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プロローグ1:二人の日陰者

 アクセスありがとうございます。

 村民一覧


 夢咲マコト (ユメサキマコト)

 嘉藤智弘 (カトウトモヒロ)

 多聞蛍雪 (タモンケイセツ)

 戸塚茂 (トヅカシゲル)

 伊集院英雄 (イジュウインヒデオ)

 桑名零時 (クワナレイジ)

 九頭龍美冬 (クズリュウミフユ)

 鵜久森文江 (ウグモリフミエ)

 化野あかり (アダシノアカリ)

 赤錆桜 (アカサビサクラ)

 忌野茜 (イマシノアカネ)

 前園はるか (マエゾノハルカ)


 ☆



 誰もかもを疑うことは、誰もかもを信じることよりも、はるかに愚かしくて臆病なことではないでしょうか。 ……ハンドルネーム:セイレーン




 夢咲マコトは不器用な日陰者だった。自分の在り方に迷い苦しみ、結果として自堕落な日々を選択する、暗い青春をのたうつどこにでもいる根暗者だった。

 この間、高校一年生になった。通うのは、全国でもそこそこの進学校だ。特に勉強が好きな訳でもなかったし、部活動で優秀な成績を収めた訳でもなかったが、教育熱心な親が彼を裏口入学させたのだ。

 過度な期待を寄せ続ける両親に対して、苛立ちのような、わずらわしさのような、そんな感情を持て余しながら、マコトは高校に通った。授業など真面目に受ける心境になれるはずもない。ただ、両親が自分に求めるもの以外で、何か自分で興味を見つけてそこで力を発揮したい。そう願うばかりの怠惰で流されるような毎日を持て余しては、窓際の席で空を見上げた。

 逃げ出したい。

 自分の居場所はここじゃない。

 けれどそこがどこかなんて分かるはずもない。真実を言い表すならば、興味を見出せないのは今のマコトに何の才能もないからで。そんなマコトの居場所というのは間違いなく、不真面目な不良のレッテルを貼られ、孤立した教室の隅っこでしかないのだった。


 ☆


 「あ、あの。夢咲さん」

 窓際の席で空を見上げるマコトに、声をかける色白の少女がいた。

 「話かけても、いいですか?」

 「え? ああ」

 何だその前置きは、と思いながら、マコトは生返事を返す。

 「九頭龍か」

 「は、はいぃ……。その、名前覚えてくださったんですか?」

 卑屈そうな表情のその少女は、九頭龍美冬といった。そのけったいな名前と、入学初日からクラスメイトに強要されて、可愛らしい顔で泣きながら『セミの鳴き声』の芸などさせられていたことは、記憶に鮮明だ。

 何日か前、教室で裸にされそうになっていた彼女の色白の肌と大きな乳房のことも覚えているし、それを見てどれだけいたたまれない気持ちになったのかも忘れない。泣きじゃくりながら怒りもせず、ただこれ以上酷い目にあうまいといじめっ子に媚びる九頭龍に強いセクシャルを感じてしまった自分。はっとして、どうしようもなく何かが許せなくなって止めに入り、いじめっ子のリーダーの女子を口論の末に殴ってしまったことも。それが原因で停学になってしまったことも。忘れられはしない。それ以来だ。自分が今のように孤立して煙たがられるようになったのは。

 「そ、その夢咲さん……あの」

 「ああ。何の用事だ」

 「いえその……用事とかは。あの……あ、えっと、良い天気ですね」

 「…………ああ。そうだな」

 マコトは生返事を返す。すると九頭龍は少しうれしそうに、照れたように笑ってから、また次の話題を探すために挙動不審にあわあわと口を動かし始めた。

 自分に話しかけてみたはいいが、何を話したらいいか分からずに混乱しているという事情をマコトは察する。こんなことは始めてではなかった。例の事件があってからというもの、九頭龍は自分に懐いたか何かで、頻繁に声をかけてくるようになっていた。

 クラスメイトたちは、そんな九頭龍の姿を遠巻きに眺めつつ、おもしろがるようなあざけるような視線を投げていた。しょうがなくこちらから話題を投げてやろうとしたが、自分も同じように口下手なことを思い出して一瞬、言いよどんだ。

 「おまえ、普段は何をしてるんだ?」

 無様な質問。九頭龍は必死で「えっと、あの。その」と、なんでもない質問のはずなのに必死で答えを探り

 「テレビ見たり勉強したりしてます」

 と、およそどうしようもないことを返す。

 「ゲームとかしないのか?」

 自分などすることがないので家に帰ってそればかりだ。とはいえ、女子はテレビゲームとかしないんだっけ? 

 「え……えっと。すいません……あたしやらないんです……」

 「いやなんで謝るんだよ」

 「ひ……。ご、ごめんなさい……。気に障ってませんか?」

 「障ってないって」

 「あ……すいません。面倒くさかったですよね。その」

 「いいから」

 マコトはため息をつく。この様子ではいじめられるのも無理からぬ。強く人と繋がりたがっている割に口下手で人を苛立たせ、従順でなんでも言うことを聞いてしまう。どうあっても使いっ走りが良いところなら、誰とも関わらずにおとなしく過ごしていればいいものを。

 「ごめんなさい……。あ、そうだその……一つありました。やったことあるゲーム……えへへへ」

 と、九頭龍は少しだけ明るい表情になって言った。マコトは「へえ。なんだよそれ」と特に興味もないが促してやる。

 「あのですね……『汝は人狼なりや』っていうんですけど……」

 照れたように言った九頭龍のその言葉の響きに何か聴き覚えがあるような気がして、マコトは視線を返した。

 「なんだそれ? 人狼? どっかで聞いたことあるような……」

 「はい……。ドイツで何か大きな賞を取ったアナログゲームが元になっているそうで……。日本でもテレビ番組とかでも題材にされてますから、結構有名じゃないかと思います」

 「へー。で、どんなゲームなんだ?」

 マコトは言った。九頭龍は「えっと、えっと」と少しまごついてから、本人なりに整理がついたのだろう、ぎこちなく説明を始めた。

 「えっと、えっとですね。世界観はこうです。

 山奥の孤立した小村に……『人狼』というのが紛れ込むんです。彼らは昼間は人間の姿をしているんですけど、夜になると狼の姿になって、村人を襲って一人ずつ食べちゃうんですよ」

 「それで」

 「はい、えっと。それで毎朝村人が一人ずつ無残な姿で発見されて……このままじゃ大変だから、『人狼』を退治しようって言う話になるんです。それで、昼の間に誰か一人、『人狼』の疑いを向けられた村人を話し合いで選んで、処刑していくことになるんです」

 「ちょっと待て。誰が『人狼』かはわからないんだろ? じゃあそれは、誰が敵かも分からない状態で、村人同士で殺しあうのか?」

 「え、ええ。無実の犠牲者が出ても、村が全滅するよりは、仕方ないんです」

 「……なんだそれ。むごいじゃないか」

 「す、すいません」

 「あ。いやいいから。話してくれ」

 むごいじゃないか、なんて言ってしまったがようするにゲームの世界観の話だ。マコトには九頭龍がそんな殺伐としたものを好むようには見えなかったが……しかしおとなしそうな人間ほど、腹の中では暗闇を好むものなのかもしれない。

 「は、はいすいません。それでですね、『村人』たちが無事に『人狼』を言い当てて処刑することができれば、『村人』たちの勝利。『村人』同士で自滅して、全滅してしまえば、『人狼』たちの勝利となります。……これを、インターネットのチャットルームで行うんです」

 「チャットルーム?」

 「ええ。ネット上で、十人か、多くて二十人くらいで集まって、誰が何人『人狼』なのかをコンピュータが決めて……それで怪しい人はだれかって話し合うんです。議論の区切りごとに『投票』による『処刑』をして……『人狼』が『襲撃』先を選んで、そしたらまた次の議論へ。これを繰り返して村人か、人狼が全滅すれば終了……となります」

 「それを……やってたのか。九頭龍おまえが」

 「は、はいぃ。その、中学生の一年生から二年生くらいまで。お父さんの部屋にパソコンがあって、夜中にこっそり電源入れて遊んでました」

 ずいぶんと陰気なゲームをやるものだ。子供の頃からそんな殺伐とした疑いあいをやっていたから、こんな性格に育ってしまったのではないのか? マコトはそう思わずにはいられなかった。

 「でも結局は運任せじゃないのか? 結局。よっぽど『人狼』がボロを出せばともかくとして、手掛かりなんて何もないんだし」

 「いえ。そうでもないんですよ」

 「なんで?」

 「『占い師』っていうのが村人陣営の中から、一人、選ばれるんです。『占い師』は、投票のあとで、次の議論が始まるまでの間に、誰かプレイヤーを一人選んで『占う』ことができます。そして、占った人が『人狼』かどうかを知ることができるんです」

 「なら、『占い師』のいうとおりにしていれば勝てるんじゃないか?」

 「はい。基本的にはそうです。それがいやだから、『人狼』側も対策するんです。優先して『占い師』を襲おうとしたり、『人狼』の中から一人が『占い師』を騙って名乗り出て、でたらめな結果を出したり」

 「そこで駆け引きが生まれるって訳か」

 「はい。そうなんです。あと、処刑した人が『人狼』だったかどうか分かる『霊能者』とか、プレイヤーを一人『護衛』して『人狼』の襲撃から守れる『狩人』とかがあって……。お、面白いんですよ……。その、マコトさんも、やってみます? あ、えっと、簡単ですよ」

 そういわれて……マコトは若干の興味を引かれながらも、首を横に振った。

 「そうだな。いや、少し億劫だ。俺はそういう、人と会話をするようなゲームは」

 「あ。ごめんなさい」

 九頭龍は少ししゅんとしていった。

 その時、九頭龍の肩が後ろからぽんと叩かれる。九頭龍はかわいそうになるほどその場でびくびくとすくみあがって、意味もなく「ごめんなさい」と言いながら振り向いた。

 「いつまで話してんだクズ。ちょっとアタシらにパン買ってきて」

 鵜久森文江という女子だ。九頭龍を使いっ走りやいじめの対象にする最右翼であり、過去にマコトが殴って退学処分を食らった相手でもある。

 マコトがなんとなく鵜久森のほうに視線を向けると、鵜久森は一瞬だけ怯えたような表情を向けてから、すぐに敵意に満ちた表情で睨み返した。マコトは思わずすくみそうになったが、しかし孤高を気取るため、どうにか気丈に済ました。鵜久森はいらだたしげな様子で九頭龍のほうを向き、「ほらいってこーい」と背中を押す。

 「わ。分かりましたーっ」

 そう言ってお使いの内容も聞かずに走り出す九頭龍。途中で、鵜久森の仲間の一人の赤錆桜という女子が、九頭龍に足をかけて転ばせる。

 「あ、あたっ」

 子供のように見事なひっかかり方をして体ごと倒れ、鼻を押さえながら起き上がる九頭龍に、赤錆は一枚の紙切れを放り投げた。

 「これ。おつかいのメモねー。そそっかしいよねークズちゃんって。きゃははは」

 「あ。その、はい」

 「ちょっとー? メモくれたんだからありがとうは?」

 「あ、ありがとうございます」

 「はーい。困るのクズちゃんだからねー。優しいわたしに感謝しないとだめだよー」

 小柄な赤錆は陰湿な性格だ。かわいこぶった口調で話すが、同時に誰より軽薄な性根を持っていることをマコトは知っている。

 それからそそくさと買い物にでかける九頭龍。それを見送って、鵜久森は仲間たちの傍の席に腰掛、一人の女生徒に向かって口にした。

 「あの子トロいんだから。ねぇあかり」

 そういうと、化野あかりという髪の毛を限界まで脱色した少女が、気だるげに椅子に腰掛け携帯電話をいじりながら「うーん」とやる気なさそうに声を出す。

 「あの子間違えずに買ってこれるかなー? もう購買売り切れる時間だしやばいかも」

 「うーん」

 「なんか罰ゲームでもさせっかー? 何かおもしろいのないの。あの子いったらなんでもやるからねー」

 「うーん」

 化野は何を問われてもそれしか言わず、視線すら鵜久森のほうに向けない。隣で会話に入ろうとしている赤錆には目もくれず、鵜久森はだらだらと化野に語りかける。

 このあたりの力関係がどうなっているのかは、分からない。この三人組のリーダーはおそらく鵜久森なんだろうが、この様子を見ると単なる主従という感じではないようだ。

 「……『あの子』なんだね。九頭龍のこと」

 化野が携帯電話に視線を向けて、ぼんやりと口を開いた。

 「アイツ、とかじゃなくて」

 妙なところに注目する女だ。

 「うん? 別に友達っしょ。つかいっぱしりキャラってだけで」

 鵜久森が言い放つ。ここの認識がとてつもないゆがみなのだと、マコトは思う。

 いじめは当事者が認識するまでいじめでないというのなら、彼女らがしていることはいじめでない。鵜久森は別に九頭龍を嫌っていじめている訳ではなく、むしろおどおどとした彼女がおもしろく、好き好んでちょっかいをかけているだけなのだ。気分的には、一方的な遊び相手なのかもしれない。

 九頭龍のほうがどんな気持ちかは、マコトには想像しても足りないのだろうが。

 「ふーん」

 化野はダルそうにいって

 「ならそれでいいや」

 と、なんだかテキトウなことを言った。

 ……放っておいていいのか。あいつの、今の状況を。

 そんな風に思いはする。思いはするが、具体的な案が浮かぶわけでも、それを実行する勇気がある訳でもなかった。そしてないものをないままに保留して、なんとなく気にかけるくらいしかしない程度に、自分は無力で臆病で、そして軽薄な人間なのだろう。

 などとひとしきり開き直ると、マコトは九頭龍と時間をずらして購買部へ向かった。パンは、ほとんど残っていなかった。

 ゲーム開始までは結構だらだらかかりますが、おつきあいいただけると幸いです。

 いちお一通り完結するまでは描いてます。140000文字くらい。続き描くかどうかは反共次第で。

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