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革命運命  作者: 安田勇
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第二章 不美少女的世界  「4」

 

 四


「やっべえなぁ~。この街に来たのは、初めてだから迷子になりそぉ~。俺ってちょっとピンチっぽ~い」

 平塚修一(ひらづかしゅういち)は笑いながらぼやいた。

 しかし、腹の中では深刻に悩んでいた。


 平塚は今年で十七歳になる学生だった。身長は百七十センチをこえていたが体つきは細い。神童学院の校名が入った、紺の学生服を着ていた。

 青白く病的な顔で、両目はななめにつりあがっている。短い髪は毒々しい緑色にそめて、ハリネズミのように立たせていた。 


 今、平塚は波津街の中心部にいた。靴屋、花屋、本屋、ケーキ屋などが立ちならぶ駅前商店街をぶらぶらしていたが、自分の居場所さえ分からない。

 時刻は、午後三時三十分過ぎ。人はまばらで、さびれた街だと思った。


「しょうがないなぁ~。誰かに道を教えてもらうしかないみたぁ~い」


 平塚はタバコに火をつけて息を吸いこんで、ニコチンパワーを補給した。前から一組の高校生カップルがやってくるのが見える。

 男は自分と同じぐらいの十七歳前後。ぼうず頭で、真っ黒に日焼けした顔をしている。


 ジャージを着ている所からすれば、何かの運動部員だろう。

 女はそれより年下で、髪の短いおかっぱ頭。丸顔で中学生のようなロリータ系の顔だち。セーラー服を着ていたが、男の運動部のマネージャーかもしれない。

 平塚は高校生カップルに呼びかけた。


「お~い。そこの一般人! ちょっと、教えて欲しいんだけど、このへんでチンピラとか暴走族とか、やばいやつらが集ってるとこ知らなぁ~い?」


 平塚の姿を見たとたん、高校生カップルはさっと青ざめた。

「ま、マサオくんっ! わたしたち、そんな所知らないよね?」


「う、うん。俺っちはそんな場所、見たこともないよなぁ、ユミちゃん。じゃあ、急いでるからごめんっ!」


 ユミちゃんがムキになって答えた後、マサオくんは彼女を守るように手を引いて走り出す。

 十秒もしないうちに、二人は五十メートル以上進んでいた。連中が陸上部である確率は九〇%をこえた。


「あぁ~あ、完全に無視されちゃったぁ~。ヤバイかもしれなぁ~い。なんか俺って、むかついちゃったかもしれなぁ~い」


 平塚は口にくわえていたタバコを、プッと吐き出した。顔では笑っていたが、腹の中では怒りがうずまいている。

 自分を無視した二人を殺したいほどに。


 あたりを見回す。赤信号でとまっていた汚い五十CCバイクに乗った男が目に入る。

 ポケットからサイフをぬいて開く。中には百枚近くの一万円札が入っていた。平塚は札を二十枚取り出した。


「すみませ~ん。あんたの乗ってるバイクを、二十万円で売ってくれなぁ~い?」

「そ、そんなこと急に言われてもっ! だって俺、今から学校に行く途中だし」


 汚いバイクに乗っていたのは、メガネをかけた二十代前半の男――たぶん、大学生。

 男のポケットに無理やり金をつめこんで、平塚は肩を突き飛ばした。


「いいから、どきなよ。あんたのダサくてボロいバイクを、俺が買い取ってやるんだから。その金で新しいやつを買えばいいじゃん」


 買い取ったボロいバイクに、平塚はまたがった。歩道を見た。二百メートルほど先を、マサオくんとユミちゃんが手をつないで歩いている。


 平塚はスロットルをひねってエンジンを吹かした。バイクを発進させて、赤信号の交差点に突っこんでゆく。まわりのクラクションを無視して、車道から歩道に乗り上げた。

 十キロ、二十キロ、三十キロ、四十キロ……歩行者を無視して、ひたすら加速する。マサオくんとユミちゃんに追いついた。


「どっかあぁ~んっ!」

 平塚は大声でさけびながら、ユミちゃんの背中にバイクで体当たりした。

 時速四十キロの衝撃。ユミちゃんの体は前輪が当たって、はじき飛ばされた。頭から地面を二回転して、ガードレールに激突する。

 彼女はクークーと小さな声を上げながら、ロリータ顔をしかめていた。額からポタポタ血を流して、足を押さえて苦しんでいる。


「え? え? え? な、何なのっ?」

 マサオくんは意味が分からない顔で、あたりを見回している。平塚はハンドルの向きを変えて、罵声をあびせた。


「全部おまえが悪いんだよ、バカ! おまえは一般人のくせに、俺をむかつかせるようなこと言っただろ? 俺が質問してるのに、いいかげんなこと言っただろ? だから、バチが当たったんだよっ! うらあぁぁっ!」


「ふんがっ! んがあぁぁっ!」


 マサオくんは絶叫した。平塚はバイクのタイヤで、相手の足をふみつぶしていた。

 時速十キロ以下の低スピードだが、足の指が二、三本は折れたことだろう。


「あやまれよ、おまえ! おまえのせいで俺はむかついちゃったし、その女の子もケガしたんだぞっ! 何もかもおまえが悪いんだよぉ! ボゲエェッ!」


「も、も、もうしわけありませんでしたぁっ~! 何だか分からないけど、すみませんっ! ごめんなさぁ~いっ!」


 マサオくんはアスファルトの上にすわりこんで、涙を流しながら土下座をした。

 ふだんから運動部の中で、顧問の教師や上級生からいじめられているのか、反射的な行動だ。


 平塚は謝罪を受けると、ようやく胸のつかえがとれてすっきりするのを感じた。

「俺さあ、やばい人が集まるところを探してるんだけど、本当に知らないの?」

「こ、この先にパイナップルっていうゲーセンがありますっ。そこに、危険そうな女が、たくさんいるみたいなんですけど」


「いた……いよ。ま、マサく…ん。ほ、骨がお……れち

ゃったか……もぉ」


 ユミちゃんが血だらけの顔で涙を流していた。彼女の右の靴はぬげて、アスファルトに転がっていた。足首は奇妙な方向にねじ曲がっている。本人の言うように、骨折しているのはまちがいない。 


「痛いのは生きてる証拠だよ。はやく、よくなるといいね。がんばってぇ~」

 平塚はバイクを下りて、笑顔でユミちゃんの頭をなでてやった。

 正しいことをした後は、いつも気分がいい。今日の夜はよく眠れるだろう。


 パイナップルというゲームセンターは、見るからに景気の悪そうな古い店だった。

 平塚はせまい駐車場に入って、バイクをおりた。

 店の入口で六人の女たちが地面にねそべっていた。全員セーラー服を着て、金色にそめた髪をしている。


 一見、ホームレスの集団に見えたが、地面にすわるだけの気力がなくなったチンピラらしい。

「うわあぁ~。金がねえよぉ~。金がねえからなんにもできなぁ~い」


「腹へったぁ~。ビール飲みてえし、タバコも吸いてぇ~。でも、万引きするのも、めんどくせえしぃ~、かったりぃ~」


 女たちは陸にあがったアザラシのようにゴロゴロ転がりながら、人生の苦しみをなげいていた。

 平塚はサイフを開いた。中から一万円札を十八枚取り出して、地面にまきちらす。

 十八÷六=三。平均すれば、一人に三万円ずついきわたる計算。


「す、すげえっ! 一万円っ!」

「か、か、かねだぁぁっ!」


 現金を見て、寝転がっていた六人の女たちは起き上がった。生ゴミにおそいかかるゴキブリよりもすばやい動きで、足もとの金を拾い出した。


 平塚は新しいタバコをくわえて、火をつけるとニコチンを吸収する。金の力で他人を思いどおりに動かすのは、いい気分だ。


 すべての金を拾い終えるのを見とどけた後、平塚はえらそうな口調で語りかけた。 

「君たち一般人に頼みがあるんだけどいいかなぁ~? 言うこと聞いてくれたら、もっとたくさんお金あげるよ~」


「ま、マジぃ~? こんなに金がもらえるなら、何でもやるぅ~。どんなことでやっちゃうぅ~」

 リーダーらしい女は、一万円札を三枚にぎりしめながら笑っていた。


 どういうわけか彼女たちは、自分と同じ黄色人種に見えないほど黒く日焼けしている。セーラー服を着ていたため、十代の少女だと思ったが、化粧がけばけばしいので、二十歳以上なのは確実だろう。


 外国人かもしれないと平塚は感じた。今の時代は変な外国人がふえているとテレビでも言っていた。

「無想鉄道に無傷儚っていう女の子がいるんだよ~。顔にでっかい傷のあるブスな姉ちゃんなんだけど、そいつをラチして連れてきてくんない? 


 期限は二日間。元気なまま連れてきたら、五十万

円。半殺しで連れてきたら、二十五万円。死んだまま連れてきたら〇円あげるよ。どう? やる気出てきたぁ~?」


「やるっ! やるっ! ぜってえやりてぇ~!」

 平塚の言葉に金髪で顔の黒い女子高生たちは、笑顔で何度もうなずいた。


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