第一章 くさった街を、かなぐり捨てて 「3」 ← すいません! 追加です!
三
吉沢元文は神崎月矢のCTを終えた後、戦闘見学室に入った。
せまい室内にはスチールデスクがあった。上に二台のパソコンがあり、二人の女子オペレーターがついている。
戦闘実験室に呼びかけるためのマイクも、備えられていて、放送室と事務室が合体したような部屋だ。奥の壁全体には、ライフル弾さえはね返す防弾ガラスがはられている。
ガラスの前では、谷村銀二が紙コップに入ったコーヒーをすすっていた。部屋にきた吉沢に気づいて、声をかけてきた。
「吉沢君。まず、試作機の説明を聞かせてもらおうか」
谷村は神童産業・兵器開発部部長だった。年齢は五十代後半。
頭の前半分の髪がうすくなり、頭皮がすけている。いかにも酒が好きそうで、気が短そうな赤ら顔。
金のかかった紺の背広で、小太りの体をつつんでいた。
兵器開発部・技術担当の吉沢にとって、谷村は上司に当たる人物だ。今日は自分が開発した試作機の見学にやってきたのだった。
「最初にあの機体をごらん下さい」
吉沢は防弾ガラスの先に指を向けた。部屋の外は戦闘実験室であり、直径五十メートルほどの円形の空間が広がっている。
天井と壁と床。空間の表面はすべて白くぬられている。上は三階まで吹きぬけで、無数のライトに照らされていた。
東と西に二つのゲートがある。試作機である神崎月矢は、東門と書かれたゲート前に一人で立っていた。腕や首をぐるぐる回して体を動かしている。
戦いの前に準備運動をしているらしい。
「あの機体の名は鬼妖精といいます。彼が考えたキャラクターから名づけました。装備しているのは陰陽線という神童パーツです。どうですか、谷村さん?」
「弱々しい機体だね。あんな体つきではピストルの弾が二、三発当たっただけで戦闘不能になりそうじゃないか」
谷村は目尻にしわを寄せて、ふてくされた顔をしていた。
確かに神崎月矢は、一般の男子とくらべて力強い体とはいえない。
彼は十八歳だが、同じ年代の中には、もっとたくましい肉体を持つ男はたくさんいるだろう。
しかし、自分は神崎月矢に陰陽線を、埋めこんだのだ。見た目だけで全てを判断されることに、吉沢はかすかな反発をおぼえた。
ズルズルと音を立ててコーヒーを飲みながら、谷村はえらそうに説教した。
「計画では、万能な力を持つ強化戦士を作るのが目的だ。戦士にはオフェンスも、ディフェンスも、スピードもいる。
今までは射撃能力が高くてもスピードが遅くて、敵から先制攻撃を受けてやられるような、低レベルな戦士が多かった。こちらを立てれば、あちらが立たず……そういうのは、もうこまるよ」
――私はプロだぞ。素人のお前に言われなくても、そんなことは分かっている。
吉沢は言い返したいのをこらえた。いつもの事だった。この男に対して怒りを押さえたのは、今ので合計五十回はこえているだろう。
無理やり愛想笑いを浮かべつつ、吉沢はていねいな口調で説明した。
「今回の強化戦士は、以前の問題をクリアーできています。陰陽線には戦闘に必要な多くの能力と技能を入力しました。攻撃や防御に応じてプログラムが働き、サイバー化された神経を通して、瞬時に全身のコントロールが可能です」
「じゃあ、機体の目玉は何だね?」
「陰陽線では人体の反射行動力の限界値を、五倍以上オーバーできました。また、使用兵器の支配化が行えます。兵器にパーソナル・カラーをつけることにより、意志と連動させることが可能となりました。
ごらんになれば分かると思いますが、支配化した彼
の銃は緑色です。使用する弾丸も緑色で――」
「分かった、分かった。とにかく、テストバトルを見せてくれ。見なければ何とも言えないよ」
谷村はいらいらしたように手をふった。自分より年下の相手に、長話をされるのはがまんできないというように。
――何も分かっていないくせに『分かった』なんて言うんじゃない。自分の頭の悪さを証明されるのが、そんなにイヤなのか? 低脳男め。
吉沢は頭の中で怒鳴り返す。言ったところで、ストレスが解消されるわけではなかったが。
本心とは逆に、自分でも気味が悪いと思うほどの笑顔を作って谷村に問いかけた。
「お時間は、だいじょうぶですか?」
「二、三分ですむならかまわないよ。この後、所長に中間報告に行くんだ」
「では、今からテストバトルを行います。対戦相手に護衛人形を四体使います。……君、出してくれ」
吉沢はそばで待っていた女子オペレーターに指示を出した。低脳男に自分の作品の優秀さを見せつけるために。




