第二章 不美少女的世界 「5」
五
「みんな、おつかれさーん! 波津街に着いたぜ!」
堕星の能天気な声を聞いて、眠っていた月矢は目をさました。
腕時計の時刻は、午後四時すぎ。走りつづけるバスの中に、オレンジ色の光が入りこんでいる。まぶしい西日だった。
窓の外では、静煙街からつづいていた廃墟の世界が終わっていた。汚れてもいないし、壊れてもいない現代の建物が立ち並んでいる。
逆方向では海が広がっていて、何十もの漁船がとまっている港があった。今は漁師たちの姿はないが、数時間ぶりに見る、生きている人間の住む街だ。
「いやあ、堤さん! 五時間も運転ご苦労さん! 肩でも、もませて下さいよぉ~!」
堕星は不気味な愛想笑いをしていた。両手をこすり合わせて、もみ手をしながら運転席の堤の前に出てゆく。この男なりに、気を使っているらしい。 堤は警戒するように、鋭くにらんで言い返した。
「けっこうです! そうやって、変な場所をさわるつもりでしょう?」
「とんでもありませんや、奥さん! だいたい、さわるほどの大きさもないじゃございませんかぁ?……いってえっ!」
どすんと、重い音が聞こえた。堤がハンドルから片手をはなして、堕星の背中をなぐりつけたらしい。
「誰が奥さんなんですか! それより、街の説明をして下さい!」
「へ~い。この波津街は人口五十万人。人口三百万の静煙街とくらべれば、ちっぽけな所だね。主な産業は漁業で、見ての通りの港町。名物は、うーんと……」
堕星はクリップボードをペラペラめくりながら、資料を探している。説明に手間どっているガイドのかわりに、月矢が口をはさんだ。
「名物は、あじのひらきだろ? 昔、オレはこの街に住んでたから知ってる」
「なんだ、知ってんのか。今日は西暦祭をやってるから、後で行ってみたらどうだい?……あの、お嬢ちゃんといっしょにさ」
堕星が意味ありげに笑って、月矢の耳もとで言う。余計な気づかいに、月矢は腹が立った。堕星から顔をそむけながら答えた。
「やだね。オレは一人ぼっちでいるのが大好きなんだ」
「へっ。さようでございますか――とりあえず、この波津街には二日泊まることになってる。
宿屋は海猫亭っていう旅館だ。夕めしは六時から。その後、遊びに行ってもいいけど、九時までには帰ってくること。だいたい、そんな感じ」
「あの、堤さん。夕ごはんの前にお風呂に入ったらダメですか?」
無傷が立ち上がって質問をした。今の彼女はドロまみれの汚い姿だった。その状態では、何もする気は起こらないだろうと月矢も感じた。
「あっ! 私も入りたかったの! じゃあ、ついたらいっしょに行かない? ここの旅館はね、銭湯みたいに大きいお風呂なんだって」
堤は堕星が相手の時とはまるでちがう、やさしい言い方で答えた。
男同士より、女同士のほうが仲良くなるスピードは早いらしい。自分が眠っているあいだに、堤と無傷は自己紹介やら世間話やらをしていたのだろう。
月矢はとなりの席にいる無傷の横顔を、チラリとうかがった。
――別にいいや。この人とは、あんまり関わりたくないしね。
一瞬で判断を下した。孤独を愛するひねくれ者の気持ちは、ちょっとやそっとでは変わらない。




