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革命運命  作者: 安田勇
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第一章 くさった街を、かなぐり捨てて 「4」

 

  四

 

 戦闘実験室で待っていた月矢は、正面の西門ゲートが開いたことに気づいた。

 奥から四体の人形が姿をあらわした。

一歩ごと進むたびに、カチャリ、カチャリと金属音がひびく。どれもが人間の男の顔立ちをしていたが、マネキン的な無表情だった。


 四人とも黒の背広を着て、黒のネクタイをしめていた。身長は月矢より二十センチ以上は高く、スポーツ選手並にがっしりとした体格をしている。政治家につくボディガードのように見えなくもない。


 月矢は連中が、神童産業が開発した護衛人形だと気づいた。近年の重要施設では人間にかわって、この機械が警備を行なっている場所もあるという。


 護衛人形たちは、月矢から二十歩ほどはなれた所で動きを止めた。

 一体目は大型のピストルを持っていた。


 種類はコルト・ガバメント。二体目は小型のショットガンを持っていた。

種類はモスバーグモデル五〇〇。三体目はサブマシンガン――スタンダード・ウージーを手にしている。


 四対目はスコープ付きのライフル――レミントンM

七〇〇ポリスをかかえている。

 月矢一人を殺すには、あまりにも多すぎる人数であり、あまりにも強力すぎる武装といえた。


『ただいまより、テストバトルを始めます。被験者は戦闘準備に入って下さい』


 愛想のかけらもない女の声で、アナウンスが入る。

 月矢は大きく息を吸いこんで陰陽線を起動させた。

自分だけにしか聞こえない電子音が頭の中でひびく。


 テレビのチャンネルを変えた時のようなノイズが、一瞬だけ視界に出た。

 クリアーな視界にもどると〈陰陽線・起動完了〉のメッセージが網膜にあらわれる。

 月矢の思考は〈電脳化〉していた。


近年の戦闘機のコックピットにはHUD――ヘッド・アップ・ディスプレイというものがある。ガラスの表面に文字や図をあらわし、機体の速度、燃料、ミサイルの残り数などをパイロットに伝える機能だ。


月矢の目に映る情報も、それを応用したものだった。「0・00」とデジタル時計が視界の右下に出現する。小数点第二の位まで計ることのできる三けたの数字は、戦闘の経過時間を伝えてくれる。 


 つづいて、〈全目標・射程距離範囲内〉の文字。四体の護衛人形の全身には、白い四角でターゲット・マークがついている。月矢の銃の性能で、攻撃できることを伝えていた。


 正面にいる四人の敵たちも動きはじめた。

 ピストル男はスライドを引く。ショットガン男はポンプアクションを行なう。


 マシンガン男とライフル男はボルトを押し下げる。

 一発目の弾丸を月矢に撃ちこむための準備を、すべての敵は完了させた。


『カウントダウンに入ります。五、四、三、二、一……テスト開始!』

 オペレーターの秒読みが終わって、テスト開始を告げるブザーがうなり声をあげる。


 ついに、戦闘がはじまった。 

〈反射行動力・最大値到達〉の文字が月矢の網膜にうかぶ。

 月矢はすべての物音が世界から消えるのを感じた。自分の呼吸の音も、心臓の音さえ聞こえない。

意識が高速化すると何もかもがゆっくりになるのが分かる。


 月矢はホルスターの銃に右手をのばした。コルト・ライトニングのグリップを引きぬいて、銃口をライフル男に向ける。

 ターゲット・マークが、赤い丸のロックオン・マークへ変わった。

 ――さっさと、死にな。


 月矢はトリガーを三回つづけて引いた。

銃声もなく、三発の弾丸がライフル男の右目に突きささる。陰陽線には、目標をロックオンすれば確実に弾を命中させる自動照準機能があった。


 ライフル男の右目に拳大の穴が開いて、うしろの景色がのぞいていた。立ったまま、機械としての人生を終えたらしい。


 残り三体の人形は反撃できずにいる。

月矢の超スピードに追いつけないのだろう。 

 次に月矢はショットガン男に銃口を向けた。

 敵はのろのろと銃をかまえようとしている。あまりにも遅すぎる動き。

 ――地獄におちろ。鉄クズやろう。


 月矢はロックオンと同時に、三発の弾丸を敵の頭に撃ちこむ。ショットガン男の頭の上半分をくだいた。鼻と口だけが残ってできそこないの人形に変わった。


 二体を始末した後、月矢はデジタル時計を見た。戦いが始まって「〇・一七秒」が過ぎていた。

 耳ざわりなアラームが鳴って『NO BULLET!』の警告が視界中央にあらわれる。


 すべての弾丸を撃ちつくしていた。

 リボルバーは六発までしか装弾できない銃だ。戦闘をつづけるには新たに弾丸を入れなければならない。


 次に出たのは〈敵銃弾接近中・射線方向表示〉のメッセージ。敵の銃口から吐き出される弾丸の進行予測方向が、赤い光のラインとなって表示される。最初に銃を撃ってくるのはピストル男。


 赤いラインはまっすぐにのびて、自分の腹に当たっていた。

 ――まず、一曲、ダンスをおどってやるか。


 月矢は軽く笑った。加速している自分にとっては、銃弾など恐れるにたりない。

右肩をねじって、体を横にかたむけた。敵の放った四十五口径弾は、月矢の首から数センチとなりをぬけてゆく。


 反射行動力が加速された月矢の目には、人間が投げたボールほどの低速で弾が見えた。自分の銃声も聞こえないように、敵の銃声も聞こえない。完全な無音空間での戦いだった。


 休む間もなく、別の方向から二本目の赤いラインの表示。今度はマシンガン男が自分に向けて銃を連射していた。

月矢は左に一歩ステップをふんで、大きく位置をずらす。何発も連続でせまってくる九ミリ弾は、わき腹をぬけてからぶりする。


 どれほど強力な武器でも、当たらなければ意味がない。敵の攻撃にわずかなスキができた瞬間。月矢は銃に向かって念じた。


 ――オート・リロード。 

 何も操作をしなくとも、銃のシリンダーが自動で開いた。入っていた薬莢も地面に落ちてゆく。


 直後、ガンベルトについているループから、六発の緑色の弾丸がはね上がった。それは透明な糸で、操られているように空中へ動き出す。

弾丸はからっぽのシリンダーに、一発ずつおさまった。


 最後はシリンダーも自動で閉じる。

心地よい電子音が鳴り、『FULL BULLET!』の表示が出た。銃も弾丸も支配化しているため、体の一部のようにコントロールができるのだった。


 時計を見れば、戦闘開始から「一・五五」秒が過ぎていた。反撃しようと心に決めた時。〈敵銃弾接近中・左右二方向〉と見なれない表示が浮かぶ。

ピストル男とマシンガン男が、自分に向けて同時に射撃をしていた。

 右によければピストルの弾を食らい、左によければマシンガンの弾を食らうという最悪の状況。


 逃げ場所を思いついた月矢は前に右足をふみ出す。

ひざを地面につけて、体を低くした。頭の上を四十五口径弾と九ミリ弾がセットで、通りすぎるのが分かった。


 ――オレが責任を持って、おまえらをブッ壊してやる。さあ、安心してリサイクル工場へ行け。

 月矢は両手で銃をにぎりなおした。ピストル男に狙って三発撃ちこむ。


 弾は男の着ていたネクタイの中心部に命中し、腹の内部をえぐった。血のかわりに細かい金属のかけらを飛ばしながら、たおれこんだ。


 最後に残ったマシンガン男にも、同じように三発の銃弾をおみまいする。胸の前でかまえていたマシンガンと右腕を、こなごなに破壊してやった。

敵を皆殺しにすると、視界のデジタル時計は「一・七九」秒で止まっていた。

戦闘を終了させるまでにかかった時間だった。


 月矢は体から力をぬいて陰陽線を解除した。〈反射行動力・標準値移行〉の文字とともに、加速していた意識がゆっくり流れはじめた。


 ズーン……という尾を引く銃声が、今ごろになって聞こえてくる。

 視界に出ていた文字や図がすべて消えてゆく。起動の時と同じように一瞬のノイズが走った後、電脳化していた意識はふつうの人間の感覚にもどっていた。


『――テストバトルを終了します』 

 事務的な女の声がホールに聞こえた。つづいて、吉沢医師からねぎらいの言葉がかかった。


『神崎君、ご苦労だった。控え室で飲み物を受け取って休んでくれ』

 月矢は銃をホルスターにしまいながらつぶやいた。


「陰陽線ってすげえな。オレって、世界最強の男になったのかもしれない」


 二秒とかからずに四人の敵を抹殺した自分が信じられなかった。

 陰陽線の力をためしたのは、今日がはじめてだったが、予想以上の戦闘能力に感動さえした。




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