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2-5 迫る決断

 時は少し遡り、ナージャがバレリアの喫茶店を訪問するのと同時刻、第三太陽館の客室にて、二人の脱獄者がテーブルを挟んで対面に座っている。


 片方はこの館の主、パウル・ロキ・シェロス。礼服に似たかしこまった服装と、たった一つのアクセサリーである不思議な黄色い指輪をつけて、改まった様子で座っている。

 対して、もう片方は脱獄者たちの首謀者、シスカー・ベルベーニュ。意味不明な着こなしと、朱色の髪を後ろに人まとめた姿で、以外にも上品に整った姿勢で座っている。


 彼ら二人以外に人影は見当たらない。常にそばにいたサラカエラも姿を見せない。

 シスカーは、テーブルの上で湯気を放っている紅茶を手に取り、カップにゆっくりと口をつけて飲んだ。

 カップの持ち方も、音を出さない配慮も、口を着けてゆっくりとカップを傾く姿も……

 その仕草は、付け焼刃で身に着けた優雅さではなく、本当に見る者が見れば見惚れるほどの優雅さだった。

 ただし、本人の恰好が普通だったらの話だが。


「……うん、丁度いい暖かさ。鋭くキレがあっても嫌にならないこの味と香り、本当にあなたの入れた紅茶はおいしい。ヒハ!」

「……要件はなんだい? 僕は忙しいから、手短にお願いする」

「ヒハハ、おいおい。出してくれる紅茶は相変わらず本気なのに、態度は冷てえな」


 シスカーは大げさに頭を振りながら紅茶を飲み干し、その後懐から何かの骨付き肉が入ったタッパーを取り出し、肉を取り出しては直接手に取ってかじりだした。

 皮を舐め、肉を噛み千切り、油を吸い出し、骨をしゃぶる。

 その仕草は、先ほどとはまったく比べ物にならないくらい下劣だ。


「…………なにをしているんだい?」

「ヒュフフ、神竜のお肉だよ。これを食べたら精力がギンギンにみなぎっちゃう! ただしみなぎりすぎちゃって逆に死ぬけどいかが?」

「いらないから早く本題に入ってくれ。君がここにいるときはろくなことにならない」


 パウルにものすごく嫌な顔をされた。

 しかたがなく、まだ肉のついた骨をタッパーに仕舞い、それを懐にしまった。

 いつの間にそんな物を手に入れたのだろうか、全く持ってよくわからない奴だ。


「あらあら、嫌われたものね。博愛主義者の君に」

「そう思うなら今までしてきたこと、形だけでもいいから謝って……いや、そんなこと今はいい。早く本題を話してくれ」

「ヒュフフ、わかったってんだ」


 しかたが無いように紅茶のカップをソーサリーに戻したシスカーは、真剣なのか本気なのかよくわからない表情で、ここに来た真の目的を言う。


「訊いて驚け、ヒハ! 実はね、鬼さんの情報をキャッチした結果、地獄から私たち脱獄者を捕まえる使徒のようなものが、この街に来たんだよ?」

「! ……なぜ疑問形なんだい?」


 本題のはずが逆に問うように語りかけるシスカーだったが、とにかくその内容は衝撃的で危機的な話だ。

 パウル自身の危機だけに非ず、パウルが築きあげてきたものに対する危機でもあるからだ。

 相手の性格もそうだが、話の内容的にもそれが本当なのか訊かざるを得なかった。


「……本当かい? その話は」

「ヒハハ、本当だよ? 私はとにかく、鬼さんは嘘つかなーい!」


 シスカーは軽い調子で、自分よりもその情報源の方を信じるよう

 それでもパウルの表情は怪訝なままだ。今一つ信じられないのは……


「君もそうだが、君の言う“鬼さん”も信用しきれない。彼はいったいどういうつもりで……」

「ヒュフフ、そんなこといくら同じ脱獄者の君でもおしえなーい! …………ってね」


 相手の感情をかき乱すような甲高い声ではあるが、そろそろ冷静にならないと、と自分を戒めようとした途端に、


「……その上、その地獄の使徒さんはなんと、食いしん坊の美獣君を殺しちゃったそうだ」

「! ……美獣が、死んだ…………」


 シスカーは次々と訃報を流す。

 パウルの表面上では何も無いように言うが、声には悲壮感が隠しきれていなかった。


「ヒハ、哀しそうだね。腐ってもかつての仲間かい?」

「……彼とはもう袂を分けた。感傷など…………」

「そう。で、ここからが本題だよ」


 シスカーは、今度は懐からなにか小さいケースのようなものを取り出し、それを手の上で振ると、中から小さな錠剤がでできた。

 白、朱、薄い青などカラフルな錠剤を口の中に放り込み、今度はなにかの汁が入ったタッパーを取り出して飲み下した。


「……それはなに?」

「ヒハハ、神竜の骨で取った出し汁! これで作った汁麺は体に精力がみなぎって最高においしいと評判! でも、これ食べた人次から次に頑張りすぎて死んじゃったけど」

「……もういい。本当に嫌な趣味だよ君は」


 いったい何を思想に行動しているのかパウルにはまったくわからない。本当にいつもいつも何がしたいのかわからない。

 だからこそ、その本題とやらがいつもの無茶苦茶な要望かと思ったのだが……


「もしも君が、地獄の使徒に命を奪われたら、君の愛する女たちはどうなると思う?」


 ……ピクリ、とパウルは眉をひそめた。

 それは初めに地獄の使徒が来たと聞いて、まず最初に思ってしまったことだ。

 しかし、この謎だらけの脱獄者相手に弱みを見せず、パウルはあえて強く突き飛ばす。


「……僕が負けることを前提に話さないでくれ」

「ヒハハハハ! 私は本気だよ。強がっちゃダメ!」

「君が僕を思って骨を折るなんて、残念だけど信じられないよ」

「ヒハ、なぜ?」


 パウルはシスカーに対して常に態度が厳しい。目すら合わせていないため、不審と言ってもいいだろう。

 というのも、パウルはシスカーに対していい思い出どころか、悪い思い出しかない。


「君は僕に…………いや、僕たち対して、数々の非道な事をしたからだ」

「と、言うと?」

「……はぁ…………」


 なぜすっとぼけるのだろうか、本当に理解できないとため息をつき、仕方が無いようにこれまでの悪しき出来事を語り出す。


「タンピーアに僕になりすましてセクハラをしたことも、

 ローズマリアに僕の恥ずかしい写真を見せたのも、

 リュウゼーランを人質にとって『寵愛者とお金、どっちが大事なのよ!』って僕の金庫に爆弾を仕掛けたのも、

 スズナの外見をまぼろしとはいえ酷く変えたりしたのも、

 ディジーから僕に関する記憶を奪ったことも、

 アカシャを意味も分からずはちみつ漬けにしたことも、

 チュリチュップの知られたくない秘密を僕に勝手にバラしてその上それを本人に教えたことも、

 …………挙句にユリやダリアにいろいろと酷いことをして全部僕になすりつけたのも、全部君のせいだ!」


 話せば話すほど気分の高揚が止まらないパウルは、ついつい語気を荒げてしまった。

 いけないと反省するも、この怒りはどうも収まらない。


「ヒュフフフ! でもでも、

 タンポちゃんは「新鮮」とか言って笑って許してくれたし、

 ローズちゃんとは気まずい空気ながらもなし崩しに元の仲に戻ったし、

 リュウゼツちゃんを助けてなおかつ見事にお金を護ったし、

 スズナちゃんだって髪も皮膚もひどいありさまに見えるのに「それでも好きだ」って抱きしめたし、

 デイジちゃんの記憶がなくてもよく頑張った上で記憶は後で返したし、

 アカシアちゃんの場合はちみつの香りと味がする甘い少女になっちゃったし、

 チューリちゃんはショックを受けて引きこもったけど部屋の扉の前で君は何日も粘ったおかげで話し合う事は出来たし、

 ユリちゃんとダリアちゃんの誤解はちゃんと解けたじゃない。

……ホント、君を中心とした絆の糸は強いんだね!」


 ……シスカーに反省の気が全く感じられない。なおのことパウルを苛立たせる。

 まるで楽しかった思い出を語るようだ。シスカー以外誰も楽しんでいない様子だが。


「毎回毎回、人間関係に亀裂を入れるような真似はやめてくれ! それだけが君を許せないんだ!」

「えー、私がそんな事ばっかりしているとでも?」


 しかし、シスカーはまったく応えはせずにけらけら笑っている。

 認めたくはないが悔しそうにある事実をパウルは吐く。


「……確かに、皆の誕生日会の手伝いをしたことも、月華街の人たちに殺されそうになった仲間を救ったのも、街の喫茶店や飲食店の経営を助けたのも、あの子を連れてきてくれたことも、全部感謝している。けど、それとこれとでは話が違う」

「ヒュフフ、君は善で人を測るより、悪で人を測るのだな」

「半分違う。僕はまだいい。でも、みんなを巻き込むのはやめてくれ」

「そうだったな。自分<大事な他人、だからか。ヒハハハハ! だから君のような存在は稀有なんだ」


 そういうとシスカーは急にテーブルの上へ身を乗り出して、急速にパウルの所へ接近。


「!」

「…………だからついつい、いじめたくなるんだよ。私、珍しく君のことを気に入っているから、ね!」


 接近するシスカーは両手でパウルのほほを挟み、そして顔を近づけて……


「!? んむぅ!?」


 パウルの唇にシスカーの唇を強制的に重ねた。

 相当嫌なのか、パウルは全身を激しく動かして必死に抵抗する。


「ん―――――! ん―――――――!! ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」


 必死に足掻くこと十二秒…………


「…………ふぅ。ヒハハハハハハ。どんな気分だ?」

「……不愉快、だ……!」


 顔を離したシスカーの目の前で、パウルは顔を逸らして後ろを向きながら、腕で口元をごしごしと拭う。

 要件はシンプルなはずなのに、なぜこうも脱線ばかりするのだろうか。


「ごめんごめん、あんまりサラを待たせるのもあれだし、それじゃあパウル君。お前にこいつを渡そう」

「?」


 そう言ってシスカーは懐からあるものを取り出してそれをパウルに向けて投げた。パウルは反射的にそれをキャッチした。

受け取ったのは、なんだかよくわからない手のひらサイズの小型の鉄の板だ。

 二十年前に美獣が持っていたものによく似ているのだが、それがなんなのかさっぱりわからない。

 いらない、と言う前に珍しさゆえ好奇心が勝ってしまった。


「……これは? 確か二十年前に……」

「そ、こいつは鬼さんに渡された物をちょちょいと手を加えたものだ。もしも地獄の使徒で自分の命が危機に瀕している時、そこの『リダイヤル』って書かれているボタンを押せ。私が飛んで来て助けてあげる」

「…………」


 先ほどの問い、自分が死ねば自分が愛した女たちはどうなるのか。

 決まったこと、自惚れるつもりはないが自分が死ねばみんなは悲しんだりする。

 それがどれほどのことか、いったいどうなってしまうのか、近すぎる自分にはかえってわからない。

 だからこそそんな最悪な事態は起きてほしくない。その為ならどんな手でも使う。

 しかし……やはりこの脱獄者から貰う道具はやはり信用できない。


「……何度も言わせないでほしい。僕は負けるつもりも死ぬつもりもない。だからこんなものは……」

「ねぇ」


 だから返そうと、パウルはそれを拾って投げ返そうとした瞬間、入り口前までいたシスカーが、一拍も置かずに目の前へと急接近してきた。

 投げ返そうとする手を上から強制的に押さえつける。


今すぐ退避したい感情を制止し、真剣に話を聞く姿勢を取る。

 それだけ急接近したシスカーの、目隠しされた表情が真剣みを帯びていたからだ。


「パウル。お前は選ばなくてはならない」

「なにを?」

「誇りか、それとも自身の命か。己の為か、愛する者の為か。よーく秤にかけて、そしてよく考えた上で使え。それが私のお前に対する最後の試しだ」


 ……だから、なんで僕が負けることが前提なんだ。

 もはやそんな言葉をいう気力すらなくなってしまった。何を言っても聞かないのだろう。

 そう脱力するパウルの後ろに、ヒハハハハと笑い声をあげたシスカーは急速に扉から外へと走り去っていった。


「…………不思議だ、どうして僕はあんな奇天烈な人に気に入られたのだろう」


 その上、シスカーの言っていた地獄の使徒の存在。

 嘘だと思って切り捨てるもいいがそれにしては話が具体的だ。美獣が死んだ等とそんな嘘を引き合いに出して騙す気もないはずだ。

 その言葉が、心のうちに生じたざわめきのように駆け巡るのだが……


『パウル、ただ今帰ったわ。お湯を沸かしてちょうだい!』

『パウルぅ、ユリたちはがんばって来たよ! ご飯作って!』


 と、考え事をしていると客室の外から少女たちの大声が聞こえてきた。

 パウルの愛する人たちが帰ってきたのだ。


「! ダリア、ユリ、もう帰って来たのか……」


 ……確かに、シスカーは毎度嘘か本当か曖昧な事ばかり言う。

 今回だけはさすがに無視できる話ではない。事実かどうか、そしてどう対策をするべきか、悩ましい話だ。

 しかし、


「……さて、どうするべきか考える前に」


 まずは食事とお風呂場の準備を整えるために、大忙しと客室を出ることにした。



          ◇



 時は戻り、日照りが少し収まりだした昼下がりの頃。

 変装喫茶『サンライト』にて、ナージャは休憩時にバレリアにパウルの事をさらに訊こうとした。

 それなのだが……


「……本当に、パウル様は素晴らしいお方で、この街を護るために努力を惜しまない方なのです」

「…………そう」


 ……一体どこをどう間違えてしまったのだろうか、惚気話に発展させてしまった。

 表面上は無愛想な感じだが、内心イライラを募らせつつ黙って話を聞くナージャ。


「はい。事情がおありのようでこの街を離れることはできませんから、月華街の戦いには加われませんが、逆に月華街の方から攻めてきたときは、この街を護るために死力を尽くされるお方でした」


 初めに、この街を支える太陽の塔を守護するものとしての仕事ぶりを語る。

 曰く、街を護り、街を発展させ、住人達のより良い暮らしに貢献する。


「パウル様は素敵な方です。女性がとても好きな所が困った所ですが、そこもかわいらしいのです。現在パウル様は九人もの寵愛者がおられまして、誰一人なおざりにせず全員を強く愛されているのです」


 次に、多くの女性を娶られる好色家として、その誠実さと純愛ぶりを語る。

 現在九人もの愛する者をかけており、ひとりひとりの違いがあるも強い愛を注ぐ。

 その部分が、ナージャには全く理解できない。


「……意味が分からないわね。直接会ったことはないからなんとも言えないけど、女好きな男のどこに魅力があるの。そんなふらふらした浮気性な人が信用できるの?」


 直線的かつ厳しい言葉に、さすがのバレリアも苦笑する。

 しかし、そこに怒りは含まれていない。


「……ナージャさんは直線的ですね。ですが、パウル様は上辺だけじゃなく好きになった人には心の底から愛されるお方です」


 そう言ってバレリアは右手で自分の前髪を上げて、額をすべて出して自分の顔をよく見せた。

 そこには、いったいどういった事態が起きたのかを伺わせるほどの、ひどく焼け爛れた火傷の跡が約半分ほどある。

 一目見るだけで強く印象に残るだろう。悪い意味で人目を引く存在感だ。


「ナージャさんは、こんな顔を見て醜いと思いますか?」


 バレリアは唐突に、自分の顔についてどう印象を持たれているかをナージャに訊いた。

 その声には若干震えや怯えはなく、堂々としている。

 そんなバレリアに対し、ナージャは……


「……あんたは醜いと思っているの?」

「え?」

「別に、そんなのただの火傷の跡でしょ。醜かろうが何だろうが、知ったことではないわ」


 その言葉は、関わりのない他人がなんと言おうと、どうでもいいし知ることではないと言う事だ。

 その真意を察したか、そうでないか、バレリアは一瞬だけ目をぱちくりさせたが……


「………………ふふふ、意外な答えですけど、悪くない答えですね。私が目を付けただけあります」


 どうやら悪くはない答えだったようだ。もしかしたらこれまで酷い言葉を投げかけられたのだろうか。

 もっとも、そんなことナージャはまったく考えていない。あくまで自分と他人を区切ること言葉だからだ。


「でも、パウル様も素敵な事をしてくれました。かつて私と会った時、こんな醜い……いえ、そう見られる火傷の顔を……あの人は私の目をまっすぐ見据えて、それでも綺麗だと言って口づけをしてくれました」

「……へぇ」

「それが、あの人とのいい思い出です」


 と、うっとりしたように火傷跡のあるほほに手を当てて、うれしそうにバレリアは微笑みだした。

 そんなバレリアの表情に、ナージャは珍しくある質問をした。


「つまりパウルはあんたにも惚れていたってこと? あんたもパウルの『寵愛者』ってこと?」

「え? い、いえ……私は、そんなことが許される…………人では…………」


 意外な質問に目を丸くしたかと思えば、今度は否定を交えてなにか言いたくないように口をどもらせた。

 これ以上はなにも訊く必要はないらしく、ナージャは渋い顔をして思考に入る。


(結局、終始あまり役に立たない情報だったわね。訊いた相手が間違いだったかしら)


 終始、意味のない惚気話しか聞かなかったような気がする。

 だが、役に立たなかろうがそれ自体が全く無駄と言うわけでもなかった。


(しかし、パウルの奴は脱獄者でありながら現世の街に深く根を下ろしている。美獣の時のように死んでも誰も気づかないなんて事態は起こらない)


 つまり、ナージャは今の話からある一つの結論に達した。


(後始末が面倒ね。……脱獄者の分際で)


 パウルを再処刑すれば、その事態が広くこの街の住人の印象に深く残るだろう。

 いくら現世の人間と深くかかわるなと言われても、肝心の脱獄者が深い関係にあれば、面倒な事態は免れない。

 だが、だからと言ってパウルを再処刑することが躊躇われるかと思えば実はそうでもない。

 だが、問題はどのタイミングで向かうかだが……


「大変だ、みんな!!」

「!」

「店長!」


 その時、休憩室の扉から店長と呼ばれた男が、変装ではなく正装に正して入ってきた。

 表情からしてなにか切羽詰まった様子である。


 バレリアやナージャ、それ以外に休憩中の店員たちの視線が集中する。


「今すぐ店じまいをして避難所へ避難しろ! 奴らが来る!」

「店長! まさか……」

「月華街の奴らだ! パウル様たちが防衛に入るまで安全地帯に逃げるぞ!」


 月華街……その言葉を聞いた瞬間、休憩室内がざわざわとざわめきだした。

 陽光街の隣町である奴らが、攻めに入ってきたのだ。


(……へぇ、ちょうどいいタイミングじゃない)


 この瞬間、ナージャはこれを好機と捉えた。

 街の危機となるならば、先ほど話に出た守護者とやらも、前に出ざるを得ないだろう


(パウル・ロキ・シェロス。あんたがどれほどのものか、見させてもらうわ)


 パウルの実力やその他を見る為、ナージャは真っ先に地獄の技術が入ったケースの存在を確認した後、裏口から急いで外に出た。


「ナ、ナージャさん!?」


 バレリアの珍しくあわてた声も聞こえない。

 仕事着のまま路地裏から外へ出たナージャは、まずは自分の相棒の所在を確認するため、携帯電話を取り出し、例の番号を押した。

月華街、襲撃

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