冬の雷(かみなり)
知ってる?
雪って音がするんだよ。
祥子はそう言うと、空を見上げた。
遠くに、雷の音が木霊する。
北陸の冬は、雷と共に雪がやってくる。
鉛色の重い雲は、低く立ち込めていた。
息は白いが思ったほど、寒くはなかった。
この雲のおかげだ。
ここに降る雪は、重い。
重い雲から、シャーベット状の雪が落ちてくる。ぼた雪というものだ。
「今年も来たね。」
白い息を吐いながら、地面に目をやった。
アスファルトに雪が染み付いていく。はじめは、すぐに溶け水になった。アスファルトにまだ温かさが残っていた。
遠くで、雷がなった。
おそらく、5回目の冬のシンボルをきいた。
祥子と私は、顔を上げた。
辺り1面、町は泣いている。
冬の澄んだ空気は、私たちの心を洗ってくれる。このギャップが私は好きだ。
「お靴、濡れちゃう」
ピンク色の長靴は、祥子のお気に入りだ。
このために履いたのと聞かせてはいたけど、祥子には伝わっていない。
毛糸の手袋を触ってみた。
冷たい!
「祥子ちゃん、おてて平気?」
祥子に聞く。
「平気」
赤いぽっぺに、きのう抜けた前歯がわかる笑顔になんだか、ありがとうの想いが込み上げきた。
私は祥子を抱く。
心臓の音が聞こえた。
同じ時間を刻む証だった。
「どうしたの?」
不思議そうな娘の声に、鼻をすすりなが首をうんうんと頷いた。
一台のクルマが、止まった。
「お待たせ」
「遅い」
「遅い」
祥子も真似をした。
「さっ、乗った。」
私たちはクルマに乗った。
雷は、まだなっていた。




