第一章 くさった街を、かなぐり捨てて 「1」
一
天竺。桃源郷。
竜宮城。あるいはエルドラド。ジパング。
そういえば、ガンダーラというのもあった。
大昔から、たくさんの人間がユートピアを求めた。
そこに行けば大金持ちになれる。
美男美女が手に入る。不老不死になさえなれる。どんな願いもかなえる力が、その場所にはあるという。
ユートピアとはギリシャ語で「どこにも存在しない所」という意味がある。
俺はその街を求めて旅をつづけた。
夢想街と呼ばれる、まぼろしの街がその目的地だった。
何十年という長い月日を耐えつづけた古びた手帳。黄色くなった一ページ目に、旅人の決意が、ボールペンでなぐり書きしてあった。
この手帳を見たとき、神崎月矢の期待は一気にふくらんだ。
新しい世界への冒険心。
どこかにあるかもしれない理想の街へのあこがれ。胸の奥でくすぶっていた欲望を強く刺激する。
作者の顔は知らず、名前さえ分からない。だが、未知の場所へあこがれる気持ちだけはよく理解できた。
「オレも、こいつみたいになりたい」
月矢は声に出してつぶやいた。旅立ちを決意した瞬間だった。