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0-3 再任務

シスカーに敗れたナージャ。これに対し地獄は……

 現世でナージャが封印され、シスカーの手によって火山の火口に捨てられてからしばらくして、

 折角の地獄唯一の再処刑人が開始早々に脱獄者に負けてしまったことが、すぐに地獄中にも広がった。

 無論、彼女を選んだ上司、ラクシャーサは早々に十王によばれ、会談の席で肩身が狭い思いをしていた。


「なんということだ! あの女は現世について早々、よりにもよって咎人の一人に負けてしまったではないか!」

「ラクシャーサ! 貴様を信じて判断を任せたと言うのに、なんてざまだ!」

「…………」


 十王の怒りにラクシャーサは何も言えずにただ沈黙ばかりしている。

 いくら予想外の事態とはいえ、部下が脱獄者と戦って敗けたことに嘘はないのだ。

 その結果、脱獄者たちはますます地獄に対して警戒してしまい、こちらとしても穏便に脱獄者を捉える手段を無くしてしまったのだ。

 いろいろと問題が生じてしまったこの出来事に十王は言葉を荒げ続けるが……


「まあまあ、そうカッとせずに落ち着かれよ」

変成へんじょう! 貴様はなぜそうも冷静なのだ!」

「確かに彼女が敗けたことは事実だけど、いろいろと運の悪い要素が重なってそうなっただけでしょう? むしろ問題なのはここからだ」


 十王の中でも比較的冷静な変成王は、真っ直ぐにラクシャーサの顔を見て問う。


「それで? こうなってしまった以上君はどうして欲しいの?」

「それは……」

「彼女に施された封印、更には傷ついた義体と魂の治療、かかる時間は数年……いや、下手をすれば十年は超えるよ。その間に脱獄者たちを野放しにするの?」

「…………」


 確かに、変成王の言っていることは的確だ。

 ある経由で彼女を取り戻したのはいいが、なぜか止めを刺された様子はなく封印状態にされた。

 だがそれがなおの事ラクシャーサに迷いを生じさせる。


「こうなれば咎人たちに条件付きでやらせてもらうか……」

「……それは不可能に近いです」


 裏手段として、地獄の問題ごとに条件付きで咎人を使う事がある。

 しかしこの方法はあまり薦めることはできない。

 なぜなら……


「奴らが奪って行った地獄の技術。あれに対抗できるのは彼女以外の他には不可能です」

「そうだね。だからこそ君は彼女を選んだ。だけどいきなり当たったのがよりにもよって『魂削たまけずりの宝玉』。だからこそ、こんな事態になった」

「でしたら……」

「だからこそ、今度は我々が出向くしかないでしょう」

「!? お待ちください!」


 ラクシャーサはここにきてもっとも聴きたくない言葉が聞こえた。

 とうとう地獄の鬼たちが現世へ介入すると言ってきたのだ。

 それは最終手段であり、絶対に起こってほしくはないことだ。


「どうかお願いします! もう一度……もう一度彼女にチャンスを与えてください!」


 ラクシャーサは必死に頭を下げて地獄を統べる王たちに好機を与えてもらおうとした。

 だが、気の弱そうな喋りをする秦広王しんこうおうは言う。


「うーん……ラクシャーサはそう言っているが……」


 無表情で冷たそうに初江王しょこうおうは言う。


「いかんせん、いくら彼女が特別だからとはいえ、そこまでは見てやれん」


 嘲るような視線を隠さずに宋帝王そうたいおうは言う。


「第一、いくら相性が悪いとはいえ…………負けたことに変わりはないのでしょう?」


 先を見据えた目で心配する五官王ごかんのうは言う。


「いずれ闘う相手だが、同じことをして大丈夫なのかね?」


 あくまで冷静に、憤りを交えた声で閻魔王えんまおうは言う。


「彼女をもう一度動かすのに何年かかると言うのだ!」


 ラクシャーサを見計らうように変成王へんじょうおうは言う。


「このあいだに脱獄者が何もしないと言う保証はないねえ」


 少ない言葉数で泰山王たいせんのうは言う。


「不安要素、多い」


 荒い口調で威圧するように平等王びょうどうおうは言う。


「それでも、お前は自らが責を追う事を覚悟して言えるのってか?」


 耳障りな高い声で挑発するように都市王としおうは言う。


「そうそう! お前は彼女を信じるのかい!? ねえ!?」

「………………!」


 十王たちの言葉攻めにラクシャーサはもうだめかとやや諦観しかけた時、


「おぬしら、少しは黙っておれい」

「!?」

「!?」

「!」


 十王たちの中で先ほどから一言も喋っていない王がここにきて厳かな声で話し出した。

 十王の一人がその王の名を呟く。


五道転輪ごどうてんりん…………」


 威圧感を含めた五道転輪王ごどうてんりんのうの言葉に周りは静かになった。

 改めて五道転輪王ごどうてんりんのうは言う。


「ラクシャーサよ。こやつら他の王が言うように再び彼女を使うにはいろいろと都合が悪すぎる」

「……それは……解っております」

「ならばここからは強硬手段として鬼を現世へ向かわせることになるが……」

「……それだけはどうかお待ちください」


 だが、いくら地獄を統べる王相手にでも、これだけは譲れない。

 確固とした様子でラクシャーサは理由を述べる。


「鬼は……現世に対し、無為に悪影響を及ぼす存在なのです。霊的な場に霊が集まるように、地獄の住人である鬼が、ただそこにいるだけで周囲に何らかの影響を与えるほどに、現世と地獄は根本的に環境が違うのです」


 地獄犬のような過小な魂の場合は別だが鬼とは格段に違う。

 ラクシャーサはそれが理由で地獄の住人を現世へ向かわせることをためらっているが、唯一例外がある。

 それが自分の部下であるナージャのことだ。


 地獄で生きてきたとはいえ、根本的に魂は人間であるため、義体に特殊な仕様をすればそれだけで現世になじむことは可能なのだ。

 それが、ラクシャーサが彼女を選んだ理由である。

 だが……


「お願いします! どうか……どうか彼女にもう一度チャンスを……!」


 そんな消極的な理由だけではない。

 ラクシャーサはなにか、ある強い理由を持って部下を推している。

 その必死な様子に十王は決断する。


「………………」


 その答えは…………








 ◇二十年後◇


 一度、現世で脱獄者の一人に敗れ、封印されてから二十年のこと。

 場所は現世のある世界のある火山の付近のこと……


「か、帰ってきたぞ……」

「一時はどうなることか……」


 二十年前と大して姿の変わらない、ある一人の女と一匹の犬が変わらない格好でそこに立っていた。

 ただ一つ、違っていたのは……


「まったく、俺用の武器があるのならもっと早く出しておけばよかったのに」

「まったくね。本当に間が悪い」


 犬の方、その首の部分に不思議な金色を放つ首輪がつけられていた。


「『魂喰たまぐらいの首輪』。身に着けたものは魂を食らうことができるとされ、魂を食らうと自らの魂を増幅することができる、と……」

「脱獄者に対するもう一つの武器だな」


 あの時の敗因は……いろいろとはあったけど、オルトとの連携不足も原因の一つである。

 もう少しうまく活用すればよかった。と、

 ナージャはパンツのポケットから、また新しい携帯電話を出した。

 タッチパネル式である。


「しかし……二十年とはずいぶんとかかりましたね」

『まったくだ。再生自体はそうかからなかったが封印の解除が最も手間取ったからな』


 その気になれば直接電話に上司の顔が写せるのだが、それが嫌なナージャは基本的に耳に当てて会話をする。


「その上、あいつ俺たちを封印されたまま火口へポイ捨てしやがったんだ」

「まあ、それが一番時間をかけてしまった理由ね」


 あの時、ナージャとオルトは封印された状態で火口へ捨てられてしまったが、実はそこが地獄への隠し口なのである。

 つまり、ナージャ達は一度地獄へと帰ってしまい、そこで封印の解除や義体の修復、さらには対脱獄者用の特訓などを行ったのである。

 しかし、結構な時間をかけてしまったため、結局二十年という長い歳月をかけてしまったのである。


『奴らによって出鼻をくじかれてしまったが、まだ遅くはない』

「所長、今回ばかりは言い訳はできません。私が負けたせいで奴らに時間を与えてしまいました」

『ナージャ……』

「もっと所長の話を……聞くべきでした」


 ナージャは珍しく申し訳ない気持ちであった。

 いくら普段から高圧的な態度の彼女もこればっかりは自分の責任だと思っていた。


「たしかに、二十年も時間があれば大事件の一つや二つ、おかしくない」

「しかし、もう一度現世へ再び降りた以上、今度は負けるつもりはありません」


 彼女は電話を持ってない方の手で鞄を持ち、それを後ろへかけると……


「あいつらを……地獄へ落としてやります」

『……そうか』


 彼女は決意したそう言ったのであった。


『今度こそ成功させろ』

「もちろんです」


 ピッ! とナージャは通話を切ったのだった。

 そして、ふと気が付く


「……なんだか、二十年前の私が見たらどう思うだろうか……」

「?」


 二十年前の彼女は正直、この任務は乗り気ではなかった。

 それどころかクビになると脅されても構わないほどであった。

 しかし、今は違う。


「あいつ……私の両脚を斬ったことを後悔させてやるわ」

「ああそうだ。俺だって封印されたことを忘れちゃいねえ」


 それは、もはや完全に私情で任務を行うのであった。


「オルト。ここから一番近い脱獄者やつはどこにいる?」

「そうだな。遠すぎると精度は曖昧になるが……」


 オルトは自前の鼻を動かし、あたりを嗅いでみると、ある方向へ頭を向けた。

 そこは地平線のみで何も見えないのだが……


「あっちの方向でここから約四千キロメートルにいるな」

「四千……キロメートル?」


 オルトの言葉に彼女は信じられない様子であった。


「四千メートルの間違いじゃないの?」

「それだと普通に四キロだろーが。四千キロだ四千キロ」

「……さすがは現世で一番広い世界ね……」


 と、げんなりした様子でそういうのであった。

 こんな苦労が長く続くのだろうか、と……


「ナージャ。あまり我儘なことを言うな。ただでさえ出遅れてしまったんだから……」

「そうね…………」


 オルトの一言に気を取り直し、先ほど示した方向へと足を向けた。

 それでもやるしかない。

 後戻りはできないしするつもりもない。

 ただ、次へ進むのみである。


「待ってなさいシスカー。今度は強くなった私達で……」


 そして彼女は、かつて自分を負かした相手の名前を呼び……


「報復させてもらう」


 そう宣言するのであった。



          ◇



 地獄……それは現世に悪業をなした者がその報いとして死後に苦果を受ける所……

 その中でも最も重い罪を背負った七人が地獄の技術を奪い、現世へと脱獄した。




 あるものは……他者とは比べ物にならないある感情を持つ者……


「ねえ、お願い。今日は私が……」

「ちょっと! 今日はあたしだよね!」

「いや! 今日はボクがやるの!」

「ほらほら落ち着いて。大丈夫だよ。みんな平等にだから、ね。焦らないで」

「「「は~い!」」」




 あるものは……貪欲にむさぼり喰らう者……


「や……やめてくれ……! まだ死にたくない……!」

「死ぬ? 違うな。お前は俺の中で生き続けるんだ」

「やめ……!」

「光栄に思え!」

「ぐぎゃああああああああああああああああああああッッッ!!」




 あるものは……心を惑わす者……


「ヘェ~イ! 今日は~! ミーの~! ライブに来て~! ありがと~!!」

「「「ヘーイ!」」」

「さて今日も唱えるぜ!! リゲイル様―――!!」

「「「リゲイル様―――――!!」」」

「最高―――――――!!」

「「「最高――――――――!!!」」」




 あるものは……可能性を潰す者……


「ねぇ、私のおねがい……もっと……聴いてくれる?」

「は、はい……! 喜んで!」 

「うふふ……いい子ね。……ありがとう」

「あぁ…………!」




 あるものは……不幸をまき散らす者……


「逃げろ……エリィ…………!」

「やめて……やめてよぉ!」

「知る事か」

「が……ぁ…………!?」

「いや……いやああああああああああああああああああああっっ!?」




 あるものは……強者を求める者……


「お前……この闘技場のルール。わかってきているのか?」

「問題ない。儂はそれをわかってここまでやってきた」

「そうか。ここは法から外れた、金持ちの為だけの娯楽場だ。死傷者が出てきても問題がないとされる。だから思いっきり殺しあってこい!」

「ああ………!」




 そしてあるものは……


「ヒハハハハ。サラ」

「…………」

「そろそろあいつがこの世界へ帰ってくるころだよ」

「…………(コクン)」

「ヒハハ! せいぜい頑張ってくれよ」


 ……目的を持ち、行動する者。


「再処刑人と脱獄者……鬼ごっこの始まりだね……!」

「…………」




 地獄の再処刑人、ナージャが与えられた特命は以下の内容である。


・地獄監から脱走した七人のS級咎人を一人残らず魂を肉体から離す……もとい再処刑すること。

・また、脱走する手助けをした共犯者達も同等に扱うこと。

・奴らが持ち去っていった地獄の技術を全て回収すること。

・任務を受けるのは唯一の人間である貴殿と補佐を務める地獄犬の一匹のみとする。

・また、天界からの助けはなしとし、自力で任務を遂行すること。

・現世の人間に対し、地獄に関することは秘匿とすること。

・原則として現世の人間に対し、一定量を超えた危害を加えないこと。

・なお、これらの項目を果たせなかった場合、強制的に地獄へ帰還し、あとのことは強硬手段とする。


 ……これはあまりにも厳しい条件であり、なおかつ成功率はゼロに近い。

 だが、他に強硬手段以外の方法はない以上、必ずやり遂げなければならない。

 そう、彼女にはもう選択肢と呼ばれるものはないのであった。


 かくして、

 地獄唯一の人間である再処刑人と、共犯者を含む脱獄者たち九人との……

 誰にも知られることのない戦いが始まったのであった


と、いうわけで更新は安定しませんがどうかよろしくお願いします。

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