第四章 花園と少女と流血 「3」
三
ひらけた花畑の中。無傷と平塚は、十歩ほどの距離を取って向き合った。
平塚のそばには水色のビニールシートがあり、大きくもり上がっている。何か秘密の品をかくしているらしい。
「これは、君へのプレゼントだったんだよぉ~。でも、悪い子だからおあずけだねぇ~」
シートに銃を向けながら、平塚は説明をした。
無傷は彫像のように、きびしい表情で敵をにらんでいる。彼女はチューリップ型のバトンを両手でかまえながら、静かにつぶやいた。
「原型・起動。全エナジーを原型棒 へ転送せよ」
無傷の手にしているバトンは、原型棒という名だと月矢は分かった。バトン全体があわいピンクの光を放ちはじめる。
光は強さを増して、目がくらむ閃光が花畑を照らす。光が消えた時。閉じていたつぼみが動いた。ゆっくりと花がひらいてゆく。
機械でいえば、スイッチが入ったような状態なのだろうか。
「うわぁ~! げ、原型棒だってぇ~! まだ、そんなの使ってんのぉ~? 赤ちゃんが、おしゃぶり持ってるのと同じだあぁ~!」
平塚は一人でバカ笑いをしながら、楽しんでいた。相手を見下して怒らせようとする作戦らしい。
無傷はそれにかまわず、機械的な口調で次の命令を出した。
「転送エナジーを加工せよ。ボウ形態に移行を行え」
原型棒の先についていた花が消えた。三十センチほどのバトンから、一メートル近い長さにのびてゆく。
棒は曲がって、三日月形に変形。最後に金色の糸があらわれて、曲がった両はじをつなぎあわせる。原型棒は、弓へ形を変えていた。
ギャグマンガでも読んでいる感覚で、平塚はさわぎ立てた。
「ひやぁぁ~! その武器って音声入力ぅ~。すごい低性能だねぇ~。まるで君みたいだぁ~」
「エナジー・アロウ加工! 射出用意!」
彼女が弓を引くと、どこからか金色にかがやく矢が生まれた。神童の力で生み出された高エネルギーの結晶なのだろう。
「射出!」
無傷はやじりを平塚に向けて、糸から指をはなす。
電気がスパークするような音を鳴らしながら、金の筋を引いて、矢は高速で宙を走る。
無傷はさらに二回つづけて弓を引く。その度にエネルギーの矢は、瞬時に生まれて、連発で敵におそいかかってゆく。
しかし、平塚の一メートル以上手前で、三本の光の矢は止められた。見えない壁に、はばまれているよう
に。
「こんなモン、効かないよぉ~!」
平塚がショット・ガンをふり回すと、バチリと電気音が鳴った。
宙に止められていた三本の矢は分解されて、何百もの光のつぶとなり飛びちった。
無傷の攻撃がムダに終ったのを月矢は知った。
平塚は銃をかまえて、発砲のための準備――ポンプアクションを行っている。
「アロウ・キャンセル! シールド形態に移行!」
敵の動きに気づいた無傷は、すばやく命令を下す。原型棒は弓の形から、平面状に広がり、大きなピンク色の板になった。
板は長方形となり、表には持ち主の階級――『級外』の文字が浮かぶ。
今度は彼女の全身を守ることさえできる、巨大な盾へとなっていた。無傷は盾の内側についている取っ手をにぎりしめて、敵に向けてかまえた。
「じゃあ、僕もお返しするねぇ~! うらあぁぁ~!」
平塚が散弾銃を撃った。彼女の盾は見事に弾を防いではじき返す。十発以上の小さな弾が、まとまって地面に落ちてゆく。
散弾は撃つと、中に入っている大量の小型の弾がちらばってゆく特徴がある。
バスの窓ガラスを一撃で何枚も破壊できたのは、このためだろうと月矢は思った。
無傷は防御を終えた後、三度目の命令を下した。
「シールド・キャンセル! スピア形態に移行!」
手にしたひし形の盾がくずれて、板が細長い棒の形へのびてゆく。完成したのは槍だ。穂先から石突きま
での長さは二メートル近い。
全体からはピンク色のオーラを放っていた。無傷は槍を両手でにぎりしめて、まっすぐ平塚に向けた。
「はぁっ!」
彼女は気合を入れて、槍で突きかかってゆく。
ふだんのおだやかな少女は、どこにもいない。獣を殺そうとする狩人のように、勇ましく見えた。
無傷の槍は、平塚の腕をかすめた。接触点から火花がちり、ひとすじの白い煙があがる。
神童の力で強められた武器の追加効果らしい。
「いってえじゃねえかぁぁ! このブス女ぁぁっ!」
傷を受けたせいで平塚は急激に怒り狂った。平塚は
無傷の腹を本気でけり飛ばした。ふざけていた今まで
の調子が消えて、狂暴な本性がにじみ出ている。
「ひっ!」
短い悲鳴を上げて、無傷は花畑を転がる。槍は両手から、はじき飛ばされた。とたんに槍は初期状態の花型バトンへもどってゆく。
彼女の手からはなれれば、原型棒は効力を失うのだろう。無傷は手をのばして、急いでバトンを拾おうとした。
不利な状況であっても、戦いつづけるために。だが、のばした腕を平塚の足がふみつぶした。
「級外のくせに、ダメ人間のくせに、一級にたてつくんじゃねえよ!」
バトンは遠くにけり飛ばされた。平塚は無傷の黒髪に指をからませて、わしづかみにすると髪を引っぱった。
「あらぁ~ん。おしゃぶりがなくなっちゃったねぇ~。今度は自分の指でも、チューチューするのかなぁ~? ぶわっはっはっはっ!」
数秒前までの怒りを忘れて、どす黒い顔で平塚は笑った。自分が相手よりも優位に立っている時だけは、王様気分になってしまうらしい。
無傷は痛みをこらえて涙目になりながら、敵をにらみつけていた。




