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ベール方面へ繋がる門の外へ行くと、すでに準備万端整ったフェリエの商隊が街の外壁に沿って待機していた。その中にフェリエの姿を見つけたのですぐに分かったのだが、馬車8台のなかなか大規模な商隊であった。
「フェリエさん、遅くなってしまって申し訳ありません」
「おお、クロウさん。意外に早かったですね。もう少しかかるかと思っていましたが」
天音が声をかけるとフェリエは驚いた様子で振り向き対応した。
「準備自体は終わっていてあいさつ回りだけでしたから。他の護衛冒険者はどこに?」
「商隊の後ろの方で集まっています。案内しましょう。君、ここ頼むよ」
近くにいた部下に商隊の管理を任せ、フェリエは天音を伴って商隊の後方へと足を向ける。
先頭から7台目の馬車の所に5人の冒険者がいた。各々の武器を持ち、何かを話しあっている様子だ。
「みなさん、よろしいですか?」
「ああ、フェリエさんか。なんだい?」
冒険者の1人が代表して対応する。
「護衛冒険者最後の1人です。皆さんにこの商隊の旅の安全をお任せしますよ」
「そのお嬢さんか? ふむ、旅の安全についてはある程度保障するが、お守は勘弁だぞ?」
「もちろんですよ」
フェリエはそのまま立ち去っていく。天音は若干イラッとした。代表冒険者の言葉にほかの冒険者も同意を示したからだ。ストレートに足手まといと扱われた天音は、内心の苛立ちを抑え込み、自己紹介を行う。
「クロウ・アマネ。白の位。護衛依頼は初めて受ける。というか王都を出るのも初めてのこと。ベールまで行くというこの商隊護衛に参加させてもらいます」
天音の自己紹介を受けて代表冒険者が一応の紹介を行う。
「俺はコード。黄のパーティ・オーガレンスのリーダーで、一応今回のリーダーという立場にある。そっちの弓を持った女はカーラ。白のパーティで弓使い集団、狩人のリーダーだ。そっちのローブ着てるのが、魔法士ギルドから来た連中を束ねてるオッセ」
コードの紹介を受けて目礼だけしてくる2人。
「魔法士ギルド? 冒険者ギルドの依頼で動くんだ」
「そんなわけないだろ。向こうにも1パーティ限定で出したんだと。それから、俺の両脇にいるのが一般的なパーティ編成をしている白のパーティのケオと、戦闘狂のリーダーを持って苦労している黄のパーティ・サラマンディアのサブリーダー、オリスだ」
コードからの紹介が終わり、オリスが目礼した所でケオが文句を言いだす。
「コードさん、こんなガキ連れて行くんですか? お守はごめんって言いましたよね?」
「依頼主が連れてきた。俺の確認にも分かっていると返したなら実力はあるんだろう。この手の依頼が初めてなら俺のところと一緒にしておく。文句があるか?」
「ありますよ。このガキの実力が分からないんじゃ話にならない。おいクロウとか言ったな。なにができるんだ」
ケオの高圧的な態度に内心のイラつきが増し、天音はつい馬鹿にした態度をとってしまう。
「見ての通り格闘主体よ? それも分からないのかしら?」
「っ! ガキが……」
「クロウ、その態度は良くないぞ」
天音の態度に対してコードが諫める。天音も自覚していたが故、素直に謝罪の意を示す。コード自身は忠実に職務を遂行しようとしているに過ぎず、文句を言う筋合いはないし、自分があまりに冒険者らしくないのを天音は思い出したのだ。
「ごめんなさいコードさん。何ができるかでしたね。格闘主体の戦闘術と剣を少し使えます」
「剣? 冒険者が武器も持たないでどうすんだよ。やっぱりガキは……」
ケオの更なる悪口に、ついに天音が切れた。落ちている小石をケオに向けて蹴りつけたのだ。当然[身体強化・極]は全開でかけ、更にインパクトの瞬間小石に[装備強化・極]もできるだけかけて。結果、飛んで行った小石は目にも留まらぬ速さでケオの足をかすめ、後方の地面を音を立てて大きくえぐった。
全員が呆然としてその着弾点とみていると、突然の音に驚いた冒険者パーティが寄ってきた。
「コード、何があった!」
「あ、ああ、だいじょうぶだ。もんだいない」
「どこがだ! 思い切り地面がえぐれてるだろうが! 話し方もおかしいぞ!」
コードのパーティメンバーと思われる斧を担いだ男が、コードを問い詰める。そのわきで天音は、
「……はずしたか」
等とほざいた。そしてケオに対して脅しをかける。
「さて、冒険者が武器を……なんでしたっけ?」
「……な、何でもない」
その様子を見た斧男は、
「あれをこの嬢ちゃんが?」
「そうだ。実力は十分だろうが扱いは難しそうだ。護衛依頼は初めてらしいし、うちと同じ所に配置する」
「まあ、妥当だな」
こうしてひと悶着あったがようやく冒険者として初めての護衛依頼に、天音は出かけたのだった。