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革命運命  作者: 安田勇
22/38

第四章 花園と少女と流血  「1」

  

  一


 東の空にあがった太陽は、ゆっくり動きはじめていた。平塚修一は腕時計を見た。午前七時四十分すぎ。約束の相手は、もう十分は遅刻をしている。


「おせえなぁ~。あの人っちは何をやってんだろぉ~なー」 

 顔では笑うことはできるが、体の中では相手への殺意がわきあがっていた。

平塚は波津街と養神街の境目にある、一本松と呼ばれている中間地に来ていた。あたりは草原が広がっているだけで、めぼしい物は何もない。

 四階建てのビルほどの高さがある、巨大な松の木が目印のように立っているだけだ。


「いやがったなぁぁ! 平塚ぁぁ~!」


 下品な女の声と同時に、やかましいバイクの音がした。

 ノーヘルの女たちが二人乗りをしていた。違法改造をしたとしか思えない轟音を立てて、50CCバイクが一本松の前で止まる。


 金色に染めた髪。茶色に変色した肌。汚れたセーラー服。おなじ人間をコピーしたようにそっくりな外見。二日前、平塚が金でやとった女ギャングだ。


「ご苦労さぁ~ん。君たち、留置場から脱走してきたんだってねえぇ~?」 

 平塚は笑顔で呼びかけた。女たちが無傷儚のラチに失敗して、警察に捕まったという情報はすでに知っている。


 二人はバイクから降りると、エンジンも切らずに近寄ってきた。一人は右足に包帯を巻いて、足をひきずって歩いている。


 敵にクロスボウの矢を投げられたときに受けた傷らしい。もう一人は右目に眼帯をしている。

 こちらは、敵に警棒でなぐられて、地面にたおれたときにできた傷なのだろう。


「やつらのボディガードのせいでなあ、仲間が銃で撃たれたぞ! 全部オメエのせいだぁっ! オメエがヤバイ仕事を押しつけたから、こんな事になったんじゃねえか! どうしてくれんだよぉぉ!」


 足に包帯を巻いた女――ギャングのリーダーは、平塚の制服をつかんでゆらしながら怒鳴りまくる。

 怒り狂った女の顔は、ブルドッグにそっくりに見えた。銃で撃たれたと言っているが、平塚は彼女自身が味方を誤射したことを知っていた。

しかし、話し合いをするつもりはないので、重要なことだけを伝えた。


「でもさあー、僕はちゃんとカネを払ったよねぇ~?」

「たったの十八万でどうしろってんだよ! ウチらはオメエのせいで、自首させられて、おまわりに捕まったんだよ! 一番悪いのはオメエなのに、何でウチらがこんな目にあわなきゃなんねえんだぁ! ふざけんじゃねえよぉ!」


 平塚の言い方が気に入らないのか、女の怒りはさらに加速した。

 同じように平塚の中でも、彼女たちへの殺意はムクムクと成長している。今までガマンして相手の話を聞いてやったが、そろそろ行動に移ってもいいころだろうか。


「なるほどぉ~。君らは仕事のクレームをつけに来たってワケだ。でも、君らはラチるのに失敗したで……しょ!」


 平塚は笑いながら、右の拳を女リーダーの顔に打ちこんだ。拳はリーダーの茶色い顔にめりこむ。肉と肉がぶつかる重い音が鳴る。


 女リーダーは顔を押さえながら、あおむけに地面にたおれた。平塚は軽くジャンプをして、地面にいる女の上に飛び乗った。

 平塚の足が女の腹に、激しく食いこむ。自分の全体重をかけて、相手の体を両足でふみつぶす。


「ひっ! ひいぃぃっ~!」


 耳をつんざく悲鳴が上がる。違法改造をしたバイクの音でさえ、小さいと思えるほどの金切り声が。

 平塚は足に力をかけながら、わざとゆっくり腹の上から下りた。金髪女の顔は、血を吹きそうなほど赤くなっていた。


「お、おなかっ! おなかがいたいっ! 苦しいよっ! やだ、やだあぁぁっ~!」 


 彼女は涙を流しながら同時に鼻血も流している。

 八つ当たりのように、地面をなぐっていた。そうすることで、自分の痛みが止まると信じているのか、何度も土をたたきまくっている。


 苦しむ女を見ていい気分になった平塚は、笑いながら腰をかがめた。子供のいたずらを注意する、母親のような口調で地面の相手に言った。


「あんまりワンワン泣くと、みっともないよぉ~! もうお姉さんなんだから、ちょっとぐらい痛くてもガマンしようねぇ~!」


「な、何考えてんだよ、あんたぁ! こ、こ、殺す気かよ!」

 眼帯の女がしがみついて、止めようとしてきた。


 平塚は背中に手をまわして、ズボンの間にはさんでいた銃を高速でぬきとった。

 ストックのついた長い銃。ポンプアクションで弾をこめて射撃するショット・ガン――レミントンモデル八七〇P。中には実弾も六発入っている。

 平塚が女の腹にショット・ガンを押しつけるとうそのように動きが止まった。


「僕は君ら六人に、一人三万エンもはらったじゃないの~。合計十八万エンですよ~。だいたい、十八万って言ったら大金じゃないですかねえ~?

君らが売春やっても、一日二万エンぐらいしか稼げないでしょ? 売春じゃあ、やくざに場所代取られるから、もっと少ないかなぁ~」


 残された女は青ざめた顔でふるえていた。一歩、二歩と後じさりをはじめる。

 彼女はようやく気づいたらしい。仲間の命より自分の命の方が、何百倍も大事だということを。

 平塚は相手の反応など無視して、自分の調子でしゃべりつづけた。


「それにさぁ、君らはただの一般人でしょ? 神童じゃないでしょ? 何の取り得もないフツーの人間じゃんね~? 

そういう一般人がカネもうけしたかったら、あぶない目に合わなきゃならないのは当然じゃなぁ~い? ちがうぅ~?」


「やだっ! もう、やだぁぁ~!」

 ついに眼帯の女は、背中を向けた。停まっているバイクに向かって走り出す。

 自分一人だけ、逃げ出そうとした。

 平塚は散弾銃を撃たなかった。かわりに銃をふり回して、相手の後頭部をなぐりつける。脱走しようとした女は顔から地面に転んで、ストップした。


「お姉さぁぁ~ん! 仲間を見捨てて、帰っちゃったらダメだよぉ~!」


 ふざけた声を出して平塚は笑った。たおれた女は、のどの奥でうめきながら頭を起こす。額が切れて、血がしたたり落ちている。


 平塚は女の目の前で、仁王立ちになった。

 相手の鼻先にショット・ガンの銃口を向ける。女は地獄の底を見るように、銃口の闇をのぞきながら、ガタガタふるえて命ごいをした。


「や、やめてぇっ! もう、カンベンしてよぉ~! お、お願い!」

「カンベンしてもいいけど、僕の十八万エンはどうしてくれるぅ~? ちゃんと、その分は働いてもらえないと困るんだけどぉ~!」


「……な、何でも……し……ます」

 先に地面にたおれていた女リーダーが、かわりに答えた。言葉使いが敬語になっている。突然、平塚の奴隷になったように、こびへつらった態度。


 自分の言うことを聞く相手に、うれしくなって平塚は表情をゆるめた。不気味なほど、子供じみた言い方で答えた。


「えぇ~? 本当に何でもやるのぉ~? じゃあ、もう一回。お姉さんのおなかをふんづけて、トランポリンやってもいいのかなあ~?」


「やめてよぉっ~! お願いだから、それだけはもうやめてぇ! や、やめてくださいぃ~!」 


 女の顔がゆがんで、大量の涙がこぼれた。数十秒前、自分が味わった地獄の苦しみを思い出したのかもしれない。 

 平塚は腹の底から、大声を上げて笑い転げた。かかえていた銃をふり回しながら、盛大に笑う。


「あっははっ! ウソだよぉ~! もう、そんなことしないよぉ~! こういう事してると、将来奥さんにも、同じことしそうだからやめるよ~!」


「ど、どうすれば……ゆ、許してくれ……ますか?」

「そうだねぇ~。この前、君らがラチに失敗した女の子いたでしょ? 二人であの子のプレゼントになってくれない? 君らがいれば、めちゃくちゃ喜んでくれると思うからさぁ~」


 傷ついた金髪女たちは、どちらも顔に冷や汗を浮かべ唇をふるわせていた。恐怖と苦しみがまざりあった、絶望的な顔つきだった。

 二人を見ながら平塚は満足していた。たぶん、今日は昨日よりも何倍も楽しい一日になるだろう。


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