2-8 逃亡
ナージャとパウルが対面するが……
あれほど騒がしかった戦乱の気配は静まり、破壊の音はしなくなった。
陽光街の街中、ナージャは街道から離れた路地裏にて、二つに折れた半透明の綺麗な花を片手に、誰も見ない暗い道の中を陰鬱に立ち尽くしている。
その上、左手はわき腹を押さえつけており、そこからは赤い液体が滲み出て目立ってはいないが黒のスーツを汚している。
ナージャは苦悶にゆがめた表情で忌々しく口を開く。
「ちっ! 借りた仕事着なのに台無しじゃない……」
しかし、痛みにうめくことはなく、むしろ服が汚れたことに舌打ちをした。
鈍いのか無頓着なのか、今さら痛みなどどうでもよい様子だ。
だが、それとは別にナージャは理解不能な様子で手に持った手折れた花を見つめる。
「けど、さっきのあれ…どういう事?」
ナージャはつい先ほど起きた事態に対して、考察をする。
先ほどパウルがナージャに懇願したあの時のことだ。
◇
「見逃してくれ、ですって? 何をふざけたことを言ってるの?」
ナージャはパウルの言葉を聴いた瞬間、不快感と意味の不明さが合い、その内情を静かに激しくたぎらせた。
命乞いを聞いてしまうとは思いも知らなかったが、それだけはナージャにとって聞きたくない言葉だったからだ。
しかし、それでもパウルの真剣な表情は変わらない。
「……ふざけてない。僕は至って真面目に話し合うつもりでここに来た」
パウルは下げた頭をゆっくりとあげて静かなたたずまいで視線を交わす。
今の彼は戦闘の態勢ではない。本気で話し合うつもりのようだ。
「その時点でふざけているのよ。話し合いですって? 脱獄者にそんなものは必要ないわ」
しかし、そんなことは最初からあり得ないらしく、問答無用に彼女は戦う気だ。
ナージャの足が一歩、パウルの元へと近づく。
動揺の色が浮かび上がるも、パウルの説得は続く。
「……僕は確かに地獄から逃げた。けど、僕はもう生前のことも含めて罪を犯さないと誓う!」
「あんた視点じゃ信用できないし、そもそも脱獄自体が犯罪よ。寝ぼけたことを言わないで」
「…………!」
生前とは、パウルが地獄に落ちる前に犯した罪のことだろう。
パウルの言葉に偽りは感じられない。切実な様子で懇願をしている。
それなのに、まったく減速することなく足はパウルの方へと進む。
ナージャの瞳に微塵の躊躇いもない。
「……時間をくれないか。僕には決して、そのままにできない人たちが沢山いるんだ」
「なおさら知ったことじゃない。今ここでやらないと、何をするかわかったものじゃないからね」
慈悲など必要ない。容赦など役にたたない。
黒化した左手を前に出し、迷い無く歩を進める。
それでもパウルは手を出したりはせずに、願いだけを口にする。
「僕自身、ここと別れるには準備がいる。その時がくるまでどうか……!」
「…………」
その時、ナージャの足がパウルの目の前で止まり、沈黙の表情を浮かべて
少々以外に思ってしまうパウルだが、淡々とナージャは言葉を続けり。
「確かに、あんた自身から悪意は感じられないわ。ならばその言葉も、偽りには思えなさそうね」
「…………ならば、」
「けどね」
パウルの言葉を遮ったと同時に……
ナージャの黒化した左手がパウルの左胸を貫いた。
パウルの自身の背中に赤く黒い鮮血が花のように咲いた。
「…………がはっ!?」
「そこまで待つ義理なんかない」
人間で言う心臓にあたる部分を貫かれ、パウルの口から鮮血が吐き出された。
しかしまだだ。不老不死の体をもつ脱獄者には、身体の動きがしばらく止まれど、致死までは通用しない。
血を流しつつも、必死に口を動かして、言葉を紡いでいく。
「……どう、しても…………僕を…………ごふっ! ……殺、す……か…………?」
「初めからそうと言っているのよ」
「…………!?」
パウルはナージャの言葉を確信する。
彼女の瞳には一切の躊躇いはない。
この瞬間からパウルは、ナージャに情け容赦などないことを理解した。
ダメ元ではあったがやはり話し合いは不可能だった。
さすがに会って早々にそれは無いと信じていたがこれじゃあどうにもならない。
パウルが傷を負いながらも考えを改めたその時……
「やめるで御座る!」
後ろから来る謎の声。
そして、
「っ!?」
後ろから飛んできた何かは、ナージャのわき腹を貫いた。
ナージャの脇腹からジワリと赤い液体がしみだしてくる。
黒いスーツが目立たぬうちに汚れていく。
「……!?」
不意の一撃をくらわされたナージャは、若干眉を動かしつつ、攻撃の元である後ろの方へと振り向く。
振り向いた先には、三人もの女性や少女が駆けつけてきた。
「パ……パウル様!? いったいどうされたのでありますの!?」
「パウル殿! その者はいったい何者であるか!」
「ロッキー! しっかりして!!」
「…………」
駆けつけてきたのは、三人とも特徴的な容姿と恰好の女たちだ。
どいつも傷ついたパウルを見て冷静じゃない表情でこちらへと向かっている。
(またパウルの寵愛者か。ちっ……これじゃ分が悪いわね)
ナージャは内心、悪態をついた。
痛む脇腹を見ると、そこには光る矢のようなものに貫かれている。
今駆けつけている女たちの誰かが放ったものなのだろう。
(オルトの事もそろそろ終わる頃だわ。勘に触るけどここらで一旦引…………)
その時、自分の左手に違和感が、
「…………え?」
ナージャは、パウルを貫いたはずの左手になにか違和感を覚え、思考を振り切ってそちらへと視線を移した。
そこには、胸部を貫かれて苦しそうに血を流していたはずのパウルが……
「…………!?」
どこにもいなかった。
姿どころではない。血の一滴、肉の一片さえもきれいに消えていた。
その代わり、彼女の手には手折れた透明の綺麗な花が握られている。
「!?」
考えごとをしている最中に向こうが動いてどこかへと瞬間的に動いた。
そう考えるのが妥当であるが、そう簡単に相手の動きを見逃すはずもなければ、そうせざるを得ないほど深く考えていたわけでもない。
しかし、時間はそんな彼女の思考を許したりはしない。
「ああ、パウル様は無事のようですわ! でしたら……!」
「そこの御仁、待たれよ! 貴様、いかな理由があってパウル殿に……!?」
「よくもロッキーを!」
しかもなぜか自分の主が姿を消しただけなのに、それを無事と確信し、ナージャの追撃に当たった。
いくらなんでもおかしすぎる。いろいろと意味不明な点が数多くあるが……
「……まずは逃げる事よ」
疑問をさておいて、ナージャは痛む脇腹を苦とも思わず、すぐに逃走経路へと進行を切り替えた。
金棒を仕舞い、左手をもとに戻し、ナージャは惜しくも悔しそうに顔をゆがめつつ、すぐに次の動きを考えて逃走を続けるのだった。
◇
そんなことがあって現在に至る。
傷自体はそう深くはないため、脇腹の傷はもう完全に塞がっており、赤く染まったシャツはもうこれ以上広がることはない。
しばし考えごとをし続けたのだが、不意に後ろから声を掛けられる。
「おい、ナージャ。そこにいたのか」
「オルト……」
警戒は一応していたため、大して驚いたりはせずにナージャは振り向いた。
路地裏の暗闇の中かからゆっくりと意識のない少女を乗せた犬が、ゆっくりと現れたのだ。
しかし、別れる前とは違っていてオルトの体中に切り傷のようなものがある。
心なしかオルトの顔が少しだけぶすっとしている。
「どうしたのよ怪我なんかして。それにその子も大丈夫なの?」
「問題ねえ。リュナの方は気絶しているだけだ。それよりそっちこそどうした。怪我してんじゃねえか」
「問題ないわ。もう傷は塞がった。パウルにも直に会ったわ」
予想外の形ではあったが、パウルに直に会うことはできた。
説得などという予想とは違ったことだったが、結局決別することになった。
「そうか。けどその様子じゃ……」
オルトもナージャの脇腹の色を見て察する。
だからこそ、深くは訊いたりはしなかった。ナージャも余計なことは言わずに話を進める。
「けど、大体だけどあいつの人柄は理解した。あとは、所長から残りの情報を訊くだけよ」
ナージャはポケットから携帯電話を取り出して画面を起動させる。
画面には見覚えのない不在着信を見て、不可解そうに眉をひそめる。
「…………」
「ナージャ?」
あの時、戦場の真っただ中で意味不明に着信音が鳴り響いた携帯電話。
所長からではなく正体不明の非通知。それが幻聴ではないことを不在着信の履歴が暗に語っている。
もう一つの意味で理解できないことだが、考えても仕方がないのですぐに例の上司へと番号を押して繋げる。
しばらくのコール音の後、電話から聞き覚えのある厳つい声が来た。
「もしもし、所長?」
『おお、ナージャか。まったく、二度も話の途中で電話を切りやがって。どれだけ待ち焦がれたと思ってるんだ』
「…………」
確かナージャが最後に電話を切ったのは、所長が意味も分からず逆上してパウルのどうでもいい説明を延々と話していた時だ。
あの時はただ鬱陶しいとしか思えなかったのだが……
「所長、改めて訊きます。パウルのもう一つの罪状、いったい何なのですか?」
『……そうだな。正直これは、どう判断するべきか躊躇われる内容だ』
「?」
所長は予想済みのようだが、珍しく回りくどい言い回しをしている。
まるで、自分でもそれどどう見るかが迷ってしまうかのような……
『パウル・ロキ・シェロス。奴のもう一つの罪状……』
ナージャもオルトも電話の声に聴き入る。
ためらいがちに、しかしはっきりと所長の言葉が紡がれる。
『奴は……たった一人の人間の小娘を救う代わりに、世界を破滅の危機に追いやった男だ』
◇
「……パウル。これはいったいどういったことか、アタイに説明してもらえないか?」
第三太陽館。その中の会議室のように長い机と多くの椅子が並んだ所。
そこでは、机に囲まれるようにパウルが立っている。
ナージャに胸部を貫かれた形跡はもうすでにない。元のまま、戻った状態だ。
その周囲の机の向こうの椅子を、ユリ、ダリア、タンピーア、そして戻ってきたローズマリアと粉と油を洗い落としたアカシャが座っていた。
他の寵愛者は怪我の治療のためにここにはいないが、それだけでも十分威圧感のようなものが場を支配していた。
その中でも、一際強い気を放つ筋肉質の赤紫毛の少女ダリアは、まるで被告人から言葉を出させるように強い言葉でパウルを責める。
そんな中、明らかに立場の悪いパウルは、負けじと自らの言葉を供述する。
「……駄目だ」
「どうしてですこと?」
右側、ローズマリアが心配そうにパウルを見つめている。
それは、振り返ること少し前、見ず知らずの何者かがパウルに怪我を負わせたことだ。
後ろ姿で顔は見えないが間違いなく女性。しかもパウルに傷を負わせたのならただ者ではない。
「パウル様。先ほど戦場で見かけた見覚えのないあの女性はなんなんですの? なんでパウル様が刺されるのです? 石を狙う月華街の者ではありませんこと?」
ローズマリアの言葉に一同は不審を増す。
パウルも、振られてはいけない部分に、思わず唇をかむ。
しかし黙ったままではいけない。パウルは何とか言葉を探して話し出す。
「それも違う。彼女の狙いは僕だけのはず」
「どうしてそう言い切れますの?」
「それは……」
話すわけにはいかない。
後ろめたいことがあるからではない。彼女たちを巻き込まないために決して地獄のことを話してはならない。
「パウル様? いったいあのお方はなんなんですの?」
「…………」
だからこそ、パウルはシスカーから話を聞いてから考えに考えた、とっておきの言い訳を切り出した。
「彼女は僕の…………浮気相手だ」
「…………え?」
「「「………………」」」
瞬間、一気に部屋の温度が下がったような錯覚が起きた。
それどころか周囲の視線は一気に針のごとく尖り、殺意やら怒気やらが混ざり合い、嫌悪感まで少々感じる。
ただ……
「おぉう……パウル…………お盛んだねぇ……若いねぇ…………」
と、年寄りのようなことを言って変に感心するタンピーアと、
「へぇ。パウルぅ、後で紹介してくれない?」
空気を読まない発言をするユリは違うようだ。
「パウル。お前アタイ達をさし置いてなにをしていたのだ……!」
「いや、えっと…………」
ダリアが威圧するような目でパウルを睨む。
「ボク、パウル君のことちょっとだけ見損なったよ」
「それは…………」
アカシャが憐憫な目でパウルを憐れむ
「パウル様。なんて不潔な!」
「…………」
ローズマリアが拒絶するような表情で自分の体を抱く。
……予想してはいたが厳しい反応に、普段から優しくも芯の強いはずのパウルはよりいっそう萎縮してしまっている。
パウルの発言を全く疑っていない。あっさりと信じては軽蔑しているのも不思議なことだ。
「って、そんな言葉でアタイ達をだませるとでも思ったか」
「「え!?」」
……と言う訳でもなく、あっさりとパウルの言葉を嘘だと見破ったダリアは、先ほどまでの威圧感などスッっと飛んで行ったようで、すっかり元の静かな状態に戻った。
ユリもタンピーアもわかっていたかのように平静でいる。アカシャとローズマリアは素で驚いているようだが……
「い、いや本当だよ。彼女はその……あまりにも綺麗だったからつい魔が差して…………」
「嘘が下手すぎる。ローズマリアの話じゃ街の住民じゃなさそうだったが、いったいどうやって街から出られないお前が、外から来た女性とすぐに浮気できる」
「僕は……」
「そぅそぅ。パウルたらとんだ浮気者だけど、こそこそ隠れてすることでもないし、女性が欲しかったら堂々とプロポーズするもんね」
「…………」
完全に論破されてしまい、もはや彼に取りつく島もない。先ほどとは違う意味で取り乱してしまうパウル。
やはり苦しい言い訳だったか、地獄の使者が男の時の言い訳も用意したのだがそっちは無駄になってしまった。
「おまえとはもうかなり長い付き合いだ。今さらそんな嘘が通るとでも?」
「う、嘘なんかじゃ…………」
言葉では否定してもパウルの顔からは分かりやすいくらい大量の汗が流れ出している。
さらにはユリが面白そうに追い打ちをかける。
「もぅ、パウルっていったいユリたちのどこに不満があるのぉ? 言ってくれない?」
「……それは…………」
パウルは寵愛者に対して何の不満も不足もない。むしろもったいないと思えるほどだ。
たとえ嘘でも、愛する人のことを悪く言う事ができないとわかっていて、ユリはそう問いかけたのだ。
完全に沈黙するパウル。
沈黙が場を支配するが、周囲の様子から暗に本当のことを話せと問い詰められている。
もうだめなのかとパウルは葛藤するが……
「あ~……パウル。お前はいったい何相手に戦っているか知らんがなあ……そんなにお前自身でやらなきゃなんないことかねえ」
「タンピーア……」
と、ここでタンピーアが、やや回っていない呂律で問いかける。
酔ってはいるが目は真剣そのもの。その迫力にパウルは圧されることなく気丈に答える。
「ごめん。でも、僕が発端で起きたことだから、僕自身で決着をつけたい」
「何を他人行儀なことですの! わたくしたちにはできることがありませんの!」
「そうだよ! パウルったら今さらボクたちに隠し事!? そんなのあんまりだよ!」
「これだけは、いくら皆でも譲ることはできない!」
ここぞと言うときに来た強い主張が、周囲の寵愛者たちを圧倒する。
決して引いたりはしないと、そう思いパウルは断言する。
「女性関係で起きたトラブルは、僕自身が解決しないと意味はない!」
「…………まだ言ってるよ」
もう意味のない嘘をそれでもまだついた。
しかし言いたいことは伝わったのか、ダリアは呆れつつも理解した。
「……もうわかった。お前にとってそれは、女性関係以上に重要で、お前自身が解決しなければ意味のないことなのだな」
「……語弊があるけどその通りだ。決してみんなを低く見ているわけでも、ましてや信じていないわけでもない」
決して後ろめたいことはない。だから迷う事もない。
だからパウルは寵愛者たちの目を一人ひとり交して断言する。
「けど、これは僕の過去に起因することだ。だからここは僕にやらせてくれ」
「……わかった。そこまで言うならここは引き下がろう」
あまりの頑固さにダリアはとうとう折れた。
仕方のない子供を見るように、呆れた目でパウルを見るが、もう気の弱かった先ほどのパウルはいない。
罪悪ではなく、感謝と言う気持ちでパウルはただお礼を言った。
「ありがとう。ダリア」
「うんうん。でもねパウルぅ。もしも辛いと思ったらすぐユリたちに言ってね。もうパウルの命はパウルだけのものじゃないんだから」
「そうだね、ユリ。じゃあ、僕は行くよ」
そう言ってパウルはゆっくりと歩き、会議室の扉を潜りぬけて廊下へと言ってしまった。
取り残された寵愛者は各々、遺憾や不安などそれぞれの感情を交える。
「……いいのダリアさん。ボク、実際に戦ったけど、なんかあのお姉さん怖い人だよ。いろいろぶっかけられたしっ!」
「…………そうかい。仕方がないねえ」
「まあ、タンピーアさんまで! わたくしには見守るしかできませんの?」
「いやいやぁ、男にも譲れないプライドってあるもんよ。女の前じゃあかっこつけなきゃ生きていけねえ面倒な性質だ。けどなあ……」
酔いが醒めたか、タンピーアは清々しいまでの平常な状態でさらりととんでもない事を言う。
「パウルの事を制限したりはしなかった。けど、特にあたしたちの行動は制限しなかった。だったらどう動くか、勝手だよねえ」
「「…………あ」」
「おい!」
ダリアはその言葉を咎めるようにタンピーアを睨み付けるが、やっぱりどこ吹く風と言ったように気にしない。
一方でそれを聞いたアカシャとローズマリア、なにか思いついたかのように、すぐ何かしらの行動に移ろうとした。
まったく罪悪感もなく、責めるつもりのない白々しい言葉でタンピーアは言う。
「あ、けど男の秘密を探るなんて女としちゃあ無粋だぜ」
「命に関わる事ならば無粋でも放っておけませんわ」
「そうだよ! 第一ボクはあのお姉さんにいつの間にかなにかされたらしいよ! そう言う意味で僕は動くの!」
「おい!」
ダリアが諌めようとするが、もうアカシャもローズマリアも止まる気がしない。
止めにタンピーアがあんまり当てにならない注意をする。
「あんまりやり過ぎんなよ」
「当然だよ!」
「当然ですわ!」
「おい! ローズマリア! アカシャ!!」
ダリアの制止の声も届かず、ローズマリアもアカシャも、パウルの後を追うように扉の外へと行ってしまった。
寂しく残されたダリアは、もう何も言わないと疲れたように息を吐いて落ち着こうとするが、さらにややこしいことに……
「じゃあ、ユリもちょっと行こうかねぇ」
「ユリ!? お前まで何をしに行く!」
その上ユリも何かを企み、楽しそうにしている。
しかし行動原理はローズマリアやアカシャとは違う。
「うんうん、実はアカシャちゃんやパウルの言う女性がどんな人なのか気になってね。もしも会えたらちょっとね」
「…………そうか」
止めようとしたところで意味はないのだろう。
信頼なのか諦めなのか、もう投げやり気味に後を任せる。
「それにぃこれは勘だけどぉ、屋敷の侵入者とパウルの話、なんかつながってないかなって思うのぉ」
「なに!?」
「えへへぇ……あくまで勘だけどね。それじゃぁ」
「…………」
ユリはそう言うと、すぐにローズマリア達が通った後の扉を潜って行ってしまった。
しかしユリからの意外なセリフにダリアは驚き、いわれてみればと先ほどの事を思い返す。
確かにパウルの事で忘れてはいたが、謎の侵入者の事も気になる。
「パウル云々は置いといて、人様の屋敷に勝手に入った奴らを、放っておけると思うかねえ」
「…………わかった。だったら好きにしろ。アタイは、リュウゼーラン達の様子を見てくる」
「あー…………わかった。そんじゃあ、後はたのむわ」
そう言ってタンピーアはユリの後を追って、また一人廊下へと出て行った。
まだあまり離れていないので、大して急ごうとはせずにマイペースに進む。
ただ……
「さてと、アカシャの言ってたお姉さんねえ……」
思い返すのは、自分が追った侵入者たちの後ろ姿。
酒場で見かけた見ない顔。そこに一緒にいた犬。アカシャやローズマリアの目撃証言。
いくつものピースがタンピーアの中で不思議と回っているのだが……
とりあえず仲間を残して一人、歩いて行った。
パウルの過去とは……




