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革命運命  作者: 安田勇
32/38

最終章 運命法則・迎撃戦 「2」

  

  二


 神童会は午後四時過ぎに終了した。

席についていた二千人近い客は立ち上がり、開会前のように、あわただしく動きはじめる。静かだった会場は、急にざわついてきた。


「オレはちょっと無傷の所にあいさつに行ってくる」 

 月矢が席を立つと堕星が腕をつかんで引き止めた。


「待ちな。お前さん、銃は持ってるよな?」

「あたりまえだろ。さっき、堕星にもあずけたじゃんか」

 月矢はしぶしぶ背広をまくり上げて、腰のガンベルトとホルスターの銃を見せた。堕星は歯ぎしりをするように、顔をしかめながら言った。


「何だか、ヤバイことが起きそうな予感がする……気をつけな」

「わかった、わかった」


 いいかげんに答えて月矢は会場を出た。外は長い廊下になっていて、奥にはステージにつづく控え室のドアがある。

ちょうど、無傷が外に出てくるのが見えた。彼女の表情は、なぜか硬くこわばっている。無傷の後ろを、ハイエナのようにつけてくる連中がいた。


 十代後半から二十代前半の若い男たち。数は三人。全員が見るからに金のかかった派手なスーツを着ている。

「ねえ、無傷さぁ~ん。僕と婚約してくれませんかぁ? 僕は年収一千万をこえてますよ~。僕とだったら、神童とつり合いが取れるんじゃないですかねぇ?」


 最初にメガネをかけた背の高い男が口を開く。

 見た目の年齢はニ十四、五歳。さりげない口調で、自分がエリートだと語る様子が、低級な人間であることを証明していた。


「待ってよぉ! 俺の方はもっとすごいよ! 俺のパパは養神街に、二千つぼも土地を持ってるんだぁ! 

でも、すぐにぜんぶ俺の物になるよ! だったら、俺の方がいいよね~? 無傷さん?」


 そこへ、金色に髪をそめた十八歳前後のガキがわりこんできた。太った体つきで、背広の腹の部分がもり上がっている。どこかの金持ちのバカ息子らしい。


「何言ってんだぁ、お前らぁ! お前らどこの大学を出てるんだよ! 俺は養神街・真精鋭大学卒業だぞ! しかも俺は神童産業の就職内定をもらってるんだ! 無傷さん? 結婚するなら、産業で働いてる男の方がいいですよね~?」


 最後に出てきたのは、茶色の髪を長くのばした若い男。年齢は二十二、三歳ぐらいだろうか。

色白で弱々しい顔つきは、売れないホストのように見えた。

 女と金に飢えた三人の男たちはしつこく自己アピールをくり返す。無傷はつんと前を向いて、男たちを無視しながら、すたすた歩いている。


 連中はそれでも無傷を追いつづけた。やつらのあきらめの悪さは、ワイドショーの芸能リポーターといい勝負だろう。 

月矢はエリート男どもをにらんだ。胃の奥から大量の怒りのエネルギーが、にじみ出すのを感じる。


 ――こいつらが、堕星の言ってた神童目当てのやつらか。ああ、今すぐに……全員死んでもらいたい。


 血管が浮きあがるほど、月矢は右の拳をにぎりしめた。エリート男どもになぐりかかりたい衝動を、ありたったけの理性で押さえこむ。 


 無傷は月矢の前に来て足を止めた。

 彼女は自分の頬に指をかけて、皮膚にはりついていたシール――『肌ぺったりん』を、ビリッと音を立てて引きはがした。

生々しい二本の刀傷がむきだしになる。

「これでも、わたしのことが好きだって言える?」


 無傷はふり返り、月矢をふくめた四人の男を力のこもった真剣な目でじっと見つめた。

派手なスーツを着た三人のエリート男は、目を点にして青ざめた顔へ一気に変わってゆく。

「ふっひいっ~いいぃっ~!」


 オカマでも出せそうにない悲鳴の合唱。エリートどもは後ずさりをした。

無傷の傷を見た直後、道ばたで怪物に出会ったように、おそれおののいている。

 ただし、月矢だけは別だ。無傷の刀傷から目をはなすことなく、自然な感覚で受けとめた。


 はがしたシールを無傷はもう一度、頬にくっつけた。月矢に近寄り、強引に手を取ってにぎりしめてくる。

「……行きましょ」 


 無傷に引っぱられるように、月矢は歩き出した。ぼうぜんとした顔で三人の求婚者は立ちつくしている。二度と、無傷を追ってくることはないだろう。


 廊下の角を曲がるまで、二人はならんで進んだ。にぎっていた月矢の手を無傷は急にはなすと、てれ笑いをしながら早口でしゃべった。


「ご、ごめんね~! 急に手をつないだりしたら迷惑……だよね?」 

「い、いやあ~、ああいう場合は仕方ないさ」 

 突然の無傷の行動に、月矢もとまどっていた。後ろ頭をかきながら、意味不明の苦笑いをうかべる。


「わ、わたし! ちょっと、トロフィーをしまってくるね! すぐ戻ってくるから」 


 自分のした事がはずかしいのか、真っ赤な顔になりながら無傷は言った。急いで背を向けて、大ホールにつづく扉に走り出してゆく。


「じゃあ、オレは外に出て待ってるよ。堕星と堤さんにも言っといてくれ」

「うん!」


 無傷は立ち止まってうなずいた後、扉を開けて奥に消えた。

今まで無傷と肌がふれ合っていた手の平を、月矢は確かめた。手を開いたり閉じたりして、同じ動作をくり返す。


「やわらかいような、あったかいような……あの女の子がくっついた感じが残ってるな。うれしいんだけど、なんだか変な感じだ」


 十八年間の人生で、感じたことのない違和感は、手の中に残りつづけていた。

文化会館の出入口は大混雑していた。大量の客が一度に外へ出ようとするため、前と後ろで人に押しつぶされそうな感じさえする。  


 月矢は人の流れに逆らわず、外へ出ることに決めた。今は急ぐ理由もない。

「ありがとうございま~す! ありがとうございま~す! また来年も神童会に来てくださいねぇ~!」 

 わざとらしいほど明るい女の子の声が聞こえた。出入口には、長い茶色の髪をした背の高い少女が立っていた。会場の外へ出てゆく客たちに愛想笑いをしながら、手をふっている。


 彼女が着ているのは、首もとに赤いリボンのついた黒地のセーラー服――いつも無傷が着ている物と同じ神童学院の制服だった。

もっとも、この少女は本物の神童ではなく、コスプレであったが。


「これは、神童会の記念品で~す! はい、どうぞぉ~! 持ってって下さぁ~い! えっ……! 袋の中身ですかぁ? 神童産業のマスコットのしんど君ですよぉ! そうそう、テレビのCMに出てくるかわいい小人の男の子がいるでしょ~? 

あのキーホルダーが中に入ってるんですぅ~!」


 コスプレ少女の腕には、手さげ袋がかかっている。中からプレゼント用の小さな紙袋を取り出して、会場をあとにする人々に配っていた。

神童産業のバイトらしい。


 人ごみに流されながら、月矢も前へ進む。

 出入口のそばまできた時、コスプレ少女が笑顔で近寄ってきた。例のごとく、プレゼントの袋を月矢にも差し出してくる。


「は~い! あなたもどうぞ~。あっ……あぁっ!」


 月矢の目とコスプレ少女の目が、正面からぶつかり合う。少女から笑顔がさっと消えた。彼女は口に手をあてて、おどろいた。


「か、か、か……神崎君!」 

 セーラー服を着て、キーホルダーを配っていたのは後藤有香だった。

 波津街の公園で銀色のカードを見せびらかしてきた、あの魔性の女が目の前で立っていた。 


 月矢は自分の頭の中がまっ白になるのを感じた。思考回路が完全にマヒしている。

 ただ相手の顔を見つめることしかできない。


「あの、その……こ、こ、この前は私――」

 有香が何か言いかけたとき別の少女の声がした。


「あれ? この人って、前に波津街であった……?」 

 月矢の横に無傷が姿をあらわした。スポーツバッグをかかえて、もどってきた所だった。

 たくさんの人間がこみあう出入口で、無傷と有香

は向き合っていた。

二人の少女は、こまったような、怒ったような、泣き出しそうな、わけの分からない表情で立ちつくしている。


 ――なんでこの女と、このタイミングで、会わなきゃならないんだ? もう、こいつとは一生会うことは、ないと思ってたのに。 

 ――これが『運命』ってやつか? 誰かがシナリオで決めているのか?


 月矢はうなり声を上げて苦しんだ。二人に何かを言わなければならないが、言葉が出てこない。不幸をなげくグチだけが、頭の中で暴走している。

 しかし、月矢の苦悩は長続きしなかった。

 けたたましい破裂音が三人の沈黙をやぶった。白いかたまりが、高速で近づいてくる。大きな白い網だった。


 それは有香の背中におおいかぶさり、クモの巣にかかったチョウのように全身をつつみこんでゆく。彼女は悲鳴を上げる間さえなく、後ろに吸いこまれた。


「へぇ~! こいつが、テメエのオンナってわけかぁぁ~!」

 玄関の外から若い男の狂った高笑いが聞こえた。


 緑に染めた短い髪で、右目に眼帯をしている学生。くさった生ゴミのような気持ち悪い笑顔を見せている――平塚修一がそこにいた。


 スコープのついた長いバズーカ砲を、肩にかまえている。マキコの店で買いこんだ例の新兵器なのだろう。白い網はバズーカから射出されたのか、有香を釣り糸のようにまき上げている。


 平塚は大型バイクにまたがっていた。流線型のボディーに一五〇〇CCはこえていそうな排気量。前後のガラスが動いて、戦闘機のコックピットのように、搭乗者をガードするカプセル型のバイク。

 神速壱号と車名がついていた。メーカーはまちがいなく神童産業だろう。


「ひさしぶりだねえぇ~! 君たちぃぃ~! 今日は、この前のカタキ討ちに来ちゃったよぉぉ~!」


 出入口に集まっていた人間が、一気にその場からはなれてゆく。

 会場の中にいた連中は、後じさりをして戻り、会場の外にいた連中は、大通りへ逃げ出した。

平塚と向き合う間に空白地帯が開いて、観客は円形にその場を取りかこんだ。月矢たちの争いを望むかのように。


 平塚は自分の眼帯を指で示しながら、わめきちらした。

「おめえ、見ろよ! これを~! おめえがブンなぐったせいでなあ、目ん玉の皮がめくれて、モーマクハクリっていうケガをしちまたんだよぉ~! どうしてくれんだよぉ~! コラアァァッ!」


「別にどうもしないよ。あんたが痛くて苦しくても、オレは何もこまらないから」


 月矢は冷ややかに笑った。すでに右手は銃のグリップをつかんでいる。

 いきなりの敵の登場におどろいたが、陰陽線を起動させていた。戦いの準備は、完了している。 

 となりにいる無傷も、スポーツバッグのジッパーを開いた。中から原型棒を取り出して、大急ぎで武器を両手でかまえた。 


「ムカつくねぇ~。すげえムカついてきちゃったよぉ~。今、俺が人質を取ってるのが、君たちには分かんないかなぁ~?」 


 平塚の顔がどす黒くなってゆく。さわれば体に猛毒が入りそうな、強烈な邪悪さがにじみ出ていた。


「別にいいよ、そんな女。とっとと、殺しちまえ」


 あっさりと月矢は答えた。敵を引っかけるための作戦ではなく、心の底からそう思った。


「待って! その人は何も関係ない人でしょ!」

 だが、無傷は逆の意見を出した。怒りに燃えた目で、前に進んで平塚へ近づこうとする。


「そうだぞぉ~! 人質が死んじゃったらヤダよなぁ? とりあえず、ここじゃヤバイから、みんなで楽園街らくえんがいに来てくんない? そこで戦争やろうよぉ~!」 


 平塚がバズーカの引き金を引くと白い網の根元がちぎれて下へ落ちた。有香の入った網をつかんで、バイクの後部に出ているL字型フックに引っかける。腕一本でこれだけのことをするのは、かなりの怪力の持ち主だった。


「俺はそこで待ってるから、その級外神童をつれておいでよぉ~。来たら、この姉ちゃんと取りかえっこしてやるからさぁ~」 


 平塚はアクセルをふかした。バイクの前部についていたガラスが動き出して、乗り手の体をカプセル型につつんでゆく。

月矢は敵に逃げられる前に、ホルスターから銃をぬいた。


「そんな女でよければ、くれてやる……よ!」

 早撃ちのガンマンのように、銃をぬくと同時に発砲した。連続で引き金を引きつづける。シリンダーにある六発の弾丸を、たたきこむために。


 六発の弾は平塚をつつむカプセルに命中した。ところが、すべてはねかえされて、ガラスを割ることさえできない。

 月矢は苦々しく舌打ちをして、銃を下ろした。防弾性であるようだった。


 大型バイクはうなりを上げて走り出す。玄関を飛び出して、門を突っきる。三秒後には平塚は大通りに向かっていた。

突然の銃撃戦に、まわりの観客はおびえていた。腰をぬかしてへたりこんでいる中年男や、母親にしがみついている子供がいる。


この場にいる月矢と無傷も、平塚のような危険人物であると人々に思われた可能性が高いだろう。

そのとき、堤が人ごみをかきわけて、かけ寄ってきた。

「だいじょうぶ! 神崎君、儚ちゃん!」

「くそ! 俺のイヤな予感が当たりやがったぜ!」


 堕星も堤の後につづいて、前に出てきた。

「あいつが言ってた楽園街は、ここから二キロぐらい先にある廃墟のことだ。戦争をやるなら、うってつけの場所だぜ。神童会も終わってヒマになったし、俺たちもいっちょ暴れてやろうじゃねえの」 


 堕星はわざとらしく腕まくりをして、にぎりしめた拳を高くかかげた。この男の口もとは、戦いになるのを楽しむように笑っている。


「わ、わかった! 今すぐ行った方がいいわね! 私がホテルからバスに乗ってくるから、みんなはここで待ってて!」


 堤も興奮気味にしゃべった。自分の役目を果たすために、外へ走りだしてゆく。

月矢は見知らぬ連中が、注目していることに気づいた。連中は他人のもめごとを、テレビドラマ感覚で見ている。 


 重苦しい怒りが月矢の腹の中でうごめいていた。奥歯を強くかみしめた。


 ――くそったれの後藤有香め。おまえは、あと何回。オレをイヤな気持ちにさせれば、気がすむんだ? 

 ――あんなやつを、わざわざ助けにいくのは、バカらしくてしょうがねえ。やってられるかよ。 


 足もとには有香がにぎっていた手さげ袋と、プレゼント用の小袋が転がっていた。

 月矢は靴でふみつけた。足の裏に力をこめて、ぎりぎりと押しつぶす。

 袋が破れて、中身のキーホルダーが外へ出てきた。あの女だけではなく、あの女が持っていた物体までもが、腹立たしいと感じる。


 ――つかまったのが、無傷だったら良かった。無傷だったら、オレは本気で助けに行くのに……。

 そのとき、無傷の手が月矢の肩にそっとふれた。


「神崎くん、いっしょにあの人を助けに行こうよ。わたしがあの女の子だったら、神崎くんがくるのを、待ってると思う……」 


 月矢は深く息を吐き出した。平塚につかまった有香を、無傷だと思いこもうとした。

 自分が助けに行くのは無傷であると、強く自分に言い聞かせる。


 無傷の手でふれられた瞬間、気持ちが変わった。魔法のタッチと呼んでもいいような、不思議な効果。理由は分からないが、不快な気持ちは消えていた。


 にぎっていた銃をホルスターにもどす。キーホルダーをふみつけていた足を横にどける。かみしめていた口を開いて、言葉を出した。


「わかった。はやく、楽園街に行こう。あの一級神童のガキを、今度こそ完全にぶっ殺してやる」


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