どうやって生きていければいいのか……。やっぱりこうなるのなら……夢咲さんとこうなるくらいなら……あたしはたとえすべて今までどおりだとしても……」
「分かってるよ。何が言いたいのか」
マコトは、そう言って九頭龍に優しく微笑みかけた。
九頭龍は涙にまみれた顔で、吸い込まれそうな黒い瞳でマコトのほうを見る。子供のように無垢な泣き顔。繊細すぎるほど繊細に見える。気弱で人を騙すことなんてできなさそうに見える。誰よりも無垢で誰よりも綺麗で、誰よりもちっぽけで簡単に踏み潰されそうに見える。
しかし……それは誤りだ。彼女は誰よりも悪魔染みた動きで村人たちを欺き、支配してきたのだ。
「おまえが『狂人』なんだろ。分かってるさ」
そう、マコトは言って、震える九頭龍の体をぎゅっと抱き寄せた。
「……逃げ出したかったんだろ? 今いる場所から。おまえをいじめる全てから、どうしようもない真っ暗な毎日から逃げ出すために……そのきっかけが欲しかったんだろ?」
暖かい、柔らかい、それでいて華奢で弱々しい。その弱さを守ってやりたいと……その弱さの代わりにあらゆる逆境を受け止めてやりたいという、その想いだけは確かだったはずなのに。
恋愛感情は理解できないだなんて、幼く臆病な考えに逃げなければ、その想いは違いなく九頭龍に対する愛情なのだと気付けていれば。
大金などなくても、彼女の想いに応えていれば……全ての害悪から九頭龍を守り抜くとマコトが確かにそう伝えられていれば……こんな悲しい選択はさせずにすんだはずなのに。
「俺もそうなんだ」
マコトは言った。胸が張り裂けそうだった。
「……俺が『人狼』なんだ。だから、一緒に大金を持って、このゲームを抜けよう」
マコトは、欺瞞した。
九頭龍は笑った。心底うれしそうに笑った。騙しおおせたな、マコトは感じた。そしてその瞬間、その腕の中で、愛せたはずだった女の温もりが……はるかに遠のいていくのを、マコトは強く感じられた。




