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1-3 森林探索

と、いうわけで魔獣の森の中に入ったナージャ達だが……

 アルスス地方危険指定区域“魔獣の森”。

 その広さは、世界の中でも一二を争う広さをもつ森とされている。

 危険指定されている理由は、世界で最も多くの魔獣が生息しているという事だ。


 魔獣。

 読んで字のごとく魔を持つ獣の事。

 あるものは人間以上の知能を持ち、あるものは眼光から不可思議な現象を起こし、あるものは擬態を通り越して変身能力を持つ。

 ただでさえ人間は獣に対し武器や知能がない限り勝てないのに、その上知能を持ったり、特殊能力という武器を使ったりと、厄介さを増している。


 調査に出た者は少ない為なぜなのかは知らないが、一説には磁場や魔力の関係や、魔獣にとって住みやすい環境であることが原因とされている。

 原因がはっきりとしないため、今の人間にできることは森から魔獣が出てこないかどうかを確認することである。


 故にこの森はほとんどの者が足を踏み入れない秘境となっており、内部を知る者はほとんどいないとされている。



          ◇



 だが、そんな森のなかに不穏な雰囲気がする工場のような建物が一つあった。

 その工場のような建物の内部、時刻が夜でもあるが、明かりのついていないどこか薄暗さを感じさせる部屋で、一人の男が食事中に誰かと会話をしていた。


「なに? 地獄からの使いがここに向かっているだと?」


 男は、薄暗い部屋の中で耳に小型の機械を当てて、部屋にいない誰かと話しかけている様子であった。

 それもそのはず、男の耳にあてられたのは、どこかの再処刑人と同じ遠くに離れた人間と会話をする道具……携帯電話を片手に話しかけているのだった。なお、折り畳み式の青色である。

 暗い部屋のなか、携帯電話のディスプレイが唯一の明かりとなっている様子で、男は左手に持っているなにか肉のようなものにかじりつきながら右手の携帯電話で会話をしていた。


『そうだ。ゆえに忠告ぐらいはしておこうかと思い、連絡をしてきたという事だ』


 電話の向こうからは、話し方はともかくどこか厳かさを秘めた中年の男の声が聞こえてきた。

 男はいったん携帯電話を耳から離し、画面などをよく眺めて、改めて耳にあてて言う。


「……連絡するにしろ、ずいぶんと奇妙な道具だなこいつは。使うのは初めてだぞ」

『そうか。だが、かつての同僚がいたくこの道具を気に入っていた。オレもまた同じく使ってみようかと思い、故に今度こそこれを使おうかといいタイミングに貴様が……』

「もういい。で、地獄の使いとは例の?」

『……そうか』


 ……斬り捨てるような男の言い方に、向こうの声がややしょんぼりとしつつも、声は本題について述べる。


『二十年前、貴様たち脱獄者を追うために地獄から遣わされた、たった一人の人間……もっともシスカーの奴がやらかしてしまい、いろいろあって今になって貴様たち脱獄者を追いに来たというわけ』

「てめぇも同じく追われている立場に違いないだろ」

『それもそうだが、そんなことはどうでもいい』

「…………」


 二十年ぶりとはいえ、電話の声の主に対し男はうんざりとした様子で頭を掻く。

 この独特な言い回しに、どこか苛立ちを引き立てるような喋り方。

 どうやら男と声の主はどうも馬が合わない様子である。


『どうやら貴様がいろいろとことを大きくしたがゆえに、奴に目をつけられたという事だ。このまま森の中に引きこもっていると、奴に見つかり、戦闘となるぞ』

「ことを大きくした、だ? たまたま近くにいたの間違いじゃないのか?」

『……それもそうか。さらに目立っている野郎なんぞが存在するからな』

「……それで、わざわざ連絡をしたからには言いたいことでも?」


 男はどこか苛立った様子で肉にかじりつきながら向こうの声を待った。

 すると、


『いや、この携帯電話を使用したいがためにかけただけ故、特にない』

「…………」


 ……しばしの沈黙。

 そして心なしか携帯電話を持つ男の手がギリギリと力を入れる音が出ている。


「……そんなくだらない事の為に食事中に掛けたのかてめぇは……?」


 なにかを察したのか向こうの声は慌ててフォローするように言う。


『落ち着け。いいか、特にいうことはないという事は、好きにしろと言う事だ』

「……好きにしろ、だと?」

『そう。奴は人間の中でも優秀の部類に入るが所詮は人間。シスカーに対し手も足も出ずに負けた』

「ベルベーニュも同じ元人間だろうが」

『そうだ。だがそれがどうした』

「…………!」


 再び携帯電話からギリギリからミシミシと悲鳴のような音まで出てきた。

 いちいち返し方に腹が立つ。


『奴は貴様たちにとって敵以外の何者でもない。迎え撃たない限り、奴は貴様たちから再び自由を奪い取ることになる』

「殺さなければ殺される、ということか?」

『違う。殺されるなどと言った生易しいものではない。地獄とは罪に対して罰しか行わない』

「……そうか」


 いろいろと紆余曲折があったが、つまり自分のもとに地獄からの使いがやってくるという事だ。

 なぜこうも長話をしているんだと、うんざりしつつも男は要点を纏めて言った。


「よくわかった。要するに俺のもとに地獄から使いがやってきて、そいつが再び俺たちを捕まえようとしているんだな」

『そうだ。それもかなり手ごわそうだから気をつけろ』

「…………で、迎え撃つなりなんなり好きにしろ、と?」

『そう。なんなら貴様が飼うことになってもオレは構わない』

「!」


 その時、ほんのわずか男の瞼が上がった。

 自分が魔獣の森にいるのは知っているが、まさかそこで自分が何をしているのかまで知っているとは思わなかったからである。

 思わないことに男は声音を強めて、なおかつ退く声で言う。


「……てめぇ。どこまで知っている?」

『ともに地獄から逃げてきた同志の動向が気になるのは当然の事』

「…………」


 同志。

 胡散臭くは聞こえるがここはあまり深く追従しないことに決めた。

 なんだかんだで電話の声は地獄から抜け出すことに協力してくれたのだ。敵に回すつもりはない。


『では、健闘を祈る』

「あばよ」


 電話の声がなにか言い切る前に男は携帯電話をそのまま握りつぶした。

 二十年前に手渡されてから使い始めたのは今日が初めてだが、もう二度と使うつもりはないと思ったからだろう。


「まあいい。予想はしていたが本当に地獄からここまで追ってくるとはな」


 そして、左手に握った肉……否、人型の腕(、、、、)を骨まで食べつくした後、男は満足そうな表情で、しかし直後に険しい表情になって言った。


「何がどうであれ、この俺の楽園! 誰にも壊させはしねぇ!」


 男は完全に骨のみと化した腕をそのまま床に放り投げると、この薄暗い部屋から出て行ったのだった。

 部屋中に香る血なまぐさい匂いを後にして……



          ◇



 一方、魔獣の森周辺の村の調査から翌朝。

危険を顧みず森の中に足を踏み入れたナージャとオルトは暗い森の中をひっそりと歩き続けているのだった。


「お~い。ナージャ……」

「なによ。気持ち悪い声なんか出して」

「うるせぇ。この暗い森の中、光源もなしで大丈夫か?」


 ナージャは真っ暗闇の森の中、後ろにオルトを控えた様子で明かりもなしに遠慮無用で進んでいるのだった。

 まったく明かりのないまま進む彼女にオルトは心配するように声をかけた。


「そうね。はっきり言って、なんでこの義体からだに夜目の機能を積まなかったのかって今所長に恨み言を送りたい気分ね」

「なんて迷惑な……」

「けど大丈夫よ。悪霊狩りってのは大抵夜に行われるもんだから、夜間の活動には慣れているものよ」

「だったらいいが……」


 過去、悪霊狩りの訓練もしていた彼女には、夜間の活動など全く恐れていない。

 故に明かりなしでもこうして森の中を遠慮なく進める。


「昼か夜かの違いなんて、大雑把に言えば視覚に頼れるかそうでないかよ。だから夜に活動する人は視覚以外の働きを鍛えるのよ」

「確かに言われてみればそうだな」

「人間って感覚の八割を視覚に頼っているのよ。便利だけど防がれたらなかなか対処しづらいの」

「へぇ~」


 と会話も交えて森の中を進んでいくナージャとオルト。

 すると、


「…………!」

「ん? どうしたナージャ?」

「……だれかいる」

「は?」


 突如ナージャは歩みを止めて後ろあたりを眺める。

 その先は……夜のせいか真っ暗で何も見えないのだが……


「誰かいるって言われても……全然そんな感じがいないんだが……」

「あら、あんた犬のくせに全然わからないの? 犬のくせに」

「うるせえ、二度も言うんじゃねえ。なんでそんなのわかるってんだよ」


 ナージャは自らの背後が見えるように振り向き、そこにいるであろう何者かに呼びかける。


「そこに隠れているの、出てきなさい」


 ………………。

 しかし返事はない。

 返事どころか息をひそめる感じも慌てると言った動作の音すらも聞こえてこない。

 どう感じてもいないとしか思えない。


「……おい、本当にいるのかそいつ?」

「いるわよ。とびっきり隠れるのがうまいやつね」


 すると、ナージャはすぅっといったん息を吸っていると今度は一気に声を低くして、ドスの利いた声で言う。


「おい。こそこそとしてないで早く出てこいって言ってるでしょうが……」

「!?」


 まるで地獄の底にあるかのような、到底人間の女性のものとは思えない低い声に、明らかに動揺したのか、がさがさと何者かが動いたような物音がし出した。

 それもそのはず、彼女がかつて地獄にいたころ、悪さやふざけたりする部下に、眼光と声を使ってよく脅していたものである。

 横の地獄犬もほんの少し怖気が立ちつつ、呆れたように言う。


「おい、さっきから一気に態度変わってんじゃん。お前は後ろの誰かを取って喰う気か?」

「そんなわけないでしょ。敵かどうか、それすらわからないわ。だったら遠慮する必要がある……?」

「待て。だったらの使い方がおかしい。あと声」


 ドスの利いた声のままオルトと話していると、背後にいた何者かは、もう一度がさがさと慌てたような音を立てて、その直後足音と共にどこかへ去っていこうとした。

 先に気づいたオルトは慌ててナージャに言う。


「あ、おいナージャ! 後ろの何かが逃げるぞ!」

「ちっ! 出て来いって言ったのに何で逃げるのよ」

「当たり前だろ! 少しは考えて言え!!」


 正直、魔獣の森に踏み込んでから初めての手がかりなのかもしれない。

 こんな所でそれを逃してはならない、とナージャとオルトは逃げて行った何者かを追おうと走り出す姿勢を取る。


「いくわよ、オルト。はぐれるんじゃないわよ!」

「当り前だ! お前こそはぐれたりするんじゃねーぞ!」


 お互い心配とは程遠い様子で注意をすると夜の森であるにも関わらず逃げて行った何者かを追って行ったのだった。

逃げて行った者とは……

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