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1-1 情報収集

脱獄者を探す旅が始まったナージャは現在……

 喰いたい……

 喰らいたい……!

 喰らいつきたい……!!



 …………喰わせろ。



 ◇前回のあらすじ◇


 地獄…………現世で悪行を行ったものが落ちるところ。

 

 特に重い罪を持つものは『地獄監』と呼ばれる監獄に投獄される。

 その守りはとても堅く、普段から脱獄者を出さないこの監獄は現世の中でもそうそうないものであった。


 だがそれも絶対ではなかった。


 地獄史上初、地獄監から獄卒長と七人もの脱獄者が、地獄の技術を持ち出して現世へと逃げたのである。

 その上、地獄の住人は現世に干渉できないものとされ、そのせいで脱獄者は悠々と野放しにされていた。

 このままだと脱獄者は再び捕まることができないどころか、奪われた地獄の技術で生前とは比べ物にならないほど、現世が蹂躙されるのかと誰もが思った。


 しかし、地獄も黙ってばかりではなかった。


 地獄公的機関、死役所副所長兼地獄唯一の人間、その名はナージャ。

 彼女は多種多様の地獄の知恵を習得し、高い能力を買われて脱獄者を追う再処刑人となった。

 もっとも初めは嫌だ嫌だと言った彼女だが、なんだかんだで最終的には引き受けてくれたのだ。

 途中予想だにしないアクシデントはあったがひとまず彼女は相棒の地獄犬を連れて脱獄者の元へと向かったのだった。



          ◇



 そして、その地獄からの再処刑人、ナージャはと言うと……

 どこか質素な感じがする喫茶店にて……


「まずい。ここのコーヒーは焙煎の時点で駄目ね」


 コーヒーを片手に新聞を読んでいるのであった。

 ただし、コーヒーにはダメ出しである。


「おい。そういうことを言うんじゃねえよ」


 近くで座っている相棒の地獄犬。オルトことオルトロスが歯に衣着せぬ彼女を諌めた。

 が、彼女の態度は変わらない。


「率直に感想を言っただけよ。悪い?」

「いや……向こうのカウンターのおっさんがすごい顔で見てるぞ」


 オルトの言うおっさんとはこの喫茶店のマスターである。

 おっさんとは言ったがこの喫茶店はほんの少し前に開かれたばかりであり、そのせいか客足も少ない。

 つまり、このコーヒーはほんの少し前まで素人だったマスターが、頑張って勉強して、失敗して成功してようやく自信を持って淹れたコーヒーである。

 だがそんな自信満々のコーヒーを彼女はバッサリと切り捨てたのだ。

 マスターの人柄を知る人なら遠慮して言わないのだがそれを彼女ははっきりと言ったのだ。

 自分の淹れたコーヒーがまずいと言われたことにより、文句があるのか彼女を睨んだのだが……


「本当のことを言って何が悪いの?」

「…………!」


 彼女がかつて部下を怯ませた眼光で一睨みをすると、マスターは怖気づいてカウンターの向こうへと行ってしまった。

 ナージャはもうコーヒーには手を付けずに新聞を読み続けたのだった。



          ◇



 現在、ナージャが滞在しているのは“アルスス地方”と呼ばれる、豊かな緑と虫と獣が特徴的な所である。

 首都と呼ばれるところはあるが、基本田舎の村が数多くあり、その地方のほとんどの住民が自然とかかわる仕事をしているのである。

 動物狩り、植物採集、昆虫採集、酪農など。そこから派生すれば薬師や農業や衣服職人と数多くの職が存在する。

 基本的に資源が豊かで、領主もしっかりとした人であり、何一つ問題のない地方であったが、

 今現在、そうは言ってられない事態が起こっているのであった…………



          ◇



 そんなアルスス地方の小さな村の喫茶店で、ナージャは注文したコーヒーに手をつかずに新聞を読み続けていた。

 しばらく読み続けると彼女は不機嫌な顔になった。

 なぜなら……


「オルト。これを見て」

「あぁ? なんだ?」


 ナージャはオルトにも見えるよう新聞を向けて、気になっていたところを指差した。

 彼女は指差したところを朗読する。


「『マッド・シスカー……美食の都のとある料理店にてまたしても食い逃げをする。これでもう通算六十七店目である』」

「は?」


 シスカー……

 ナージャやオルトには聞き覚えのある名前であった。

 二十年前、実際その者と戦い、敗れたのである。

 かつて自分たちを負かしたそいつは、新聞に載るほどの事をしたようでありそこから聞こえてきた情報の内容にオルトは間の抜けた声を上げた。

 彼女は続ける。


「『マッド・シスカー……世界有数の宝石店にて合計約二十億にも相当する宝石を盗む』」

「おいおい……シスカーってあいつのことだよなぁ。なにやってるんだよ……」


 オルトはナージャが朗読した文章を聞いて呆れた。

 確かあの時シスカーは彼女に向かって自由と言った。

 だとしてもこれは許されることではない。自由とは悪事を行っても平気という事ではないのだ。

 と言うか……


「っつーかなんだよ『マッド・シスカー』って。あいつの名前はシスカー・ベルベーニュじゃなかったっけかぁ?」

「どうも文章からして誰かが呼び始めたものが広まったらしいよ。まあ確かに間違ってはいない…………!?」

「ん? どうした?」


 だが、次に読まれる記事はオルトにとってもナージャにとっても予想外であった。

 ナージャは次の記事に驚きつつも間違えずに読み上げた。


「…………『マッド・シスカー……貧富の差が激しい都市『リープアー』の貧民街スラムで約二十億もの貨幣を町中にばらまいた』」

「は? 二十億って確か……」

「まだあるわ。『一級指名手配に指定された大規模な盗賊団が東の町にて人質立てこもり事件を起こした。しかしそこに突如現れたマッド・シスカーの手により、盗賊団を見事全員を倒し、保安所へ引き渡した』」

「なに!?」

「『その際、彼が行った手際はあまりにも鮮やかであり、人質に一切危害を加えられてないどころか、盗賊団に致命傷を負わせることなく打倒した』ですって……」

「……おいおい、あいつ本当に何をやっているんだよ」


 先ほどとは全く違う記事を読んで彼女は軽く額に手を当てた。

 それは呆然とした様子であった。

 ちなみにシスカーの事を“彼”と呼んでいるが他の新聞では“彼女”と呼んでいる。

 人称がうまく定まらないのである。


「『ここ十数年世界中を騒がせているマッド・シスカーですが誰も彼の正体を知る者はいない。男なのか女なのかその時点で不明であり、実は某国の王族なのか、実は天才と呼ばれた科学者なのか、さらには魔王の子供ないし神の子供なのかと様々な憶測が飛んでいます』と……」

「最後は絶対にないだろ」

「『我々はマッド・シスカーの正体については何も知らないのでありますが、世界の至る所から彼に対して侮蔑や遺恨の声が、それとは逆に感謝の声も数多くあるようです。我々は彼をどう評価すればいいか判断に悩みますが、今度は地図に載らない未開の地で何かをやらかしてしまうのではないでしょうか』と……」


 ナージャは一度新聞から目を離すと深く深くため息をついた。

 その様子は……すこし苛ついている。


「……こうも大胆に挑発するとはね。腹立たしいわ」

「なに? 挑発だと?」

「ええ、そうよ」


 ナージャはもう一度記事を見つつ、かつて自分と戦った敵のことを推測して言った。


「おそらくあいつはここへ戻ってきた私に対して、自分はこうしているよと言う挑発をこんな大々的なやり方で見せつけている」

「おいおい、それは考え過ぎじゃねーのか?」


 つまりシスカーはいずれ現世へ再び戻ってきたナージャ相手にわざわざ目立つようなことをしているという事である。

 新聞に載るほど目立つ行動をすればいずれ目をつけるだろうと。


「でも現にあいつはこんな新聞に載るようなこと続けてやってる」

「はぁ……あの野郎がねぇ……」

「あいつ……もしかしたらとんでもない気分屋なのかもしれないね」

「あ、ああ……」


 心なしか彼女の新聞を持つ手に力が入っている。

 するとナージャはパンツのポケットから携帯電話を取出し、地獄にいる上司に繋げた。


「もしもし。所長、聞こえますか?」

『ああ? どうしたナージャ』


 突然話しかけてきたにもかかわらずすぐに出てきた所長。

 音量からオルトにも聞こえるようであり、ナージャは安心して話を切り出す。


「シスカー・ベルベーニュについて、教えていただけませんか?」

『…………なに?』

「どのような人間でどのような罪を犯して地獄へ落ちたか説明してほしいのです」

『突然だな。なぜ今になってそれを言う?』

「新聞にあいつのことが書いてありましたから、そう言えばあいつってどういう人なのかと気になり出しましたので」

『……そうか。そうだな……』


 突然のことながらも所長は驚かずに冷静にシスカーの事について話し出した。

 横にいるオルトも電話の声に集中する。


『地獄監最深層S級咎人、シスカー・ベルベーニュ。種族は人間、現世番号八番界、死亡年齢は十八、性別は不明だ』


 種族は人間だと言うのは分かるとして……

 現世番号とは現世に数ある世界の事を番号で振り分けており、その中でも八番界とは他の世界と比べてそこそこ技術が発達した、特に際立った特徴のない人間のみの世界のこと。

 死亡年齢は見た目より歳が上であり少し意外だ。

 と、ここまではまだいいとナージャはそう思ったのだが……


「性別不明……なんでですか?」

『いや、奴は現世にいた際も地獄へ落ちた際も自分を偽ってばかりでなかなか本性を出さなくてな……』

「…………」


 ……公的機関でさえ知らないのかよ。

 ナージャは心の中でなぜか理不尽にそう思った。

 横でオルトも沈黙しているが同じことを思っているのだろう。


『お前にとっては信じられないかもしれないが……現世にいたころ、奴は文武両道、質実剛健、才色兼備、智勇兼備、とされていてその上厚い人望まであったそうだ。陳腐だが、まさに天才と呼ばれるのにふさわしい人間だった』

「へぇ……あいつがですが……」


 電話で上司の言葉を聞くも、彼女にとってはすぐに信じられないことであった。

 どう考えても二十年前に会ったあいつからはそう感じられないからだ。

 今さっき読んだ新聞の内容からして有能であることは認めるが、どうもそんな素晴らしい人間には見えない。

 が、黙って上司の話を最後まで聞くナージャに所長は続ける。


『事実、記録だと奴は幼少のころからずば抜けて頭がよく、まだ十にも満たない年齢で十代後半の者と同じ学び舎で勉強をしていたほどだ』

「…………」

『十を迎えるころにはもう大人たちに紛れて仕事をしていたな』


 あんな頭のおかしい言動のどこに…………

 彼女はいちいち二十年前の事を思い浮かべて言うが黙って聴く。


『学問においても運動においても、どの分野でも大人ですら太刀打ちできない成果を出し、それだけではなく他人に妬まれるようなことなどないうまい立ち回りから、奴は本当に……』

「……所長。あいつが有能なのはわかりましたから罪状とか教えてください」


 いい加減自慢話的なものは聞きたくないのかナージャは早々に、もう一つ知りたいことを切り出した。

 心なしか、何かを思い出すような動作をしてはまた苛立っている。


『……まったく、お前はもう少し人の話を最後まで聞いたらどうだ』


 電話からは上司の呆れ声が聞こえてくる。

 にも関わらずナージャはバッサリと切り捨てる。


「どんな人間であれ、所詮は犯罪者には変わりがないのですから」

『……そうか。だったらすぐに本題を出すが…………』


 所長はほんの少しだけ言葉を詰まらせると、慎重に内容を話しだした。


『……ナージャ。お前、現世史には詳しいはずだったな』

「え? そうですけど、それがいったい何が…………」

『“灰の国事件”。知っているか?』

「!?」


 灰の国事件。

 現世史の問題の中ではかなり有名な話だ。

 ナージャが地獄にいた頃、先ほど所長が話した八番界のある国に起きた事件だ。

 場所はある小さな内陸の国で、総統領や下町などの国中すべてに仕掛けられた爆弾が一斉に爆発してしまうという、恐るべき出来事だ。

 爆弾の数は優に一万を超え、建物も人間も全てを飲み込んだ結果、生存者は一人もおらず、突如国は滅ぼされた。

 文字通り国そのものが灰と化したと言う恐ろしい事件だ。


『あの事件のせいで天界側も、一気に多くの人間の魂を管理しなきゃならなかった。いろいろと混乱することにもなったのだ』

「ですけど所長、あの事件の犯人ってたしか……」


 しかしなぜか事件後に犯人が自ら出頭したらしく、動機も名前も明かされないまま処刑されたのだが……


「犯人がなにをしたかったのか全く意味の解らない事件でしたわね」

『そうだ。無差別に人を殺し、国を滅ぼし、その結果世界中どころか現世史にも大きく名を遺したこの事件。それをたったひとりで、それも未然に防がれるどころか誰にも気づかされずに実行した天才がいた』

「ということは……」


 上司の言葉からこの先なにが言いたいのか察した。

 おそるおそる名前を聴く。


『そうだ。その犯人がシスカー・ベルベーニュだ』

「…………!」


 多少予想はしつつも彼女は驚きを隠しきれなかった。

 初めにこの事件のことを聞いたときは、犯人の正気を疑うようなことばかり思っていた。

 だがまさかここで犯人の名前を聴くとは思わなかったが……


『実際このことを知っているのはほんのごくわずかだ。理由は簡単なことに、信じられない、だ』

「…………」


 普段善人と思われた人間がこのようなことをするとはとても思えない。

 そういった考えが、さらに大きな規模で起こってしまったのだ。

 もっともナージャにとって人間だった頃のシスカーは知ることがないゆえ、あまりそんな気はしないのだが、電話越しに聴く上司の声からはそうでもない。


『……結局、奴は何をやりたかったのか全く分からず速やかに裁判を済ませ、密かにあいつは処刑された』

「…………」


 無差別テロ。

 思った以上に罪状が重く、今新聞で読んでいる出来事の比ではない。

 本当にあいつはいろいろとやっていることが矛盾しすぎているとナージャは思う。

 ナージャは少しの間沈黙すると、上司から知ったシスカーの事について結論を出す。


「……所長、シスカーの事は大体わかりました。要するに奴は相当頭がおかしい人なのですね」

『……直球だな。だが、危険な奴であることに変わりない。気を引き締めていけ』

「はい。それともうひとつ、別の事で問題があるのですが……」

『なんだ? 気になるところがあるのか?』

「え? おいおいそんなものがあるのか?」


 と、シスカーのことは一旦区切りをつけてナージャはもうひとつ疑念があることを話した。

 上司とオルトがまだ何かあるのかと疑問したところで、再びナージャはオルトの前に新聞をさし出す。


「オルト。これをちょっと見て」

「ん? なんだ?」


 ナージャはひとまず携帯電話をテーブルに置いてオルトも新聞を見せると、気になった記事のところを朗読した。


「ここよここ。『アルスス地方の危険地域に指定された“魔獣の森”は有名ですが、十五年前からその周辺で生活をしている数々の村の住人が行方不明の件について』ですって」

「なに?」


 魔獣の森。

 名前の通り魔獣と呼ばれる危険な生物が生息する森であり、一般人は立ち入り禁止区域となっておる。

 というのも魔獣とは種類は様々だが皆共通して“魔の力”を内側に宿しているのである。

 人間以上の知能を持つ者や、不可思議な現象を引き起こす者など、強力な個体が多い。

 が、そんな危険な森を監視し生業とする村もあるのだが……


「昔の話だけど『実際、事件が起きた後日、村自体は襲われた形跡がないのだが、それなのに人一人見当たらないのはどういう事か。誘拐にしては規模が大きすぎるし、略奪にしては綺麗すぎる。これはもしや住民全員が一斉に何らかの形で消失したという事になるでしょう』と書いているわ」


 ご丁寧に事件当日の事も書いている記事を読みつつ、ナージャは現在の部分を再び読みだす。


「『この謎の事件から約十五年、領主が派遣した調査員はいまだに帰っておらず、腕利きの傭兵を雇うも一向に成果が出ないとされている』と」

「…………!」

「『村人の生死は分からないが、いくらなんでも一斉に消えたことであるため魔獣が襲ってきたことは考えにくい。事件はいまだ謎のままである』と……」


 ……新聞の内容は最近の物であるが事件自体はかなり前から続いている。

 そしてそれは今でも謎のまま続いているということだ。

 ナージャは一通り記事を読み終えるとオルトは彼女が何を言いたいのか先に訊きだした。


「ナージャ。お前つまり……」

「ええ、脱獄者やつらのうち誰かがやらかしたことかもしれない」

「おいおい、それはまだ早計じゃないのか?」

「……確かに十五年前は微妙な数字だけど考えられないわけないじゃない」

「いや、それは……」


 そう、確かにナージャがシスカーに敗れ、封印されてから再び現世に戻るのにかかった年数に近いのである。

 これはどう考えてもその間に脱獄者の内の誰かがやらかしたことなのだろうと彼女は推測する。

 新聞を畳み、再びテーブル上の携帯電話を取って上司にも意見を訊く。


「所長、どう思いますか」

『……え? ああ、確かにそれはおかしい話だ……うん……』

「……所長、まさか聞いていなかったのですか?」


 なぜかどもっている上司の声にナージャは疑いの声を投げる。


『バカ言え、ちゃんと聞いている。安心しろ。たとえ片思いだろうが一途の恋ほど美しいものはない。お前が威圧感……』

「……切りますよ」


 ナージャは上司にも容赦なく切り捨てるように言うと、観念したのか謝罪の言葉が返ってきた。


『……すまん。もう一回言ってくれ』


 所長は、先ほどの暴言じゃなく聞いていなかった話についてもう一回説明を求めた。

 少々イラッと来たがここは我慢してもう一度先ほどの事を話す。


『……なるほど、まだ情報は足りないが奴らの仕業と考えてもおかしくはないだろう』


 話を聞きつつも彼女はタッチパネル式の携帯を操作した。

 すると、携帯電話から、サングラスをかけた厳つい顔のラクシャーサが表示され、それを自分とオルトに見えるように置いて、会話を続けた。

 なお、端からその様子を眺めている人はみんなして不思議なものを見るような目で見ている。


『人間の消失、となるとそれが可能な地獄の技術は確かに存在する。しかし、この時点で決めつけるにはあまりにも早計だ』

「では、調べてみる価値はあると?」

『そうだな、まずはその村とやらに行った方がいいだろう』

「そうですか、わかりました」

『引き続き、なにかあったら連絡してくれ』

「…………………」


 オルトが沈黙するなか、ナージャは携帯電話を切りポケットにしまった。

 未だにオルトはその『ケイタイデンワ』といいう物の仕組みがよくわかっていない。

 そんな気も知らずナージャはオルトに脱獄者について様子を訊いた。


「オルト。やつらの臭いは?」

「ああ……確かに最初よりはかなり近づいていることに違いはないが……」

「なら決まりね」


 そう言うと彼女はテーブルの上のカップを取り、もうすでに冷めてしまったコーヒーの残りを一気に飲み干した。

 オルトにはほんの少し意外に見えた。


「さ、いくわよ」

「おい、もう行くのか? もう少しゆっくりすればいいだろ」

「そんな悠長にしてられないわよ。ほら、とっとと行く」

「ちぇ……」


 オルトはしぶしぶつき従い、勘定を支払ったのち例の村へと直行した。

 なお、この後マスターは悔しく思いながらもまたコーヒー作りに力を入れるのだった。

手掛かりを求め、向かう。

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