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革命運命  作者: 安田勇
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第三章 もどらない時代  「5」

 

    五


 月矢は無傷といっしょに波津街海岸にやってきた。

 太陽が真上から照りつけて、水平線の彼方まで見わたすことができた。


 漁に出かける一隻の漁船が、波しぶきを上げて沖へ出てゆこうとしている。この海岸に沿って西に進んでゆけば、港にたどり着くことを月矢は知っていた。


 二人で堤防に立って、海原をながめた。堤防は階段の形をしていて、下へつづいている。先には砂浜が広がっていて海があった。


 夏になれば海水浴場となってにぎわうのだが、今はまったく人気がない。

 月矢は無傷の左に立って、昔話をつづけた。


「できれば、オレは波津街の時間を止めたかった。街も人も、あの時代のまま変わらずにいてほしかった。でも、これはどうしようもない事だったのかもしれない」


 無傷は、だまってうなずいてくれた。


「あれは、もどらない時代なんだ。いや、ちがう……もどってはいけない時代なんだ。オレはそう思った。過ぎたことは絶対にもどすことはできない。

 今が悪い状態なら、その中でマシなものを探してゆくしか、やりなおす方法はない。だから、夢想鉄道に入った」 


 その時、月矢の頭で急にひらめいたものがあった。


『人生もこのサイコロみたいに、運で決定される部分があると思わないか? 確率や偶然で決まってしまうような、人の力ではどうにもならない何かが、あると思わないか?』


『何かは最初から決まっていて、途中で変えることができないものがある。君が言ったように、美男子や金持ちに生まれたいといっても無理があるのと同じように、ね』


 昨日の西暦祭で出会った男――運命調律師。あの男の言葉を思い出した。

「……わたしも、神崎くんとおなじかな」 


 無傷の声を聞いて、月矢は現実に引きもどされた。

 左から無傷の顔を見た。きれいな少女の肌だった。一つの傷も、一つのにきびもない肌。彼女の黒い瞳はまっすぐに水平線へ向いている。


 吹きつける潮風のせいで、さらさらと黒髪が後ろになびいていた。カーディガンの上からは、胸が豊かな曲線になってふくらんでいた。

 堤は無傷のことを、男だと思えと言っていたが、無理な話だと月矢は感じた。


「わたしも夢想鉄道で、今の自分の流れを変えたいって思う。自分らしくない自分の人生を、ここでどうにかしたいと思って来たから」  

 ――なんだか、葬式みたいなデートになっちまったな。ああ……そうだ!


 彼女を喜ばせる方法を思いついて、月矢は思いきって口に出した。

「あのさぁ、アイスって何の味が好き? そこの店で売ってるから、無傷のぶんも買ってくるよ」

「あ、わたしもいっしょに行く!」


 季節外れでも、海辺の売店は開いていた。他の客は誰もいなかった。

 ソフトクリームを二つ注文して代金は月矢がはらった。月矢はバニラで、無傷はチョコレートとバニラがからみ合った味を選んだ。

 その後、堤防にもどって海原を見ながら、二人でソフトクリームをなめていると――。


「は~い! そのまま二人とも、こっち向いてぇ~!」 

 どこかで聞きおぼえのある、若い女の声がした。

 何事かと思いながら、月矢は無傷といっしょにうしろを向いた。カシャリと、シャッターが閉じる音が聞こえる。


「へえ~。堕星さんの言う通り、ここにいたのねぇ~。もしかして、私はお邪魔だったかしらぁ~」


 おばさんのように口に手を当てて、堤が笑いながら立っていた。もう一方の手の中には、即席カメラを持っていた。余計なことまで気が回る女だった。


 堤を見たとたん、月矢はげんなりとした気持ちにな

った。悪意をたっぷりこめて乱入者にグチをこぼす。


「なんだよ、堤さんが来たのか? アイスがほしかったら自分で買えよ。もう、人にはおごらないからな」


「ふ~ん、知らなかった。ひねくれ者の神崎君が、女の子にやさしかったとはねぇ~。明日はインセキでもふってきそう」


 堤はいやみを返した。そばにいた無傷が、くすりと笑うのが聞こえた。

 月矢は鼻を鳴らしただけで、何も言わなかった。無傷の前で、この女と言い争うのはごめんだった。


「それより、神崎くん。ええと、あの……何か事件は起きなかった?」 

 話しづらい事なのか、堤の視線はぐらぐら横に泳いでいる。


「どうして、事件なんか起きるのさ? 何にも起きないよ」

「な、な、何もなければいいの! ただ、この街ってぶっそうみたいだし、二人に何か起きたら心配になって見に来ただけで……あはははっ」 


 オーバーな程あわてて、笑いながら堤は言いわけをした。ぎこちない作り笑いをしながら、無傷の様子をチラチラうかがっている。 


「ようするに、ヒマだからオレたちの後をつけてきたんだろ?」

 月矢はバカにした気持ちで堤を見ながら、ソフトクリームのコーンを、パリっとかじった。何を考えているのか分からない女だと思った。

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