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革命運命  作者: 安田勇
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最終章 運命法則・迎撃戦 「3」

  

   三 


 月矢たちのバスが、楽園街についときには、太陽はだいぶ西に近づいていた。時刻は、午後四時半をすぎたころだった。


 楽園街は、養神街がすっぽりおさまるほどの、巨大な廃墟エリアだ。

 窓ガラスがくだけた西暦時代の高層ビルが、雑草のように生えていた。どの建物も、わずかな地震でくずれそうなほど傷んでいる。


 昔は電柱をつないでいた電線は、今は切れて地面にたれ下がっていた。大通りにはアスファルトが残っていたがヒビが入り、穴ばかりが目立つ。『50』という制限速度も『とまれ』という一時停止もかすんでいる。


 通りをつないでいた歩道橋さえも、中心で二つに割れて地面をふさいでいた。

 左右の通りには階段だけが意味もなく、残っているばかり。


『養神街・未開発区域』と看板が出ていたが、ここは永久に未開発区域と思われるほど、月矢には荒れはてた世界に感じた。


「いらっしゃ~い! よく来てくれたねぇ~! 人質の女の子も、元気いっぱいだから安心してねぇ~!」

 平塚はセンターラインに、カプセル型バイクを止めて待っていた。


 有香は網に捕らえられ、バイクのフックにかけられたままだ。

 網に指をからませて、助けを求めるように月矢たちを見ている。今までずっと泣きつづけていたのか、目は赤く充血していた。


 堤が道の中心にバスを停車させた後、月矢たちは急いで車からおりた。着がえる時間がおしいため、全員が神童会のときの正装した姿だった。

 平塚は異常なほど機嫌が良かった。四人の険悪な視線など、おかまいなしに大笑いしている。


「じゃあ、どうしようかぁ~? 僕にはこのアーキタイプ・バズーカがあるから、四対一で戦ってもいいよぉ~。

 たぶん無理だろうけど僕に勝ったら、この姉ちゃんを返してあげるからねえぇ~!」


「おまえのルールなんて、どうでもいい! とっととはじめろ、ゴミやろう!」

 月矢は代表して怒鳴りながら、コルト・ライトニングをぬきはなつ。同じように、堤も腰の警棒をぬこうとしていた。


 堕星は腕をまくって、カメレオンの舌をほどく動きをしている。無傷も原型棒をにぎり、神童の力を発揮するポーズに入っていた。


 月矢は銃を両手でかまえて、平塚の腹に狙いつをつけた。敵があの大砲を撃つ前に、一発おみまいするつもりだった。引き金に力をこめようとしたとき――。


「悪いが、僕もまぜてくれないか」

 すずしげな若い男の声が聞こえた。戦いを始めようとしていた五人の視線が、声の方向へと向く。


 さびついた電柱の裏から、一人の男が出てきた。白黒の仮面をつけた長身の男。運命調律師が立っていた。最初から隠れていたと思えるほどの、タイミングを読んだ登場だ。


「そちらの若い二人は、僕の相手をしてもらえないか?」

 男は白い手袋をはめた指を、月矢と無傷の二人に向けてきた。突然の出来事に、月矢は激しいめまいを覚えた。思わず、胸の中でうめいた。


 ――なんでだ? なんで、あいつまでここにいる?

 そして、衝撃を受けたのは、月矢だけではなかった。

「また、おまえかぁ!」 

「えぇ~!」 

「ど、どうして、あの人がいるの!」

 堕星も、無傷も、堤までもが、運命調律師の登場におどろいている。仲間たちは目を白黒させて、言葉を失っていた。


 ――どういうことだ? あいつを知ってるのは、オレと堕星だけじゃないのか?

 ――無傷も堤さんも、こいつと会ったことがあるのか?


 月矢はわけが分からなかった。仮面の男を見た後、誰もがおかしくなっている。まわりの混乱を楽しむような口ぶりで、運命調律師は話しかけてきた。


「僕は争うつもりで来たわけじゃないよ。ただ、神崎月矢君と無傷儚さんに、大事な話があってきたんだ」


「よし、わかった。神崎ちゃんたちは、そっちへ行ってな」

 いきなり、堕星は月矢の背中を押し出した。月矢は納得がいかず、大声で理由をたずねた。


「待てよ! じゃあ、後藤はどうなる? あのガキをほっといていいのか?」


「ガキのめんどうは俺が見るし、姉ちゃんも助けといてやる。だいたい、あのガキには お前さんの鉄砲弾は通じなかっただろう。だったら、俺が相手をした方がいいんじゃねえか」


「だ、だけど、あいつは神童だろ? ふつうの人間じゃあ、歯が立たないって――」

「俺はふつうの人間じゃない。半神童なのさ」 

「えぇ? 何だよ、それは?」 

 ハンシンドウ――意味不明の言葉。


 月矢は説明を求めて堕星を見たが、それ以上の質問をさけるように背中を向けた。堕星は敵である平塚に、なれなれしい調子で声をかけた。


「一級神童さんは、俺が相手してやるよ。むこうに公園があるから、場所をかえようや」

「別にいいよぉ~! 俺はオッサンにもムカついてたからぁ~、はやく殺したかったんだよねぇ~!」


 平塚はふざけて答えて、カプセル型バイクにまたがった。有香をネットにつるしたまま、先に目的地へ走り出してゆく。 

 堕星は平塚を追う前に、そばにいる堤の肩をたたいて呼びかけた。


「ちょっと、堤ちゃんも手伝ってくんない? 俺一人じゃあ、キツイからさあ」


「え、あ……はい!」

 堤は心配そうに月矢と無傷を見ていたが、後につづいてゆく。堕星は急に立ち止まると背中を向けたまま横顔を見せた。仮面の男に苦い口調で伝えた。


「運命屋のダンナ。今日はあんたの好きにさせてやる。でも、覚えておきな。誰もがあんたの忠告を、聞くわけじゃないんだってね」


 調律師は何も返事をしなかった。話が聞こえていても、無視をしてるのだろうか。

 別の戦場に向かう仲間を見送っていると、無傷が月矢の耳もとでささやいた。


「もしかして、神崎くんもこの人を知ってるの?」

「知ってるけど……無傷はどうなんだ?」

 月矢は無傷と顔を見合わせた。無傷の目はおびえているような、とまどっているような、不安な感情でゆれている。


「わたしは、あの人に夢想鉄道に連れて来てもらったから」

「あ、あいつに? うそ……だろう?」


 月矢は息がつまるほどのショックを受けて、無傷の顔を見返した。聞き出したいことは山ほどある。

だが、今は世間話をしている状況ではないと本能的に感じた。

 月矢と無傷が残ったのを見て、運命調律師は口を開いた。


「神崎君、君は立派だった。君はその女の子をうらぎるのか? それとも、今のように彼女のパートナーでありつづけるのか? どちらを選ぶのかテストをさせてもらったが、やはり君は彼女を選んだようだね」


「ためさなければ、オレが何をするのか分からなかったのか? 未来を知ることができても、頭が悪いみたいだな。あんたは」 


 相手をバカにしながら、月矢は一歩前へ出る。無傷の盾になるために。

「僕には人の未来を知る力がある。その力でたくさんの人に、これから起こる危険を教えてきた。人が悪い方向に進むたびに、やめろとアドバイスをしてきたが、誰にも聞き入れてもらえない。


 頭が悪いとすれば、こちらの助言に耳をかさない君たちの方が、よほど重症だろう。

そこで、最後に一つだけ君たちに見せたいものがある」 


 調律師は手袋をぬいで、パチンと指を鳴らした。まわりの空間が渦をまいて、ねじ曲がった。

 空気が水に変わり、混ぜ合わせたように世界がゆらぎはじめる。前に無傷の過去を見せられたときと、同じ現象が起きようとしていた。


「今から見せるのは、西暦一九九五年のこの街だよ。現在、七十歳をこえた老人の記憶から取り出した映像だ。よく見ておくといい」


 まぶしい太陽の光に目がくらんだ。夕方の空があざやかな青空へ変わっている。

 マシュマロのような、まっ白い入道雲も浮かんでいた。何月かは分からないが、季節は夏らしい。


 車のエンジンの音。クラクションの音。ホームに電車が走りこんでくる音。人間たちの靴音。ありふれた都会のざわめきが耳に入る。


 巨大な廃ビルは大型デパートに変わっていた。屋上から夏の一斉大処分と、幕が下がっているのが見える。高架線では先のとがっている電車が、轟音を上げながら高速で走りさってゆく。 


 折れて地面に落ちていた歩道橋も、今はつながっていた。ヒビわれていた車道も、新しいアスファルトに生まれ変わっている。

 新しい道の上を、再生暦では見たことがない形の自動車が、何百台も道を走りまくっている。このあたりは、駅を中心に発展した繁華街らしい。

 死んでいた廃墟の街が、生き返っていた。  


「なんか、わたしたちのいる時代とあんまり変わらないね?」 


 無傷のもらした感想に、月矢はうなずく。

「でも、この時代の方が新しくて、わざとらしいほど街全体がきれいだ。再生暦にあるような、汚れた建物が一つもない」 


 月矢と無傷は、失われた世界に見入っていた。生まれて初めて見る光景に心をうばわれ、調律師との戦いを忘れた。

 ある一つのビルに、電光掲示板がついているのに気づいた。


 流れてゆく文字を目で追うと――『阪神大震災』『地下鉄サリン事件』『オウム真理教』『野茂、イチロー』『ウインドウズ95発売』……と今まで一度も聞いたことがない、意味不明の言葉が出てくる。


「な、なんだ、これは? スパイが使う暗号か?」

 月矢が真剣に掲示板の文字を見ていると、調律師が横で説明した。


「僕もよく知らないが、過去に起きた事件のようだ。記憶の主も当時は子供だったから、彼も覚えているだけで意味までは分からなかったんだろう。それ以上のくわしい情報は、記憶に出てこなかったよ」


「だけど、世界はこの年で終わったんでしょう?」

「そうだ。この年を最後に終了してしまった」

 無傷の問いに調律師は断言するように答える。


「君たちは、なぜ西暦時代が終わったのか、原因を知っているかい?」

「昔は核爆弾とかいう、むちゃくちゃ強い武器があっただろ? それで世界中が殺し合ったんじゃないのか?」


「ちがう。西暦時代が破滅をしたのは、戦争が起きたからじゃない。病気のためだ。目に見えない病気が原因で、この国では七千万人以上の人間が殺された」


「ガンとかエイズよりも、最悪な病気だったのか?」

 なげやりに月矢はたずねた。当時の知っている病名は他に思いつかない。


「いや、病気と言っても肉体的なものではない。地球人類が滅亡寸前まで追いこまれた病気は、限界病げんかいびょうと呼ばれた精神病だった」

「精神病……だって?」


「西暦時代のアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ。そして、ニッポンというこの土地をふくむ先進国を中心に、限界病は大流行した。とうとう、人間は自分たちの限界に気づいたんだ。


 どれだけ、科学が進歩して文明が発展しても、人間の力では絶対に楽園を作ることはできないってことにね。もう自分たちは、これ以上前に進めない。もう人間は、これ以上幸せになることはできない……そう考えた彼らは絶望した」


「本当か? そんなバカげたことが、起きたっていうのか?」

 衝撃的な事実を知って月矢は放心した。何も考えられず、人形のように、立ちつくした。


 目の前を、西暦時代の若い男と女が手をつないで歩いている。男は野球帽をかぶり尻の位置までズボンをずり下げてはいていた。女は髪をオレンジ色にそめて、腹からヘソの出た服を着ていた。

 西暦一九九五年当時に流行していたファッションなのだろう。


 調律師の話が確かならば、連中は自分たちが近いうちに破滅することを知らず、人生を楽しんでいたことになる。

 とどめを刺すように、調律師は月矢に告げた。


「絶望は一気に世界中に広がった。わずか三ヶ月のあいだに三十億以上の人間が、自殺をして死んでしまった。信じられないだろう? 

だが、本当に起きたことだ。人間は環境汚染でもなく、核戦争でもなく、巨大隕石の衝突でもなく、自分の心にかかえた弱さによって破滅したんだよ」


「どけ! どけ! どっけぇ~!」 

 どこからかガキのわめき声と、自転車のベルの音が聞こえた。

 月矢は無傷に腕を強く引っぱられた。


「神崎くん! はやく、こっちに来て!」 

 急いで後ろをふり向く。髪を金色にそめた十五、六歳の男子高校生がいる。半そでのワイシャツのすそを、全開に外に出して着ている。


 ガキの顔は平塚にそっくりだった。そいつが自転車に乗ってベルをジリジリ鳴らしながら、突っこんでこようとしていた。

 ふだんは自転車をよけることなど簡単だったが、正気を失っている今の月矢にはできなかった。ガキの自転車にぶつかる寸前。調律師が指を鳴らした。


「安心したまえ。これは、イリュージョンだ」 


 すべてが消えていた。青空は夕方のあかね空にもどっている。

 まわりには、廃ビルがならんでいる。道を走っている車は一台もない。壊れた歩道橋の残骸が、大通りに転がっていた。


 目に入る光景すべてが、再生暦に帰ってきたことを

生々しく伝えていた。西暦時代の街はどこにもない。

 心の底からうんざりした気持ちで、月矢は廃墟の街をにらんだ。 


 ――何がイリュージョンだって? 何が記憶の映像だって? これは今までに起きた現実なんだろう? こんなのを見せて、オレに何が言いたい? 

 ――オレに、世界を救えとでもいうのか?……。 


 大声でわめきちらしたかったが、今は声を出す気力さえ、起こらなかった。

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