二日目2:処刑
「おーそういうことか。やっぱりな、それしかありえないよなぁ」
と、戸塚が腕を組んでうんうんと、なにやら納得したようにうなずく。
「え? シゲちゃん……どういうこと? なんで『占い師』が二人いるの? 一人しかいない役職者のはずでしょ?」
赤錆が困惑して言う。それに答えたのは化野だった。
「ふーん。つまりアレでしょ? 一人しかいない『占い師』を、『前園』と『忌野』の二人が宣言してる。つまりぃ……かたっぽ敵陣営の『偽者』ででたらめな結果を出してる……ってことなんじゃない。めんどくせー」
「な、なるほど……。アカリ賢い」
赤錆がそう言ってうなずいた。
「そのとおりです。これは基本的に、『占い師』の出す結果にしたがって処刑先を選んでいたら勝てるゲームです。それを阻止するために敵陣営も行動してきます。……『偽者占い師』を出すことによって、ですね。それが忌野さんということです。」
前園が丁寧な口調で説明する。
「えーっと。……つまりどういうこと? 前園が『占い師』を名乗って戸塚を『人狼』と言ってるけど、忌野はそれは違って自分こそが『占い師』だと主張して、赤錆を『人間』と言ってる。忌野にとっては前園は敵陣営なんだけど、前園にとっては逆も然りで……」
鵜久森が困惑したようにぶつぶつ言い始めた。「まとめるよ」嘉藤がニコニコ笑いながら、机の上にメモを取り出しててきぱきと現状を記入し始めた。
☆暫定占い師(どちらかは偽者)
前園:戸塚●(人狼判定)
忌野:赤錆○ (村人判定)
処刑:
襲撃:桑名
「今現在こういう状況だ。ちなみに、お二人とも占い先を選んだ理由はなんなのかな? 参考までに訊いても良い?」
「では」と先に前園が
「初日の夜ですし、わたしは部外者でみなさんのことも良くよくは知らないので……単純に背が大きくて印象に残った戸塚さんを占いました。『クロ』を引けたのはラッキーかもしれません」
次に忌野が。
「……私も初日から占いたい先なんてなかったわ。赤錆さんを占ったのは……出席番号が一番だから、それくらいのことね。こんなことなら、知り合いじゃない、って前園さんを占っておくんだった」
「ふーん。ま、なんにしてもだ。今日のところは、誰が処刑先として妥当なのかははっきりしているといえるね」
そう言った嘉藤に、マコトは「そうなのか?」とたずねる。嘉藤は鷹揚にうなずいてから
「ああ。前園さんと忌野さんのどっちが『本物』だとしても、今日は戸塚くんを処刑してもかまわない日だ」
「ちょっと待て嘉藤。てめぇどういうつもりだよ?」
戸塚が恫喝するように言う。忌野が胸の前で腕を組んで言った。
「それはやめて欲しい。戸塚を処刑させないために、私は出たんだから。『偽者』の『クロ』なんて処刑してる場合じゃないはずなのよ」
これに赤錆が追従し
「そうよ。忌野が本物なら、シゲちゃんは別に処刑しなくてもいいはずじゃない。それなのにどっちが『本物』でもシゲちゃんを処刑していいってのはおかしい」
言われ、嘉藤は一度ため息をついて見せて、額に中指を突きつけながら
「あのねぇ。忌野さんや戸塚くんの立場なら、戸塚くんを処刑させたくないのも分かるよ。でもフラットの赤錆さんの視点じゃ、今日はどう考えても戸塚くん処刑の日でしょう?
まず前園さんが『占い師』のパターン、これは簡単だよね。『人狼』で『敵』の戸塚くんは当然処刑していい。これ以上の説明はないね。
で……忌野さんが『占い師』のパターンだけど……これだって別に戸塚くん処刑でかまわないんだ。忌野さん視点での戸塚くんは『人狼』か『人間』か分からない『グレー』でしかない。対抗占い師の『クロ』ってだけで、忌野さん視点でも戸塚くんが敵陣営である可能性はあるんだよ、それを一つ潰しておけるのは悪くはないはずさ」
「いやそれおかしいって。忌野の視点に立って話をするなら、忌野にとって敵だと確定してる前園から処刑するべきでしょう?」
赤錆が食い下がる。嘉藤はため息をついてから
「で? 君はそれを実行できるわけ?」
とたずねた。「へ……?」赤錆はそこで沈黙するしかない。
「『本物』占い師を誤って『処刑』してしまうことは、村陣営にとって巨大なダメージのはずだよね? 今日いきなりどっちが『本物』占い師かを決め打って『処刑』なんて、リスクが大きすぎるんだよ。何か確信でもあるならともかくね」
「そ、そうはいってもいつかはどっちか処刑しなきゃいけないじゃない……」
赤錆が震えた声で言ったのに、嘉藤は首を振るって
「そうだね。でもそれは今日じゃない。この村には今11人のメンバーがいるよね? これが『処刑』と『襲撃』で二人ずつ人数を減らしていくとして……11人から9人から7人から5人から3人から1人、今『から』って言った回数が『処刑』に使える回数だね。『処刑』のチャンスは五回あり、敵陣営の数は『人狼』二人に『狂人』と『妖狐』で四人だ。つまり最低一回は『お手つき』ができる。これを消化するまでは、『占い師』のきめ打ちなんて先延ばしにして、情報を増やしておくべきのはずなんだ」
経験者もはだしのその情報処理に、マコトは舌を巻く。嘉藤はそこまで流暢に吐き出して、それから自分のこめかみに中指を突きつける。
「僕はこのゲームをするのがはじめてだから、この辺のセオリーがどうなってるのかは知らないけど……まあ『まともなアタマ』で『ふつう』に考えたら、今日前園さんを処刑ってのはありえないって分かると思うよ?」
「良い意見ですね」
前園はにっこりと笑った。
「そして現状、『占い師』を決め打つ情報を増やす手段が一つ存在しています。それは戸塚くんを『処刑』してしまうこと。戸塚くんを処刑すれば、『霊能者』の能力によって戸塚くんの中身が判別できますよね? 明日『霊能者』に出てきてもらって……その『霊能結果』が『人狼』と出たら? あるいは『人間』と出たら?」
「もし『霊能者』が『人狼』といえば前園は本物っぽくなるし、『人間』なら偽者っぽくなる……ってこと?」
白雉のような顔で言う赤錆に、前園はにっこりを「そのとおりです」といった。
「……あー。なるほどね。今日はシゲちゃんを処刑したんでいい気がしてきた」
赤錆がつぶやくように言う。「ちょっと……桜。なにいってんだおまえまでっ!」恋人の裏切りに、あせりに満ちた口調で戸塚が言う。それはほとんど、『わめく』ような無様な有様だった。
そんなものだろう。マコトは思った。高校生同士の恋愛ごっこなど、『自分の身の危険』の前では容易く崩壊する。嘉藤と前園に丸め込まれた赤錆は、最早ゲームを合理的に進めるために戸塚を切り捨てることに躊躇がない。『処刑』された人間は死ぬ寸前まで首吊りにかけられ最悪脳に障害を負うという話を聞かされて、尚赤錆は仲間かもしれない戸塚の『処刑』を主張する。
「……今日戸塚を処刑して明日『霊能者』の宣言を聞く……ってこと? でも、今夜『霊能者』が襲われちゃそれって意味なくなるよね?」
鵜久森が言った。
「だったらさ。『霊能者』を今日のうちに出しておいて、『狩人』に『護衛』っていうの? させといたらいいんじゃない? ほら、出てきてよ!」
そう言って宣言を促す鵜久森に、「わ、わわわわ!」と困惑したように九頭龍が静止した。
「ちょちょちょっと……。鵜久森さぁん……それはだめですよぅ」
「あぁん? クズの癖に意見する気? 今夜『霊能者』が噛まれたらだめなんでしょ?」
その怒鳴り声に、九頭龍は「ひ、ひぇえええ」と涙を流しつつ、「あの、えっと。ぐす、その」とたどたどしく
「その、そのあのその……。死なせちゃダメなのが『霊能者』だけだったら……それでいいと思うんですけど……。でも、前園さんと忌野さんのどちらかは、『本物』の占い師な訳じゃないですかぁ……。もし『霊能者』を出させてそっちを護衛させたら、『人狼』は『占い師』を襲い放題になっちゃうんですよぅ……」
「……あ」
そう言って鵜久森は口元に手を当てる。正論だ。無用に『狩人』の護衛先候補を増やしてしまえば、それだけ『人狼』は役職者を狙いやすくなってしまう。『霊能者』に護衛が行けば『占い師』に、『占い師』に護衛が行けば『霊能者』に危険が及んでしまうのだ。
「それと平行して……本当は今日忌野さんが『占い師』として出てくるのも……本当はあんまり良くはなかったと思うんです。
その……だって今日の処刑先は忌野さんが出ようと出まいと、戸塚さんで決まっていた訳じゃないですか……。つまり、今日のところ忌野さんが誤って『処刑』されてしまうリスクはなかった。それなのに『占い師』なんかに名乗り出たら……、危険じゃないですかぁ」
そういわれ、忌野が「う……」と一瞬沈黙し、それから釈明するように言った。
「戸塚を助けられると思ったの。偽者の『クロ』判定先なんて村人陣営に決まってると考えた。それに、本物の『占い師』としては、『偽者』が出てるのに黙ってるわけにはいかないって」
感情論的だがそれだけに理解ができる。忌野の立場で、『偽者』が出ている中で潜伏を続行するというのは、相当な自制心がなければできないはずだ。
「んんん~。狂人や妖狐が『人狼』に『クロ』を出した可能性を考慮すれば、忌野殿視点でも戸塚殿が村人陣営だとは限らないんですな。フラットな『グレー』だったはずです、『助けるため』というのはやや違和感があるんですな」
伊集院がねっとりとした口調で口にする。
「我は素直に前園殿が『本物占い』、戸塚殿が『人狼』と読むんですぞ。忌野殿は前園殿から『狩人』の護衛を奪い取ろうとして出てきた『狂人』あたりでしかありえない」
「狩人の護衛を奪い取る、っていうのは?」
多聞が意味がわからないとばかりに尋ねる。伊集院は胸を張って
「もしも前園殿しか『占い師』宣言者がいなければ、『狩人』は迷わず前園殿を護衛することができます。しかし忌野殿が出てきたことによって、『狩人』は前園殿と忌野殿、どちらを『護衛』するかの二択を強いられるようになるのですな。その間隙を突いて『人狼』が『本物占い』を『襲撃』するというタクティクス、これが忌野殿の狙いではないかと……」
「ちょっと言いがかりが過ぎるわよ、伊集院くん。なんでそこまで断言できるのかしら? 何か見えてるの?」
忌野がそう険のある声で言う。伊集院は「ふひひっ、経験者の勘なんですな」と卑屈な声を出して引き下がった。
そのタイミングで前園が口を出す。
「伊集院くんが村人陣営かどうかはともかくとして……。忌野さんが合理的に動く本物『占い師』なら、ここでのカミングアウトはありえない、というその意見は正しいです。
『占い師』の一番の仕事は、自らが生存することで村に『占い結果』を伝えることです。それなのに、わたしという対抗がいて護衛がもらえるかどうかも不確かな状況で、『処刑』の心配もないのにわざわざ露呈していくなんて。『襲撃』に対する危惧がなさ過ぎるとは思いませんか?」
酷く流暢な口調だ。そしてかなり説得力がある。自分の身を守ろうという気持ちが僅かでもあるならば、忌野はここでカミングアウトするはずがないのだ。
「ここでカミングアウトできるということは……それは忌野さんが『襲撃』を心配しなくていい立場にいるということに他なりません。つまり、彼女自身が『人狼』であるとか、襲われても死なない『妖狐』である、などなどということです」
「襲撃を心配せずカミングアウトしたのはあなたも一緒でしょ?」
忌野が反論する。前園は「いいえ」ときっぱりとした声で
「違います。わたしが宣言した時点では、まだ処刑先は決まっていませんでした。自身が処刑されるのを回避するには自ら名乗り出るのが最適でしたし……おまけにわたしは『クロ』を一つ引いてもいました。何も考えずにただ出ただけのあなたとは、何もかもが異なります」
「……違う。私はただ……『偽者』が出たのに黙っていられなくて。それがふつうの思考のはずでしょう? そこまで考えて黙ってることなんてできないわよ」
冷静な学級委員である彼女でも道理だ。前園や伊集院の言うことも一つの合理的な思考ではあるのだろうが、しかし忌野は忌野なりに最善を尽くしたのだ。
……いいや。違う。
それは忌野が本物であった場合だ。どちらが本物であってもおかしくはない以上、どちらに感情移入することもあってはならない。勝利し生還するためには……感情は捨てて論理的な思考を積み重ねていかなければならない。
「……なあ。二人の話を比べてどう思う?」
マコトはたずねた。無意識に視線が向いていたのは、嘉藤のほうだった。
「へ? 僕かい」
嘉藤がすっとぼけた顔で言う。マコトには、こいつが一番冷静で、論理的であるように見える。いささか冷静すぎるのがどうにも気になるところではあったが……、しかし警戒するならばこそ、こいつがどう主張し、どんな立場を取るかを把握しておくことは重要だ。
「ああ……どっちが本物の占い師だと思う?」
いわれ、嘉藤は「うーん」と首を捻って
「話の筋が通っているのは前園さんのほうだ。忌野さんがカミングアウトした理由は、あまりにも短絡的だね」
「そうだよな。俺もそう思う」
「けど……それを考慮にいれても、僕は忌野さんを本物よりに見たいと思ってるんだよね」
その発言に、マコトは興味を引かれて「何故?」とたずねる。
「前園さんはさ、かなり流暢に、しっかりと根拠を持って自分がカミングアウトをした理由を説明できているよね。『処刑されないこと』『占い結果を伝えて最適な処刑先を提示すること』『襲撃の危険性は狩人の護衛で軽減できること』などなど……」
「それがどうかしたか?」
「それにしてはカミングアウトが遅かったように思えるんだ。僕が前園さんの立場だったら、朝一番に『占い師だ』って言っちゃうね。それだけの理由を後からでも説明できるんだから。下手にカミングアウトを遅らせて騙り占い師から自分に『クロ』でも出されてみなよ。後から自分も占い師だなんていったところで、処刑先逃れにしか見てもらえない」
「言ってることは理解できなくもないが……。じゃあ前園が偽者として、なんでわざわざ様子見をしたっていうんだよ?」
「まずは全員の言動を確認して、『人狼』判定を出すにふさわしい人物を吟味していたとかどうだろうか? たとえばそう、前園さんが『狂人』だとする、すると彼女にとってもっとも最悪なのは仲間の『人狼』に『クロ』を出してしまうことだ。それを回避するために、『村人』っぽく見えるところを探していた……とかね。それにしては、戸塚くんがピカイチ村人に見えたかといわれれば……なんともいえないところだけれどさ」
「ちょっと待って。さっきから饒舌なそいつに誘導されてるように思える」
鵜久森がいらいらとした表情で言った。
「さっきからべらべら喋ってなんなの? そうやってアタシたちを騙そうって寸法? 自分の都合の良いように議論を誘導した言って魂胆が見えてるんだけど? 黙っててくれない?」
そういわれ、嘉藤はニコニコ笑いながら
「ごめんごめん。うるさかったかな。まあ言いたいことは言い終えたし、かまわないよ。ほら、口チャック、っと」
そう言って自分の口に指を這わせる動作をする。鵜久森は「……本当ウザい」と一言つぶやいて
「クズ。あんたどう思う?」
と、気まぐれのように視線を向けた。いきなり指名された九頭龍は、「あ、あたしですかぁ……?」と困惑した様子で。
「そ。どっちが本物に見えるかとか……ろくなこといえなかったら裸で犬の真似してもらうからね。ほら、早く」
「ひ、ひぇえええ……。その……あの……『占い師』なら、あたしは忌野さんが本物……じゃないかと思います」
九頭龍はあわあわと口元を動かしながらなんとかそういいきった。鵜久森は「へえ」とうなずいてから「それどうしてよ?」と促す。
「りり、理由とかは……ないんですけどその……。忌野さんには普段からお世話になってますから……その、あんまり嘘ついてるとか考えたくなくて……」
「美冬ちゃん……」
忌野が救われたような顔で言う。とどのつまり、理屈云々ではなく、人格的に信頼されたということになる。どんな場合であっても、自分の失敗や不合理を全てひっくるめて信頼してくれることは、嬉しいものだ。
普段から忌野は、いじめられっこで孤立している九頭龍のことを何かときにかけていた。鵜久森グループに逆らえる力まではなかったので、それはあくまで『気にかける』レベルを脱してはいなかったが……しかし九頭龍にはちゃんと伝わっていたらしい。もっとも、忌野が偽者だとすれば、九頭龍はまさに間抜けなカモであるといえるが。
「でもさー。それ感情だよねー」
と、ダルそうに言ったのは化野だった。
「そ……そうですね。根拠という根拠は、その……」
指摘され、九頭龍はしょんぼりとして黙り込む。
「そもそもさー。『クロ』判定って偽者が出すこと自体が厳しくねー? だって『クロ』処刑してー、『霊能者』が結果発表してー、『シロ』だったらその『占い師』破綻じゃん。返しに自分が処刑されてはいおしまい、でしょー?」
化野の意見はもっともに聞こえる。しかし、九頭龍は「い、いえ」と
「確かにそういうリスクはあります。……だから処刑されたくない『人狼』が『占い師』を騙るとして、いきなり『クロ』は出しづらい……んですけど。でも『狂人』は違いますよね、だって狂人の生存は人狼陣営の勝利条件に含まれていないんですから。テキトウな場所に『クロ』を出して、『霊能者』の結果で破綻して自分が処刑されるなら、むしろアドバンテージだと思うんです。村の『処刑』を二回消費させられてるわけですから……」
「んん~。自滅覚悟の特攻という奴ですな。いわゆる狂人クロ特攻です」
伊集院がニヤニヤといった。
「ちなみにその狂人特攻が、仲間のはずの『人狼』にヒットしてしまうことを『狂人誤爆』と呼びます。これが起こったら『運が悪かった』とあきらめるしかないんですな。リスクのある戦術とはいえますが、成功した場合の自陣営への貢献度は低くないので人気の戦術ですぞ」
「前園は偽としたら『狂人』で見るべき……ってことか? 確かに『人狼』はなさそうだが……じゃあ『妖狐』はどうだ?」
マコトは言う。『妖狐』、村人陣営にも人狼陣営にも属さぬ第三勢力。生存したまま、村か狼のどちらかの陣営が勝利すれば、自身が勝者になれる。襲撃されても死なないが、占われると死亡する。
「は? マコトあんたバカ? 前園が『妖狐』とかフツーに考えて絶対ないっしょ。『妖狐』って、自分が生き残ればそれでオッケーって役職でしょ? でも一人しかいないから誰より保身に気を使わなきゃいけない。のにテキトウに『クロ』出すなんて、自殺しにいってるようなもんよ?」
鵜久森が言う。「いえ、その……」と九頭龍はおずおずとした様子で
「基本的にはそうですが。たまにそう考えない人もいて……その」
「あ? どういうこと? なんか意見あんの?」
「ひ、ひぃい。その……」
「いいよ言って。なに?」
「はは、はい……えっと」
九頭龍は自分の中で言いたいことをまとめるためだろうか、「えっと、えっと」としばらく言いよどんでから
「け、結論から言うと、『妖狐』の『特攻』は先方としてあります。だって、『人狼』と違って『妖狐』の特攻には『当たり』がありますよね……? 特攻した『人狼』は、仲間の狼に『クロ』でも出さない限り、翌日確実に『本物霊能者』との間で主張の食い違いが発生します。でも『妖狐』なら違います。だって、『妖狐』は運がよければ、『人狼』に『クロ』を出すことだってできるんですから。『霊能者』と結果が一致すれば、『妖狐』はかなり優位なポジションを得られますよね……」
「でも運否天賦よね」
鵜久森が言う。九頭龍は「はい」と俯いてから
「……ですから、『特攻』を選ぶ妖狐は多くはないです。しかし、『妖狐』はもともとかなり不利な役職ですから……占われても死、吊られても死、仲間は誰もいない……いきなり博打を打ってくる人もすごくたまにいてですね……」
「なんだか議論が白熱していますね」
他人事のように言ったのは、誰であろう前園だった。
「わたしが『偽占い師』だとすれば何者か、という議論でしたね。安心してください、わたしは『本物占い師』ですから。それは明日『霊能者』が証明しますよ」
「おい……それって結局おれを処刑するってことかよ?」
戸塚が声を張り上げる。
「おかしいんじゃねぇのか? こんな部外者の言うこと信じておれを処刑なんて……なぁ。冷静に考えてみろよ、おまえら乗せられてんだよ。おれを処刑しようと誘導してた奴みんな『敵』だ」
「いやぁ……そこを抑えてくださいよ戸塚クン。明日『霊能結果』で戸塚さんの潔白は証明されるんすから。へへへ」
多聞がへらへらとしながら言った。戸塚はそんな多聞を殴り飛ばそうと、拳を振りかぶる。
「この部屋での暴力は禁止だそうです。銃を持った怖いお兄さんに追いかけられちゃいますよ」
そう言って前園が綺麗に微笑む。戸塚は忌々しげに拳を引っ込めて、それから一同を見回し
「マジで処刑するのかおれを……。なあ、どうなんだ……桜」
そう言って恋人のほうに視線を向ける戸塚。赤錆は気まずそうに視線を逸らして
「ごめんねーシゲちゃん。ワタシできたら生き残りたいっていうかー、シゲちゃんのその態度もちょっと怪しいってのもあるし、そのー。きゃははーん、処刑されててくれる?」
「こいつ……」
憤怒に満ちた表情で恋人を覗き込む。赤錆はそっぽを剥き続ける。ここでポーズでも恋人をいたわる振りをしない分、赤錆は合理的な人間に程近いのだろう。
「覚えとけよ……おまえら。クソ……クソぉおお!」
そう言って悔しげに戸塚が慟哭したところで……時計の針が昼の限界まで進み、議論時間終了を遂げるベルが鳴った。
☆
(0)夢咲マコト→戸塚茂
(0)嘉藤智弘→戸塚茂
(0)多聞蛍雪→戸塚茂
(10)戸塚茂→前園はるか
(0)伊集院英雄→戸塚茂
(0)九頭龍美冬→戸塚茂
(0)鵜久森文江→戸塚茂
(0)化野あかり→戸塚茂
(0)赤錆桜→戸塚茂
(0)忌野茜→戸塚茂
(1)前園はるか→戸塚茂
『戸塚茂』さんは、村民協議の結果処刑されました。