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三日目3:ノイズ

 処刑の映像が画面内に表示される。

 普段肩をだるそうに落としてとぼとぼと歩いている化野も、十三階段の前ではぴんとした建ち方になっていた。それは緊張で肩がこわばっているというのもあるだろうし、彼女が何かしらの覚悟を決めていることを示してもいる。

 階段を一歩ずつ登る。その足取りは軽くはない。途中、紙袋をかぶったまま化野は一度、後ろを振り返って……見えないはずの何かを確認した後で、そっぽを向くように前に向き直った。

 その仕草だけは、普段の化野と変わりないように思えた。

 ゴトーが掛けられる。化野はじっとしていた。床が開き、化野の体が宙を舞う。戸塚ほど暴れなかったためか、体は然程揺られることもなく、ただ物理の法則を復唱するためだけに気だるげに左右に動いて……。

 最後に、一瞬だけ恐怖を思い出したかのように首の縄を掴んで手足を激しくばたつかせたあと、すぐに動かなくなった。


 ☆


 戸塚は怒鳴り散らし敵意を振りまきながら『処刑』されていった。化野は落ち着いてどこか投げやりに『処刑』されていった。

 このゲームにおいて『敵』になるものは、『敵』になることを望んで『敵』になっている。ならばこそ、肝の据わっていた化野が敵らしく見え、慌てふためいていた戸塚が自分たちと同じただの被害者のように見える……というのが、素直な見方ではあるのだろうか?

 九頭龍を『本物』と信じるつもりでいるマコトの考えと、その推測は一致する。前園が『村人』の戸塚に『クロ』で特攻、しかる後に味方の化野が『霊能者』を騙りラインを繋いだのだ……と。

 何せ前園はこのアルバイト、ひいてはこのゲームの『リピーター』なのだ。大金奪取にはこのような試練が待ち構えていると、前園は知って参加している可能性がある。ゲームの混乱で誰も確認していないことだが、前園は『報酬はちゃんともらえる』といっているだけで、『いくらもらったか』ということについては何も言っていない。

 前園はこのゲームの常連で、既に何度も勝利を経験し報酬を得ている。

 今回もまた、賞金額の多い『敵』を選択して大金獲得に動いているのではないか? 彼女の連れていた桑名零時という少年は、前園と同じ立場だった人間のなれの果てなのではないか?

 ……などというのは、マコトの疑念が生み出している妄想ではあるのだろう。実際のところ、前園の意見がブレたり破綻した場面は一度もない。十分『本物占い師』の可能性を見ていかなくてはいけない位置というのも、また事実だ。


 既に占い師の決め打ちが必要な状況になってきている。現状、前園視点での『敵』の戸塚と、忌野視点での『敵』の化野を、それぞれ処刑している。どちらの視点でも一人は敵が処刑できているということでもあるが、逆を言えばどちらが本物でも一つお手つきをしてしまっている。

 11人から処刑と襲撃で2人ずつ減っていくこのゲームは、始まった時点では五回の処刑回数が与えられている(11→9→7→5→3→1)。そして敵の数は四人。余裕は一回しかないのだが、その一回は既に消費済み。既に、『占い師』のどちらかを『本物』で決め打ち、『偽者』としてもう片方を処刑することが求められる状況にあるのだった。

 マコトは、今ある情報をもう一度振り返ってみた。


 ☆占い師

 前園:戸塚●→鵜久森○

 グレー:マコト、嘉藤、多聞、伊集院

 忌野:赤錆○ →多聞○

 グレー:マコト、嘉藤、伊集院、鵜久森

 ☆霊能者

 九頭龍:戸塚○

 化野:戸塚●


 処刑:戸塚→化野

 襲撃:桑名→赤錆


 これを見る限り、誰が『本物』で『偽者』だとしても、それぞれにつじつまのあった内訳はあるはずだ。なので問題は個人個人の印象、これに尽きてくる。

 嘉藤は忌野を本物よりに見ている……というより前園を偽者だとする意見を多く発しているように感じられる。かしこい彼の意見だけに説得力はあるのだが、しかし前園のほうも論破されている訳では決してない。

 逆に前園『本物』派の筆頭といえそうなのは伊集院か。彼にとって不快な存在だった戸塚に『クロ』を出して処刑させたというのもあるのだろうか。

 多聞、鵜久森あたりは意見をはっきりさせていない。ふらふらとまだ迷っているようだ。この段階で意見をはっきりさせるのと、曖昧に濁しているのとどちらが『怪しい』と呼べる要素なのだろうか。

 マコトも自分なりの意見を固めておかなければならない。

 九頭龍のことは信じてやりたい。特に合理的に九頭龍を本物だと強く感じられる要素がある訳ではないが……、あのおどおど女が大金のために『嘘』をつき、自分たちを『騙そうとしている』というのは、考えられないし……考えて愉快なことではなかった。

 九頭龍とはなんだかんだ、クラスでは数少なく、マコトと親しくしている人間だった。共にクラスの隅っこに淘汰され、取り残されることに、ぬるま湯めいた親近感を覚えることもあった。それは『絆』という胡乱な言葉で表現することができる。

 そしてその絆を……マコトは一度拒んだことがある。恋人という関係を、マコトは拒んでしまった。その時の泣き声が……マコトの耳に張り付いては消えないのだ。自分が一度彼女を泣かせたのだというのを思い出すたび、マコトは引きちぎれそうなどん底めいた恐怖を味わうことがある。そして自分がもしこのゲームで九頭龍を信じ切れなかったとき……マコトはきっと同じような心地の悪さを味わうことになるだろう。

 だから、マコトは九頭龍を信じたい。臆病で人の顔色ばかり伺っているが、しかし時に強い意志で自分を思いやってくれたあの子のことを、マコトは信じたい。

 信じていることで感じられる、小さな絆の心地の良さを捨てたくない。

 だがそのエゴは……マコトの思考にとって、確かなノイズであることもまた、一つの事実なのだろう。

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