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革命運命  作者: 安田勇
34/38

最終章 運命法則・迎撃戦 「4」

   

  四


「俺はさぁ、知ってるんだよぉ~。オッサンがどんなやつか、何もかも知ってるんだよなぁ~!」

「俺のことを知ってるだってぇ~? すごいなあ、それは」


 平塚のなれなれしい問いに、堕星はまともに返事をした。堕星たちは月矢たちのいる大通りから二百メートル近くはなれた場所に来ていた。


 戦場に選んだのは、マンションが集まった奥にある空き地――廃墟の公園だった。 

 東西南北を西暦時代の古びたマンションに、かこまれている。どれもが八階建てで、夕日をさえぎっているため影になっていた。


 廃墟の公園には、一本の木さえなかった。むきだしの地面には、雑草がまばらに生えているだけで何もない。

 堕星と堤は十歩ほど距離を開けて、平塚と対決していた。平塚の後ろにカプセル型バイクは止まっていて、有香は、まだ網の中にいる。

 ヘドロがねばりついたような、汚らしい笑顔で、しゃべり出した。

「オッサンには人に知られたくない、クラ~イ秘密があるだろ~? 絶対に人には言えない過去がよ~。俺はしっかり調べてきたんだよなぁ~!」


「も、もしかして、俺が西暦時代のエロ本を集めてるのを知ってるのか? まさか!……俺が巨乳マニアで、デカパイねえちゃんが好きなことも、調べてたりすんのか? いや~、こまっちゃったなあ~」


 堕星は完全にとぼけた。会話の流れをお笑いの方向へ持ってゆくつもりだった。


「こ、こんな時に、バカな話をしないでくださぁ~い!」

 横にいた堤が、おおげさなほど眉間にシワを寄せて文句を言う。平塚も荒々しい鼻息を出しながら怒り出した。

「ふ、ふざけんな、タゴ! 俺の言ってるのは、タバコのことだよ。オッサンはセツナってやつを吸ってるよなぁ? それって、バッテリーだろぉ~? 


 神童の素質があっても、神童になれなかったカスみてえな人間がそれを使うんだろ? オッサンは神童のおちこぼれだったんだよなぁ~? ひゃっはっはっ!」 


 すべては事実だった。平塚は本当に自分のことを調査したらしい。

 隠してもムダだと悟った。堕星は口もとから余裕を消して、皮肉っぽく笑いながら答えた。


「へ~え、さすが神童サマだ。実は俺もガキのころに神童産業からスカウトされて、学院に行ってた時期があるんだよねえ」

「えぇぇ~! だ、堕星さんまでが神童だったんですかぁ~!」 


 堤が口に手を当てて、信じられないという声を出す。堕星は首をふって否定した。


「いや、神童になれたら良かったけど、俺にゃあ無理だった。神童になるのに必要な原型っていうエネルギーを、どうしても出せなかったからねえ。

でも、俺は絶対に神童になりたかった。まわりのやつらに、やめろとか考えなおせとか、さんざん言われたけどあきらめなかった。


 そこで原型のかわりに、エネルギーを出してくれるバッテリーを使うことにした。このタバコ――セツナはそれさ」 


 堕星は胸ポケットから、おなじみのタバコを取り出した。

 その一本を口にくわえて、ライターで火をつける。誰にも分かってもらえなくてもいい。自分自身に語る気持ちで話しつづけた。


「これを吸うと、体に燃料がたまる。たまった燃料は怪力を出したり、足を速くしたり、体の打たれ強さを上げたりと、応用がきくのよ。

 神童の適性があっても、原型を出せなかった半神童が使う、バックアップ・アイテムってやつだ」


「ほらぁぁっ! 俺の言った通りじゃねえかぁぁ! 半神童は級外神童よりも下なんだぜぇぇ! ゴキブリみてえな人間なんだよぉぉ!」 


 鬼の首を取ったように、平塚は喜び狂った。堕星は弱々しく笑っただけで、黙っていた。

頭の狂いすぎた相手には、何を言ってもムダなことは分かっている。

 堤が耳に口を寄せて、小さな声で秘密の作戦を伝えてきた。


「……堕星さん、私が後ろから回って神崎君の元彼女を助けます。そのあいだ、堕星さんはあいつの注意をそらして下さい」


「できんのかい?」

「できなくてもします。あいつが善人に見えないって言ったのは、堕星さんじゃないですか?」


 堤の目には、ゆらぐことのない強い決意がみなぎっている。堕星は彼女に任せてもいいと判断して、深くうなずいた。


「じゃあ、そっちは頼むわ。いざという時は、俺が盾になるからよ」


「コラァァッ! 何を相談してんだよぉぉ~!」 


 作戦会議をしている二人を見て、平塚が怒鳴った。危険に気づいた堕星と堤は、すばやく左右に分かれて飛びのいた。

 ついに、平塚はバズーカを撃った。人間の頭ほどあるボール型のエネルギー弾が飛び出す。弾は二人のあいだをぬけて、背後のマンションに命中する。


 すさまじい火柱が、四階の高さまで届いた。コンクリートの破片がバラバラに飛びちり黒煙が上がった。

 あれが当たったら、一発でバラバラ死体だなと堕星は感じた。


 堤は堕星に目で合図を送り、全力で走り出した。公園から出て、マンションの裏につづく路地にかけこんでゆく。

 すでに、戦いの幕は切り落とされていた。


「おめえみてえなカスはな、ゾウリムシ以下って言うんだっ! 一級神童とくらべれば半神童なんて、生きてる価値がねえ人間なんだよぉっ!」


「ゾウリムシは、いやだねえ~。せめて、ナメクジにしてくれない?」

「死ねよ! オッサァァン! 焼けちまえぇぇっ!」


 平塚は堕星だけに集中して、堤の動きまで目がとどかないらしい。スコープに片目を当てて狙いをつけながら、連続でバズーカを撃ちまくった。


 何発もの光の弾が、流星のように光のしっぽを引いて堕星に向かってくる。

 正確な射撃だ。エネルギー兵器には反動がないた

め、乱射をしても視点はブレないのだろう。

 しかし、堕星の動体視力は弾の動きを見切っていた。 あるときは地面に寝転がる。


あるときは軽業師のように側転をする。右に飛んで弾をかわし、左に飛んで弾をかわす。見ている者を楽しませるように、おおげさなアクションをくり出してゆく。


 十発近く弾をさけた後、堕星は右腕のそでをまくりあげた。腕にからみついているカメレオンの舌をほどいて、ムチへ変化させる。


「ほらぁ~! どうした、どうしたぁ~! もっと、気合の入ったタマを頼むぜぇ! カントクゥ~!」 


 堕星は平塚を挑発するために、手まねきをした。今の気分はプロ野球選手状態。

相手が自分を見下すなら、こちらも最大限にふざけたノリでやることに決めた。


「俺はなあ、オッサンだけにかまってらんねえんだよ! もう一人の緑の服を着た奴いるじゃん? あのシンナーやってるみたいに、ラリってるガキ。

はやくあいつも殺したくて、たまんねえんだよぉ! 俺の目ん玉を、つぶしやがってよぉぉっ!」


 あきらめず、平塚は砲撃をつづける。堕星は動かなかった。

 高速で自分に近づく光の弾に、正面から向き合う。カメレオンの舌を両手でにぎりしめ、大きく後ろにふりかぶって――。


「おらよっ! 場外ホームランだあ!」

 堕星はムチを横になぎはらった。飛んでくる弾をカメレオンの舌で打ちたたく。

弾は逆方向へ飛んだ。ターゲットになったのは、皮肉にも平塚。


 堕星は、わざと平塚を狙って打ち返してやった。

 平塚は急いで、バズーカのスコープから目をはなした。必死の顔つきで、その場から逃げ出したが、弾は近くの地面に食いこみ爆発を起こす。


 煙の中から出てきた平塚は、体中を土まみれにしていた。ゴホゴホとむせながら発狂した。


「わかったよ、わかったよぉ! おめえのかわりに、ラチってきたオンナを殺せばいいんだよなぁ! あんなやつ神童じゃねえし、価値がねえ人間だもんなぁ!」 


 堕星に向けていたバズーカの口が、九十度右方向にまがる。先には、バイクの後部にくくりつけられた後藤有香がいた。


「やめて! やめて! やだ、やだ、やだぁぁっ!」

 白い網の中で有香は悲鳴を上げながら、手足を動かしてもがいた。彼女は涙を流しながら暴れまくったが、網は破れることはない。


「オォ~イ! どうするんだぁ~? オンナの子が死んじゃうぞぉ~! オッサンが死んでくれないから、こういう事になるんだぁ~!」


 平塚は急に笑い出した。さっきまでの怒りは完全に消えている。苦しむ人間を見たことによって、気持ちがすっきりしたのだろう。


 堕星はチッ……と、大きく舌打ちをした。このガキのイカれた頭は、一万回ぐらいハンマーでなぐっても、正常にもどらないだろう。


 笑っている平塚の顔の筋肉が、急にひきつって止まった。

 死角になった後ろの路地から、堤が飛び出してきた。彼女は戦いが始まったときから、平塚に不意打ちをするチャンスを狙っていたらしい。


 堤はにぎっていた伸縮式警棒の先を平塚に向けた。警棒のグリップには、赤と白のボタンがついていたが、彼女は親指で赤ボタンを押す。プシュッ……と、ガスがもれるような音が鳴る。


 警棒の先から、空気圧の力でワイヤー付きの針金が射出され、平塚の学生服にささった。紫色の光がほとばしり、高圧電流が敵の体へ流れてゆく。


 堤の警棒は、エア・テーザーの機能も備えていた。


「ぬわっ! ぬわにを……すんだぁぁ! バ……バカ、オンナァァ!」 


 平塚は両ひざを地面について、うつぶせにたおれた。かまえていたバズーカは手からはなれて、足もとに転がる。

 堤は一瞬のチャンスを逃さなかった。 


 急いで平塚のカプセル型バイクにまたがり、スロットルをねじって最大にアクセルをふかす。エンジンが吠えた。激しく砂煙がまきあがる。


 堤はバイクを急発進させて、高速で平塚から遠ざかってゆく。四秒後には敵から五十メートル以上の距離を取り、有香の身をうばい返すことに成功した。


「よくやったぁ~! 堤ちゃぁ~ん!」 

 堕星は思わずうれしくなり、歓声を上げた。両手の指を口に突っこむとピーピー笛を鳴らして、彼女をたたえる。


 直後――まっすぐなエネルギー光が空中を走るのが見えた。光線は浮かれていた堕星の体に命中する。

 堕星は自分の上半身が、腰から首まで炎につつまれているのを知った。火は背広を栄養にして一気に燃え上がっている。


「うひゃぁ~! ニンゲンが燃えちゃったぁ~! 火事だよぉ~! 誰か消防車を呼んでぇ~!」


 平塚は狂ったようにバズーカをめちゃくちゃにふり回して、大笑いをした。いつのまにか電撃のダメージから回復して、平塚はよろめく足取りで立ち上がっていた。ゴキブリのようにしぶといガキだった。


「だ、堕星さんっ!」 

 堤の悲鳴を堕星は聞いた。彼女はバイクに急ブレーキをかけて、横にスリップをさせながら停まると、自分の様子を心配そうに見ている。 


 堕星は腹の底に力を入れた。セツナでたくわえた力を全身に分散させながら、放出させた。

「……オラァァァッ!」 


 猛獣のような叫び声を上げた。熱さにもがく苦しみの声ではない。全身の気合をこめた、おたけびだ。堕

星の体にまとわりついていた炎が消えた。


 ロウソクの火を吹き消すような、あっけない早さで。背広はうっすらと白煙が上がっていたが、どこもこげてはいない。

 今の技で失ったエネルギーをおぎなうために、堕星は新しいタバコに火をつけた。

 吸いこんだ煙を吐きながら、自信ありげに笑う。


「一級神童ってさあ、バリアで敵の弾を防ぐことと、今みたいにバズーカをブッぱなす以外にできることってあるの? それ以外、何もできないんじゃねえの?」


「何だってぇぇ! オッサァァ~ン!」

 平塚のこめかみに太い血管が浮かんで、今までの笑いが消える。またもや、このガキは発狂モードに入っていた。


「一級神童って人の病気を治せるのか? 死んだ人間をもとにもどせるのか? 

 世の中をあっと言わせるような、すごい魔法でも使えんのか? それとも、たいした能力がなくても一級になれる甘ったれた業界なのかい?」


「うるせえよぉぉ! 半神童のインチキやろうがああ

っ!」

「特にそれだよ、それ」 

 堕星は指をまっすぐに平塚に向けた。鋭い目つきで

にらみながら、ただし、口では笑いながら告げた。


「他人を見下すことで自分がエラくなろうとする、あんたのくさりきった根性。それだけはすごいね。まさに一級だ。たいしたもんだ」


「いっ、一級をコケにすんなよぉぉ! 半神童のカス人間めぇぇっ!」

 バズーカには弾の強弱を変えるセレクターがついていた。平塚はツマミを思い切りねじりながら、わめきちらした。


「最大出力で撃ってやるよぉぉ! 今度は本当にや、け、し、ねぇぇっ!」

 平塚が持っているバズーカの口に、光の粒子が集まってゆく。正面から見ると、目に残像が焼きつくほどの激しい光。


 雷を思わせる大音量がとどろき、バズーカから光線吹き出す。幅一メートルをこえる極太のエネルギー光が、堕星に向かって放出される。

 堕星はムチを刀のように両手でにぎり、上段にかまえた。


 タイミングを合わせて、自分に襲いかかってくる破壊光線にムチをたたきこむ。ナイフがチーズを切断するように、ムチは光線をきりさいて、右と左にまっ二つにくだいてゆく。


 分かれた光線は直進して、後ろのマンションに当たった。二本の火柱がふきあがり、大爆発が起きる。爆風が止まったときにあらわれた八階建てのマンションは、半分以上が崩れ落ちていた。


 自分の大砲が通じない堕星を見て、平塚は青ざめた。恐怖でふるえながら、同時に半分泣きながら、情けない悲鳴を上げた。


「お、おめえ! なんで、そんな事ができるんだようっ! も、もしかして、本当の神童だったのかようっ!」

「ちがうぜ!」


 地面をけり飛ばして、堕星は宙に飛んだ。

 平塚との間は十歩以上あったが、着地したときには敵の一歩前までせまっていた。

 助走もなしで成功させた超人的な大ジャンプ。 

 堕星はムチをくり出した。先がとぐろを巻いて、平塚の首にからみつく。全力をこめて、堕星はムチを引っぱり上げた。


「俺はあんたの言う通り、インチキやろうの半神童よ!」 

しばり首にされた平塚は、空中に持ち上げられる。堕星が力をゆるめると、まきついていたムチは外れた。いきおいのついた平塚の体は、パチンコ玉のように吹っ飛んで、正面のマンションの壁に激突した。


地面に落ちた平塚は頭から血を流しながら、白目を向いて口から泡まで吹いている。

 投げ技が決まった後、堕星は冷ややかな目つきで、敗者を見下ろして語った。


「よ~く、覚えておけや。級外神童でも半神童でも、はじめからできが悪いやつはこの世にたくさんいる。

 だけど、そいつらは力をつけてゆくチャンスがあるんだ。後からのがんばりしだいで、そいつら落ちこぼれは強くなってゆくことができる。


 逆にいくら才能がある人間だとしても『俺は天才だ』って、いばりくさってたら、そいつはもう成長できやしねえ……」


 堕星は軽く手首を引いた。ムチは持ち主の動きを読むと、らせんに渦を巻いて、腕にまきついてゆく。一秒後には、もとの金属の腕輪に姿を変えた。


 ボタン一つで、掃除機のコードが吸いこまれるのと同じぐらいの早さだ。

 平塚は異常なほどの生命力を見せた。数秒で気絶から立ち直り、かすかに目を開けている。指先は細かく

ふるえていた。


「俺がこういう事ができるのは、あきらめなかったからさ。自分の『運命』はこんなもんだ。

どうせ自分は落ちこぼれだから何をやってもダメなんだと、あきらめなかったから今みたいな技ができるようになった。

 でも、あんたはそのまま終わっちまうエリートみたいだね。一級神童さんよ」 


 堕星は右足を高く持ち上げて、地面に転がっているバズーカをふみつぶした。

 大きな火花が出て、くだけた破片が飛びちる。八十万はするという、平塚の大砲は二つにおれ曲がり、使用不可能なほど破壊された。


「な、なんでぇ~、俺がぁ~、はんしんどう、なんかにぃ~、やられるんだよお~。うそだ~。こんなの、しんじ……られねえ」


 平塚はくやし涙を流しながら、顔を引きつらせて敗北をかみしめていた。

 堕星は堤を見ると、彼女はバイクのフックにかけられていた有香を下ろしている最中だった。つつんでいた網を引きさいて、有香が脱出する穴を開けていた。


「だいじょうぶ? 一人で歩ける?」

よろけながら網の外にはい出してきた有香に、堤は手を差し出した。


「あ、はぁ~い。な、何とかだいじょうぶですう~」 

 弱った声を上げながら、有香は堤の手を取って立ち上がる。長時間の拘束によって、疲れた顔をしているが、大きな傷は見当たらない。


「堕星さん! 神崎くん達の方も見に行きましょうよ!」

「よっしゃ!」 

 堕星は堤の提案に強くうなずいた。三人は大通りに向かって、力強く歩きはじめた。


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