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旅の支度は終わってます。

 謁見を終えた天音は受け取った品物をアイテムボックスに放り込んだ後、旅立ちのあいさつをするために王妃にして義理の姉、アリアラーナの許を訪ねた。

「アリア姉さま、これよりベール国へ行ってまいります」

「そう、今日だったのね。残念だわアマネ、貴女はとても可愛くてイジリ甲斐があったのに」

「姉さまのそういうところが嫌いです」

「私はアマネのそういうところが好きよ?」

 簡単なあいさつを済ませると天音は逃げるように王宮を離れるのであった。


 王宮を辞した天音はその足で養父・アルバラートの所へ赴き、旅に出る旨を告げる。

「お世話になりました、お養父様。これより私はベールへ向けて旅立ちます」

「うむ、王太子殿の婚姻の祝いだな。疾く行ってまいれ」

 そんな養父の言い方から今回のことは周知の事実だったことを天音は知る。

「やはり私が使者として赴くことは既定事項でしたか」

「まあ先日の貴族会議での決定だからな。旅立つちょうど良い人材がいるのだから使わねば損だろう?」

 国全体が自分を送り出そうとしていたことに軽い眩暈を覚えながらも、天音はアルリアータ家を後にした。


 天音が次に向かったのは冒険者ギルドだった。戦闘訓練が一通り終わった段階で登録し、ランク上げに励んでいたのだ。ちなみにこの世界ではランクは位と表現される。

 現在天音の位は白。下から順に無色、黒、白、黄、赤、青、紫となっており、各位で一定の貢献度を貯めた物が次の位に上げられる。その際試験もある、黒から白に上がる際と、赤以上の位に上がる際に。

 ギルドに持ち込まれた依頼には推奨される位が目安としてつけられる。その中で別の街に移動する許可が出るのが白の位からなので、天音はそこまで位を上げたのだ。

 ギルドの建物に入り、受付へ一直線に向かう。まるで銀行のようなつくりのカウンターでお金をやり取りしている様を見ていると、本当に銀行ではないかと感じてしまう。実際黄の位以降であればギルドにお金を預けて、どの街のギルドでも引き出せるようになるのだが、そこまで到達していない天音はその説明は受けていなかった。

「こんにちはエリー。今日も小さいわね」

 カウンターについて顔なじみの受付嬢にあいさつをする天音。低身長についてからかわれた受付嬢のエリーも負けじと返してくる。

「あらクロウ、こんにちは。今日も変わらず絶壁ね」

 エリーがクロウと呼ぶのは、ギルドの登録に際してクロウ・アマネと書いたためだった。この世界では英語式の、名前が先に来る形をど忘れしていたのだ。そのおかげで公爵家ゆかりの者とはバレなかったのだが。

「貴女が大きすぎるのよエリー。まあいいわ。今日でこの街とはお別れだからあいさつに来たの」

 今日ギルドに来た目的をエリーに告げると、エリー本人よりも周りの反応が大きかった。あちこちで、それも受付カウンターの中からも驚きに満ちた声、悲鳴が聞こえてきた。そんな中でエリーだけが澄ましてもので、

「あらそう。どうして急に?」

 等と聞いてくる。

「ギルドとは別枠でお届け物依頼を受けたのよ。それで急がないといけないの」

「どこまで?」

 エリーに対して嘘をつくでもなくあっさり告げるとさらに質問が帰ってくる。心なしか、目がつりあがっているような気もする。

「音楽国家ベールの王都よ。報酬も前払いでもらったわ」

「遠いわねって言うか、前払いなんてずいぶん信頼されているのね」

 まあ依頼主は陛下だしね、とは心の中に留めておく天音。ギルドには公爵家の人間であると伝えていない。あくまで黒鵜天音としてギルドに所属したいと思っているのだ。

「まあちょっとした伝手でね。で、今日出発のベール方面に行くような護衛依頼とか無いかしら? 旅費は節約したいのよ」

 ようやくギルドに来た目的を話したのだが、答えは芳しくなかった。

「さすがにベールまで行くのはないし、ベールに近い方向はみんな終わってるわね。昨日とか、今朝出発済みよ。今日が締め切り、明日出発もベール方面は無いわね」

「そう、残念。まあさすがに虫が良すぎたか」

「そりゃ、今日来て今日出発なんてないわよ」

「ところがあるんだな、それが」

 突然天音とエリーの会話に男が割り込んできた。

「誰ですかあなた。突然人の話に」

「クロウ、この人は今朝出発したはずのベール方面に行く行商人、フェリエさんよ。何でいるんでしょう?」

 男に文句を言おうとする天音と、天音に男が何者かを説明するエリー。今朝出発したはずの商人がまだ街にいたことに首をかしげる。

「アハハハハハハハ……冒険者たちが心許なくてね、追加で急遽雇おうかと思って来たんだよ。クロウさんだったかな? 良ければ依頼を受けてくれるかい?」

「条件は?」

 そんな二人に自分がなぜここにいるかを話し、おそらく話を聞いていたのだろう、天音を商隊護衛に誘ってくる。天音はフェリエの問いかけに条件の確認をする。

「えーと、日銀一、野営時の食事補助、街・村の滞在時費用一部負担。ベール側国境の町グーモまで。これが出されていた依頼よ」

 国の中心である王都から隣国の国境の町までという好条件。その上滞在費や食事を一部負担してくれるとなるとかなりの高待遇であった。天音はその点を訝しんだ。

「随分高待遇ですね」

「その分一日単位での支払いは銀貨一枚ですから安めです。国境越えはそれなりに危険なルートもありますから少しでも多くの護衛を雇いたいんですよ。今回は軒並み喰いつめた並みの冒険者ばかりでしたが、クロウさんはそんなことはなさそうですし、強さも折り紙つきですよね?」

 アマネの懸念を払拭するように待遇に対して報酬は安いのだと語るフェリエ。その上で天音の強さを知っているという。

「誰の折り紙ですか……」

 こんな男に見られた覚えはないと思いながら呟くと、周りに聞こえないようさらに小さな声でささやく。

「この国の騎士団と一緒に訓練しているのを見ましたよ? 圧倒的でしたね」

「……王宮出入りですか、あなたは」

 それなら納得だと言わんばかりに大きくため息をつき、ついで了承の意を伝える。

「すぐに正門へ行きますから先に行っていてください、フェリエさん。あいさつしたい所がもう一か所あるのでそれから行きます」

「わかりました。クロウさんの到着を待って出発します」

 そう言ってフェリエはギルドを出て行った。

「はあ、それじゃエリー、返ってくるまでサヨナラ」

「行ってらっしゃいクロウ。余所の町や国で問題は起こさないでね」

 親しい友人への別れを済ませ、天音もギルドを後にする。


「ここでラスト」

 天音が訪れたのは武具店であった。

「おじさんはいるかしら?」

「いるよ嬢ちゃん」

 中に入って声をかけると奥から小柄なオヤジと言った風体の男が現れた。所謂ドワーフ族だ。

「何の用だい嬢ちゃん。こないだの手甲とブーツはまだ大丈夫だろう?」

「ええ、あれのおかげで戦いやすいわ。今日はお別れを言いに来たの」

 天音は黒の位に上がる際に城の騎士から紹介されてこの店にやって来て以来常連となっている。自分の戦闘スタイルが基本的に格闘に近いとあって手甲や蹴り用のブーツなどを購入していた。そんな武具店のオヤジにさも深刻な話である風の演技をしながら別れを告げる。

「護衛依頼か?」

「……もうちょっとこう、別れ話的な雰囲気を出そうとか、無いのかしら?」

「ドワーフにそう言うのを求められてもな」

「それもそうね。まあそういうわけでしばらく街をというか国を離れることになるわ。ベールまで行ってくるから」

 行き先を告げると武具店のオヤジはちょっと待ってろ、と言って店の奥へ引っ込んでしまう。何事かと首をかしげるとすぐに戻って来て一振りのナイフを差し出してきた。

「これは?」

「旅立ちの選別だ。途中で出た魔物の解体にでも使え」

「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」

 天音はドワーフの心遣いに感謝し、深く礼をして店を後にした。


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