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五日目3:舌戦

 「では……くどいようですが、改めて現状を再確認しますね」

 九頭龍がそう言って口火を切る。

 「ゲーム開始から今までの状況を一度振り返ります。まず、『二日目:昼パート』、ここで『狂人』の前園さんが戸塚さんに『クロ』をだしてカミングアウト。これに『本物占い師』の忌野さんが対抗でカミングアウトしました。

 そのあと、『クロ』の戸塚さんが処刑され、赤錆さんが襲撃されました。あたしは『三日目』の朝に『霊能者』をカミングアウト、結果は『シロ』なので前園さんとはラインが切れます。しかし『人狼』の化野さんが対抗霊能者カミングアウト。

 ここを処刑してもらい、その夜『本物占い師』の忌野さんが襲撃されます。あたしと前園さんのラン(数名の処刑先候補から選択して投票すること)で、前園さんを処刑していただきました。『霊能結果』はもちろん『シロ』。

 忌野さんの『シロ』である多聞くんが噛まれて、現在五人残りとなっています。なので、現状判明している内訳は……」


 占い師:忌野

 霊能者:九頭龍

 人狼:化野+?

 狂人:前園(?)

 妖狐:?(前園)

 グレー(人狼+妖狐OR狂人が潜伏?):夢咲、嘉藤、伊集院、鵜久森


 「となります。前園さんはおおよそ『狂人』で見ているので、現在は1ウルフ1フォックス残り……じゃないかと思います」

 ここまでは分かっていたことだ。マコトと伊集院が同時にうなずく。嘉藤は悩ましげな顔をして腕を組み、鵜久森は状況を整理しなおすように首を振り、そして言った。

 「つまり夢咲、嘉藤、伊集院の中に『人狼』と『妖狐』が一人ずつ、なんでしょ?」

 「鵜久森殿視点ではそうなりますな。そして『人狼』を先に処刑しては『妖狐』の勝利となってしまいますので、今日は『妖狐』目を狙って処刑する以外ありえない」

 伊集院が言う。すると鵜久森は

 「はんっ。そんなこと言ったって怪しい場所はっきりしてるんじゃないの?」

 と言い放つ。マコトが「どういうことだ?」とたずねると、鵜久森は

 「伊集院よ。こいつ二日目からずーっと、偽者占い師の前園を本物だって言い張ってるじゃない。それなのに前園が処刑されてもそこまであわてた様子はないし、とうてい『村人』とは思えないんだけど」

 「あわてていないから『村人』でない、というのは短絡的ですな。そもそも、仮に前園殿が『本物』でも、今日『妖狐』さえ処刑できればケアは可能ですからな……。吊り数は足りているので、特にあわてる必要はないのです」

 伊集院が反論する。前園が本物なら、処刑で『戸塚』、襲撃で『忌野』の敵陣営が死亡済み。残り二人の敵陣営が残っていて、処刑回数も二回。確かに慌てる必要はない。

 「とは言え……昨日の前園殿の処刑際の態度を見るに、彼女は『狂人』だったのではないかと少し疑い始めてもいるんですな……。処刑される本物占い師があそこまで余裕をかましていられるでしょうか……と」

 「ほら来た! 主張をころころ変えてる。クズが『指定』の権利を持ってるからって、前園『本物』主張を撤回して、敵に回さないようにしてるんだ? あたしはコイツを処刑したい」

 鵜久森のその意見に違和感を覚え、マコトはこう切り出した。

 「待て。伊集院は敵だとしても『人狼』の方じゃないか? 伊集院は前園を『本物』だと言い張るのに躊躇がなさすぎる。もし本当に前園が『占い師』だったら、伊集院はみすみす『本物』の信用を高めてしまうことになる。あれだけ前園を本物主張して忌野の信用を落とすことができたのは、伊集院が『人狼』で、人間の戸塚に『クロ』を出した前園が『狂人』だと見抜けたからじゃないのか?」

 「伊集院くんと化野さんが『人狼』で、二人して前園さんの信用を高めるように動いていた……とマコトくんは主張するわけだ」

 嘉藤が言った。マコトは「そうだ」とうなずく。伊集院はグレーの立場から発言によって、化野は『霊能者』を語り前園と主張を合わせることで、前園を『本物』認定されるように動いた……これがマコトの推理だ。

 「でもその場合さ。『狂人』の前園さんを『本物』に見せかけて、忌野さんを処刑することが、人狼陣営の戦略だったわけじゃない? それをいきなり忌野さんを襲撃する戦略にシフトするなんて、少しばかり一貫性がないように僕には思えるんだけど」

 「『霊能者』を騙った化野が『処刑』されたことから、『前園』―『化野』ラインでは、『忌野』―『九頭龍』の『本物ライン』に信用で勝つことは難しいと判断したんじゃないか? それで忌野を襲撃してしまったと」

 「あの時化野さんを処刑したのはあくまでも『バランス処刑』だよね。前園さんの信用に影響はなかったはずだよ。それなのに忌野さんを襲撃した。前園さん本物派だった伊集院くんが後から疑われることを、まったく織り込むことなく……」

 悩ましげに腕を組む嘉藤。ぶつぶつと何かを考え込むように下を向く。この態度が敵陣営のものには、正直あまり見えないが……。

 「嘉藤、あんたもあんたよ? 結局あんた今日に入ってから、人の意見をつぶすような発言しかしてないじゃない。あんた自身の意見ってないの? みんなで誰が『妖狐』か考えなきゃいけないって分かってる?」

 鵜久森が噛み付く。嘉藤は「は?」とこめかみに中指を突きつける。

 「九頭龍さんが本物なら君たち三人のうち二人は敵なんだよ? 『みんなで仲良く』議論なんてバカげてるとしかいえないね。誰かが隙のある意見を出してきたなら、それをつぶしにかかるのは当然さ」

 「なにそれ? 誰にでも何癖つけるのは誰が処刑されてもいいからでしょ?」

 「誰が処刑されてもかまわないのは君のほうでしょ? 伊集院くんを処刑したいと言い出したかと思ったら、今度は僕を『妖狐』呼ばわりかい? 主張が一貫していないにも程があると思うんだけれど」

 「いつあんたを『妖狐』呼ばわりしたっていうの? 誰が処刑されてもいいように見えるって言っただけよ」

 「それが『妖狐』呼ばわりと言いたいんだけど? 『村人』や『人狼』なら、『妖狐』を特定して処刑しようとするよね。『誰が処刑されてもいいように見える』ってのは、『妖狐に見える』ってのと同じ意味だよ」

 「だからなんなのよ?」

 「君は僕と伊集院くんの両方を『妖狐』呼ばわりした。それが破綻した発言だといいたいんだ」

 「どっちも『妖狐』がありうるから迷ってるのよ!」

 「ダウト。君、僕を妖狐呼ばわりしないって言ったよね? 話の中で主張がいきなり変わってる。君、行き当たりばったりで発言してない?」

 そこまで嘉藤が言うと、鵜久森はついに反論をなくして黙り込む。嘉藤は当たり前に退けられる相手を当たり前に退けたような気だるさで、再び腕を組んでなにやら思索に戻る。

 「んん~、鵜久森殿はなんというか、推理に対する姿勢がいい加減なように感じられますぞ。全体を通して、考えている振りしかしていないようなイメージがどうしても拭えないんですな」

 伊集院が言った。

 「テキトウ誘導が目立つといいますかな。言動がブレブレで完全に人外(敵陣営)のムーヴに見えます」

 「……同感だな。ここが村人陣営には思えない」

 マコトは言った。鵜久森は目を剥いて「はあ!」と

 「アタシだってちゃんと考えてるわよ! つか夢咲今のって追従よね? アタシが怪しまれてそうだから、それに乗っかって生き残ろうって腹なんじゃないの?」

 「ちょっと待てよ。誰でも疑えばいいってもんじゃないぞ? 結局おまえは誰のことを『妖狐』で見るんだ?」

 「どいつもこいつも怪しすぎるのよ! 誰もかもが疑わしいわ!」

 ヒステリックにそう言って、九頭龍の方を睨みつけるように見る。焦りのこもった、それでいてすがるような表情だった。

 「クズ! いいからさっさとこいつら三人の中から『指定』しなさいよ! どうせ『狩人』で回避してくるんでしょうけどね!」

 言われ、九頭龍は「ひゃいっ」と目を丸くする。それから困惑した表情でマコトたち四人を眺める。

 「え……えっと。その……」

 決めかねるように、九頭龍はあわあわと口元を動かす。そろそろ時間がない。後から一悶着あることを考えれば、そろそろ九頭龍から『指定』が入っていいタイミングだ。

 「その、結局、皆さんはどなたを『妖狐』そして『人狼』で見てるんですか?」

 九頭龍のその質問に、まずはマコトが

 「議論の中でも話したが『人狼』は伊集院だろうと感じている。『妖狐』は嘉藤か鵜久森のどちらか……だが、今日の態度を見るに鵜久森の方がより濃厚だろうな」

 次に伊集院が

 「態度だけで見るなら、一番どこが処刑されてもよさそうなのは鵜久森殿でしょうか。しかし前園殿が『本物』なら、夢咲殿が『妖狐』ということに……。うむふん、どうもやはり前園殿は『狂人』のように思えるんですなぁ」

 主張を変えてきている……? これも演技と見るのが妥当か。嘉藤が『人狼』には見えないし、鵜久森の動きはどこを処刑してもかまわない『妖狐』のそれだ。となると消去法でラストの『人狼』は伊集院、これでいいはず……。

 「鵜久森さんは敵だろう。でもマコトくんや伊集院くんが敵には見えない」

 嘉藤が肩をすくめながら言った。

 「マコトくんが嘘を吐くなら僕は見抜ける自信がある。彼は悩みながら戦ってる村人に見えるね。伊集院くんは視点が偏っているけれど、そこがむしろ村人らしく感じられてしまう。というより、僕はまだ九頭龍さんを信じきっていない。ごめんね」

 結局こいつはずっとふわふわとしたままだった。これは何かの伏線なのか? 今日鵜久森を処刑することには強く反論せずにいて、明日になっていきなり九頭龍を『人狼』だなどと言い出すつもりであるとか……。

 「……誰でもいい、とは言ったけど。そうね、アタシが一番怪しんでるのは、夢咲」

 最後にそう言ったのは、鵜久森だった。

 「アタシも正直人のこと言えないんだけどさ、結局コイツってしっかりした意見を持ち始めたのって四日目、忌野が『襲撃』されてからじゃん。忌野が襲われるなら、そっちが本物で前園が偽、これは当たり前のことよね? その当たり前のことしか主張せずに、周りの意見にまぎれてる。そんな印象よ」

 それはすべて鵜久森自身にも返って来ることだ。マコトはそう感じた。

 全員の意見が出揃う。村人たちは、息を呑んで九頭龍の指定を待ち受ける。

 八つの視線に見つめられ、九頭龍は怯えたように視線を逸らす。それからぼーっと、何か別のことを考えているかのごとく沈黙する。

 長い長い、停滞だった。人形か何かのように空ろに、なにを考えているのか、何かを考えているのかも分からないままで、その沈黙は続き……そして唐突に破られた。

 「……夢咲さん」

 その一言に、マコトは心のそこから素直な声が出た。

 「ああ?」

 「夢咲さんです」

 九頭龍はマコトのほうを向き直って、泣きそうな顔でこういった。

 「指定先は夢咲さん……今日の処刑はここでお願いします」

 マコトは、あっけにとられるしかなかった。

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